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《ジムノペディ》海鳴りの鐘

世界が終わる時に聴こえる音を
貴方は考えたことがあるだろうか。
これは、古くから地方で伝わる
世界の終わりについてのお話である。

この美しい世界は、
恐ろしい犠牲の上に成り立っている。
故郷のため、家族のためと脅されて
数多の者たちが
海に沈んで行かねばならないのだ。
しかし住民は、それを見て見ぬふりをする。
気づかないでいれば、幸せに暮らすことができた。
家族でさえ
弔うことはおろか、
語ることさえ許されないというのが
暗黙の了解であった。
そうして
もともと存在しなかったかのように扱ううちに
本当に記憶から消えていってしまうのだ。

犠牲者たちは
きっと自分だけは忘れないでいてくれると
信じていた。
しかし、冷たい海の底の眠りから目覚める時
全てを知ることになるのだ。
そして世界への復讐の始まりの徴として
その鐘を撞くのだという。

その音は、「海鳴りの鐘」と呼ばれる。
どんな音よりも澄んでいて
恐ろしくなる程美しい音色なのだという。
そして、そのうっとりとする調は、
海を狂わせ風を畝らせ大地を覆してしまうのだ。
生者は見捨てた者たちを思い起こし
赦しを乞う間もなく悪夢へと沈み、
もがきながら息絶える。
そして犠牲者たちは、
女神の子として楽園に棲うのだ。

この伝承が伝わる地域では、
世界の終わりが来ないための願掛けとして
音が鳴らないように細工をした
「鳴らずの鐘」を一人一人が持っている。
嵐が来ると、
鳴らずの鐘を握って祈りを捧げるのだ。
不思議なことに祈りの最中には
犠牲者たちが海の底で見ている夢を
見ることがあるのだそうだ。
そして、忘れてしまっていた大切な人のことを
ふと思い出すことがあるという。

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