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呉海 憂佳(yuuka kuremi)
2024年11月1日 17:54
夜風が涼しい。すっかり秋だ。 彼女はベランダに出て、白いプラスチックの椅子に座る。バーベキュー用のテーブルセットを常設してあるのだ。 タワーマンションでもなければ都心でもないので夜景が綺麗というわけではないのだが、彼女は田舎の、このこぢんまりとした団地のベランダで過ごすひとときを愛していた。すぐ近くの道路を走る車の音、部屋から漏れるテレビ番組の笑い声がなんだか落ち着く。 彼女は声が混ざる
2024年8月9日 19:25
夏の雲は空を流れて何処へゆくのだろうか。弥助は、墓地が見える丘で寝転がりながら煙草をくわえた。紫色の煙が空に向かって昇ってゆく。 お盆だというのに、この墓地には人っ子一人いない。貧しい弥助は、お下がりを頂戴しにわざわざやって来たのだったが、あてが外れてがっかりしていた。「一体どんなやつが眠ってるって言うんだ?」弥助はふらふらと立ち上がって、お盆参りにも来て貰えない仏たちを興味本位で見て
2024年8月3日 13:26
風鈴と戯れる子どもたちが、 私の目に青く眩しく映った。強烈な陽射しに透けてしまいそうなほど柔らかい髪を奔放になびかせて、子どもたちは駆けてゆく。洗いたての服をはためかせて、青々とした草木をゆらして、たのしそうに笑いながら、子どもたちは駆けてゆく。くるくると渦を描いたと思えば、まっすぐに疾走したりしながら、私の方へやってきて、すれ違いざまにハラリ、スカートの裾をめく
2024年7月12日 21:13
夏は夜。月を見たくて庭に出たけれど、今晩は新月だったみたい。でも、こんな夜は蛍が星のようで美しいのね。初めて知ったわ。夏は夜。こっそり家を抜け出して夜の森に忍び込んだら、妖精たちを見つけたんだ。悪戯好きの妖精のせいで森は大混乱だったけど、すごく楽しかったよ。夏は夜。最終列車に揺られて微睡んでいた時に、星が尾を引いて夜空にツーッと流れるのを見ました。まるで天を駆ける列車のようで、ふと、