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肩痛のナゼ?-理論編①-

「トレーニングで肩を痛めた」
「ベンチプレス、オーバーヘッドプレスで肩が痛い」
一度でもこういった症状や経験をした(している)パワーリフターやトレーニーは数知れず。

また「あの人は将来的にトレーニングで肩を痛める可能性がある」
といった、今は問題がなくても(症状がなくても)、潜在的に肩痛のリスクをかかえている方も数知れず。

肩痛はパワーリフターや、トレーニーにとって常に横にいる脅威といえるでしょう。

だからこそ、理学療法士やトレーナーだけが肩痛の知見を深めていても、"肩痛人"を減らすことは出来ません。

パワーリフターが
トレーニーが
トレーニングをしていない方も
「肩痛のナゼ?」を理解することで、肩痛のリスクを減らし、予防と改善が出来ると考えます。
そのために、余すことなく「肩痛のナゼ」を解説させていただきます。

出来る限りわかりやすく解説出来るように心がけますが、どうしても理解に難しい箇所も出てくると思います。また、とても長い回になります。
しかし、パワーリフティングで結果を出すためにも、トレーニーとして目標とする身体をつくりあげるためにも、是非根気強く最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

それでは「肩痛のナゼ?-理論編①-」スタートです。


1.結果

肩の痛み対して、結果と原因は分けて考える必要があります。
つまり肩が痛くなったのは結果で、原因ではありません。
だからこそ、その痛くなった結果の原因は何かを考え、対処する必要があります。

まず"主な"結果は3つ。

肩峰下滑液包の炎症による結果、痛みが出ている。
回旋筋腱板(主に棘上筋)の炎症or損傷(部分断裂)or断裂(完全断裂)による結果、痛みが出ている。
上腕二頭筋(長頭)の炎症or損傷or断裂による結果、痛みが出ている。
など

そして、肩の痛みでより多いケースが①と②です。

ⅰ.回旋筋腱板(ローテーターカフ)

肩関節(正式には肩甲上腕関節)は球関節に分類され、肘や膝などの関節に比べて自由度の高い動きができます。
しかし、自由度の高さと安定性は反比例します。
つまり、肩関節は不安定だからこそ自由度の高い動きを可能にしています。

肘や膝はご自身の身体を見てわかる通り、きっちりと骨と骨が組み合わさっていますが、肩関節はおちょこ(肩甲骨)とテニスボール(腕の骨)の比率くらいでしか組み合わさっていません。

そのため、肩関節は回旋筋腱板(ローテーターカフ)という4つの筋肉たち、身近な言葉でいうとインナーマッスル達が筆頭になって、腕の骨(テニスボール)と肩甲骨(おちょこ)をしっかりとくっつけて、スムーズな動きが出来るように肩関節を守っています。
当然、この回旋筋腱板のいずれかでも機能が低下したり、損傷、断裂したりすれば肩が外れやすくなったり、スムーズな動きが阻害されたりすることで症状は更に悪化していきます。

ⅱ.棘上筋

そして、その4つの回旋筋腱板の中でもダントツで痛めやすい部位が棘上筋です。
その理由は、棘上筋が通る場所に関係します。

棘上筋は肩甲骨の棘上窩という所から始まり、肩峰の下を通って上腕骨(腕の骨)の大結節という所に付着しています。

[右の肩甲骨を背面から見ている図]赤色の所が棘上筋です。
肩峰の下を通る棘上筋を上から見た図

この棘上筋が、"何らかの理由"で肩峰と上腕骨のトンネルの間で擦れたり、挟まれたりする状態をインピンジメント症候群といい、それによって炎症や損傷、断裂による痛みを招きます。

[右肩を正面から見た図]腱板(棘上筋)が断裂している図

ⅲ.肩峰下滑液包

また、肩峰と棘上筋の間には"肩峰下滑液包"という棘上筋を保護するクッション材のようなものがあり、肩関節のスムーズな動きもサポートしています。
これも棘上筋と同様に、トンネルの間で擦れたり、挟まれたりすると炎症を起こして痛みが出ます。

2.原因

その肩痛(インピンジメント症候群)を招く主な原因を、大きな要素(森)と、細かな要素(木)の2つに分けて、例を挙げます。
どちらも改善が必要な要素で、優劣はありません。

森と木、優劣はなくどちらも大事。

大きな要素とは、例えばフォーム修正や強度、頻度の調整などで、主にトレーニング自体の改善点を解説していきます。
細かな要素とは、肩を円滑に動かすために必要な構成組織のどこに問題(機能低下)をかかえているのかを割り出して、どのように対処するのか("肩痛のナゼ?-実践編-"にて)を解説していきます。

ⅰ.大きな要素

①肩関節にとって適切ではないフォームでトレーニングを行っている。
②他の種目に比べてプレス動作の頻度が多い、強度が日々高い、ボリュームが日々多い。
など

日常生活レベルであれば、後述する細かな要素に対するアプローチで多くは十分ですが、パワーリフターやトレーニーは、トレーニングをしていない方と比較して必要以上の負荷を肩に強いるわけですので、大きな要素も解決しないと、細かな要素に一生懸命アプローチをかけても、症状の予防・改善には至りません。

肩の痛み、違和感がある方の大多数は、フォームの改善(専門家の指導を強くすすめます)が必須です。次いで、頻度や強度の調整も必要です。
→トレーニングの目的や現在の身体機能によっては特定のプレス種目がそもそも、"これ"である必要がない場合や、禁忌(やってはいけない)となる方もいます。

エラー動作や適切なフォームの解説については膨大な量になり、個々の身体の状態、特性によって大きく変わり「このやり方が良い」「この方が力が入る」など、経験則だけで当てはめるのはとても危険です。
そのため専門家に、"対面で"サポートを受けることを強く推奨します。

いずれにせよ症状のレベルにもよりますが、基本的には休めば(使わなければ)良くも悪くも痛みは和らぎます。
ですが、それでは何の解決にもなっていません。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」

痛みが引いて、またトレーニングを再開すれば、いずれかのタイミングでまた痛め、それを繰り返していけば組織の伸張性や柔軟性が失われたり、組織の癒着、筋力の低下などが起きたりすることで、最適な肩関節の動きが阻害されて最悪の場合、損傷、断裂を起こします("細かな要素"で後述します)。
そうなる前に適切なフォームを習得し、頻度や強度の調整を行ってください。

しかし、言いっ放しは無責任。
ですので、万人向けに述べることが出来るフォームの注意点を1つご紹介します。

肩峰下滑液包や棘上筋にストレスがかかりやすい角度でトレーニングをしない、やりすぎない、または別の角度も取り入れる。

この時点では意味不明だと思いますので、少し説明させてください。

肩峰下滑液包や棘上筋に痛みを訴えている方には、ある特徴があります。
それがペインフルアークサイン(有痛弧徴候)です。

3.ペインフルアークサイン

ペインフルアークサイン

肩峰下滑液包や、棘上筋に問題がある方は、上図のように腕を持ち挙げたり、降ろした時に、60~120°くらいの角度域で肩に痛みが出る特徴があります。
→肩峰下滑液包や棘上筋にストレスがかかりやすい角度域が60~120°くらいだと覚えて下さい。

そのストレスを減らす方法があります。

その方法は以下のどれかです。
肩を
内旋位でトレーニングするのか。
・外旋位でトレーニングするのか。
・中間位でトレーニングをするのか。

ⅰ.内旋・外旋・中間位

《内旋?外旋?中間位?》
壁を背にして立っていただいて、「気をつけ」の姿勢をとってください。
手の平が太もも(横)についていると思います。
それが肩の中間位です。
手の平を壁の方に向けて下さい。
それが肩の内旋位です。
手の平を真正面に向けてください。
それが肩の外旋位です。

肩関節(1stポジション)の内旋・外旋

どういう意味かよくわからないと思いますので少し実験にお付き合いを。
気をつけの姿勢をとって、手のひらを床の方向に向けたまま、真横に腕を持ち挙げてみてください(下図参照)。

肩関節の外転運動

どうですか?
頭上まで挙がりましたか?
出来なかった、または肩に痛みが出たはずです。

人体の骨格の構造上、手のひらを下に向けたまま腕を持ち挙げると、下図(左)のように肩峰と腕の骨が衝突して、腕を180°挙げることができません。
そして、肩に問題をかかえている方は、この角度域で痛みが出やすいということです(下図右)。

では、どうしたら痛みを回避または減らすことができるのか。
それは簡単です。
途中で手のひらの向きを180°回転(手の平を下向きから上向きにする)して挙げてみてください(=肩関節を外旋)。

途中で肩関節を外旋することで、骨の衝突をさけて腕を挙げることができる。

そうすると多くの方が最初よりも腕が挙がったはずです。
それでも180°挙がらない、または痛みがある方は(痛みの減少でも)プレス動作は"今の時点では"禁忌です。
後述する"細かな要素"にしっかりアプローチをかけて、時間をかけて競技復帰、プレス種目を再開してください。

これが先述した「肩を内旋位でトレーニングするのか、外旋位でトレーニングするのか、中間位でトレーニングをするのか」のアンサーです。
つまり、肩のストレスが少ない肢位は肩の外旋位です。

ⅱ.痛みの特徴からリスクを回避

以上のことから、プレス種目を頻繁にする方や肩に痛みの症状がある方は、肩を外旋位(または中間位)の状態で行うプレス動作、プル動作などをトレーニングに取り入れると、肩へのストレスを減らすことができます。

ペインフルアークサインの角度域においてトレーニングをする際に、肩にストレスが少ない肢位順に並べると基本的には外旋位>中間位>内旋位です。

しかし、基本的には痛みがあるならば、プレス動作は控えてプル動作に専念してください(その理由は"細かな要素"で)。

トレーニング種目において、方法、フォームというものが最適化されていれば基本的には悪い種目、危険な種目はないと考えます。
「◯◯はしない方がいい」
「◯◯は危険だ」
と、ある種目を「危険だから止めるべきだ」と簡単に言ってしまう方がいますが、その多くはやりすぎ、重すぎ、フォームが間違っているだけで、種目のせいではなく個人の問題のケースが多いと考えます。
その大前提のうえで、ペインフルアークサインの角度域で肩に負荷がかかる、かかりやすいトレーニング種目は何か。

オーバーヘッドプレス
フロントレイズ
サイドレイズ
アップライトロー
ディップス
プルオーバー
などがありますが、トレーニングで肩を痛めるケースで多い種目はやはり高重量を扱える「ワイド(手幅の広い)ベンチプレス」です。

ナロー(手幅の狭い)ベンチプレスに比べて、ワイドベンチプレスの方が挙上距離が短くなる特性があるため、競技的に考えると戦略としてワイドベンチプレスを取り入れるパワーリフターは多いはずです。
しかし、ワイドベンチプレスの場合、多くの方が下図のように肩が60°以上開いたポジションでプレス動作を行うことになるため、肩へのストレスが増え、痛めるリスクが高まります。

競技的にベンチプレㇲを行っていない方は、基本的には60°を越えて脇を開かない。
いわゆるナローベンチプレスを推奨します。

しかし、ナローベンチプレスにもリスクがあります。
それが冒頭でお話した上腕二頭筋(長頭)へのストレス増大です。

①肩峰下滑液包の炎症による結果、痛みが出ている。
②腱板(主に棘上筋)の炎症or損傷(部分断裂)or断裂(完全断裂)による結果、痛みが出ている。
上腕二頭筋(長頭)の炎症or損傷(部分断裂)or断裂(完全断裂)による結果、痛みが出ている。

上腕二頭筋(長頭)が走行する結節間溝(右図の長頭腱の矢印辺り)周囲で痛めやすい。

手幅を狭くすることで、棘上筋や肩峰下滑液包へのストレスは減りますが、その分、上腕二頭筋(長頭)へのストレスが増えるため、ナローベンチプレスが肩にまったくストレスがないというわけではありません。

また、体重が軽い方に比べて、重い方は相対的に胸の厚みも高くなるため、ナローベンチプレスでもワイドベンチプレスでも挙上距離が短くなり肩のストレスは比較的少なく済みます。
そのため、体重が軽い方がベンチプレスを行う場合、ベンチプレスのアーチが低すぎると「挙上距離が更に長くなる=肩への負担が更に高まる」ため要注意です。

いずれにせよ、肩に物凄いストレッチ負荷(肩が伸ばされる負荷)がかかるトレーニングや、ペインフルアークサインの角度域でベンチプレスを行う場合は、熟練した技術と知識、そして疲労管理が必要です。

【その理由】
バーベルトレーニングは基本的に順手で持つことが多い=肩が内旋傾向になりやすいため。

先述した通り、最適なフォームで行うことが出来ない、組織が健康な状態ではない場合、バーベルで挙上動作を行うと肩が内旋傾向になりやすく、肩峰と腕の骨の間で棘上筋や肩峰下滑液包が挟まり、肩を痛めやすいです。
そのため、最適なフォームを覚えることが大前提のうえで

  • 試合の時期が近くなった時だけワイドベンチプレスを取り入れる。

  • 隔週、隔月で手幅や持ち方を変える。

  • バーベルだけではなく、スイスバーやダンベルも使う。

  • チクワ(スクワットパッド)を巻いて、ベンチプレスやオーバーヘッドプレスなどの挙上距離を意図的に短くする。

などの方法をとって、肩関節の疲労管理を行う習慣をつけてください。

4.どこが痛いのか

もし現段階で肩に痛みがある場合は以下の動作でセルフチェックを行ってください。
もし強い痛みが出たり、動作を完全に行うことが出来なかった場合、MRIを撮ることの出来る病院、クリニックなどに必ず受診してください。
超音波(エコー)でも、ある程度見ることが出来ますが、精査するためにはMRIで撮る必要があります。また、いわゆるレントゲンでは精査出来ません。
※MRIは予約制が多いため、受診したその日に撮れる可能性は低いです。また、撮影に30分程度時間を要すため、時間に余裕をもって受診してください。

《棘上筋に炎症・損傷・断裂の疑いがある場合①》

  1. 気をつけの姿勢をとる。その時、出来る限り良い姿勢をとってください。
    この時点で親指は真正面を向いています。

  2. 親指を斜め45°外に向けてください。

  3. 斜め45°の方向に向かって、胸の高さまで腕を持ち挙げます。

※画像では1kgのダンベルを持って行っていますが、最初は何も持たずに行ってください。
痛みが出たり、痛みで腕を持ち挙げられなかった場合、棘上筋に炎症、損傷、断裂の疑いがあります。
「痛いかも?」くらいの感じでしたら、少しの負荷を加えてみると症状が強くでるので、軽い重さでもう一度動作を行ってみてください。

《棘上筋に炎症・損傷・断裂の疑いがある場合②》

  1. 気をつけの姿勢をとる。その時、出来る限り良い姿勢をとってください。
    この時点で手の平が太ももについています。

  2. 手の甲を太ももにつけてください。

  3. 斜め45°の方向に向かって、胸の高さまで腕を持ち挙げます。

※画像では1kgのダンベルを持って行っていますが、最初は何も持たずに行ってください。
痛みが出たり、痛みで腕を持ち挙げられなかった場合、棘上筋に炎症、損傷、断裂の疑いがあります。
「痛いかも?」くらいの感じでしたら、少しの負荷を加えてみると症状が強くでるので、軽い重さでもう一度動作を行ってみてください。
①の方法よりも②の方法の方が強い痛みが出やすいため動作は慎重に行ってください。

《上腕二頭筋(長頭)に炎症・損傷・断裂の疑いがある場合①》

  1. 気をつけの姿勢をとる。その時、出来る限り良い姿勢をとってください。
    この時点で手の平を真正面に向けます。

  2. そこから真っ直ぐ正面に向かって腕を持ち挙げます。

痛みが出たり、痛みで腕を持ち挙げられなかった場合
→上腕二頭筋(長頭)に炎症、損傷、断裂の疑いがあります。

《上腕二頭筋(長頭)に炎症・損傷・断裂の疑いがある場合②》

  1. 方法は①と同様。その動きにあわせて反対側の腕で抵抗をかけながら腕を持ち挙げる。

痛みが出たり、痛みで腕を持ち挙げられなかった場合
→上腕二頭筋(長頭)に炎症、損傷、断裂の疑いがあります。

《上腕二頭筋(長頭)に炎症・損傷・断裂の疑いがある場合③》

  1. 胸の高さまで腕を持ち挙げて、手の平が天井に向いている状態で行う。

  2. 反対側の手で床の方向に力を加える。その抵抗に負けなように胸の高さで保持する。

  3. 次に手の平を床の方向に向け、同様に抵抗を加え、負けないように胸の高さで保持する。

①で痛みが出て、②で痛みが減少した(出なかった)場合
→より上腕二頭筋(長頭)の炎症、損傷、断裂の疑いが増す。

5.細かな要素

【細かな要素】
①"何らかの組織の機能が低下"したことで、肩関節の可動性(動かせる範囲)が制限されて、スムーズに動かすことが出来ない。
②肩関節(肩甲上腕関節)を構成する回旋筋腱板のどれか(または全て)の機能が低下している。
③肩甲胸郭関節を構成する筋肉のどれか(または全て)の機能が低下している。

「肩痛のナゼ?」の核心部が始まりましたが、ここからはもっと難解で長い話になるため今回はここまでです!
次回はトレーニングをしていない肩痛持ちの方にも共通している内容です。
肩に安全なトレーニングを行うために
肩痛を予防改善するために、次回も是非ご覧ください。

理論編①まとめ

決まった動作を繰り返せば、どれだけ気をつけても関節や軟部組織に何らかのストレスがかかります。
特にバーベルトレーニングでは順手で持つ種目、方法が多いため、肩関節が内旋位傾向になりやすいです。
そのため、プレス動作やプル動作を行うにしても、肩関節が外旋位または中間位のポジションで行う種目、方法を取り入れて、肩のオーバーユース(使いすぎ)による怪我のリスクを減らしてください。
また、週の頻度、強度、ボリュームの増減も隔週で変えたりするなどして肩の疲労管理も行ってください。

ご覧いただきありがとうございました。

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