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《ジムノペディ》パステル色の蝶


羽化すると、理想郷へ飛び立つという蝶がある。
それはパステル色の淡く美しい翅を持っており、
見た者は幸せになれるとされていた。

しかし、あるとき、
悪い王様が、これに目を付けて、
偽物の蝶を作った。
機械仕掛けでつくられた人工の蝶であり、
住民たちを監視するために作られたものだった。
背中に醜い製造番号が刻まれている
ということだけが、
本物と見分けることのできる唯一の特徴だったが、
万が一触れて壊してしまうと
王様に処刑されてしまうため、
蝶を見ると、
本物かどうかを確認することすら恐れて、
誰もが避けるようになってしまった。

こうして、幸福の象徴は、
いつの間にか畏怖の対象へと堕とされてしまった。

ある日、とある青年の前を、
ひらりひらりとパステル色の蝶が通りかかった。
青年はこの頃
人生がめっきりとうまくいっていなかった。
誘われるように、蝶を捕まえて、
後先も考えずに持っていたペンで突き刺した。
そしてバラバラにしてしまった。

青年はもう、
処刑されてしまっても構わない
というつもりでいたが、
よく見てみると、
その蝶には製造番号がなかった。
青年はたまらなくなって、涙を流し、
行き先を告げることなく旅立ってしまった。
青年がこの後どうなったかは、誰も知らない。

......さて、
今、あなたの目の前に美しいパステル色の蝶が、
ゆらゆらと空を飛んでいる。
果たしてそれは、
絶望の蝶なのか、希望の蝶なのか。

その答えは、捕まえてみないと分からない。

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