見出し画像

[連載小説] オオカミは もうそこまで来ている #9 南海トラフの足音 希望の星 耐震等級3


夏美は、耐震等級3という希望の星を追いかけていた。

2回の震度7に耐えて
どの家にもほとんど被害がなかったという「耐震等級3」 
とは いったい何ものなのか?

建物が地震に耐える力には
「評点」「耐震等級」「耐震基準」この3ケの指標がある。

評点とは

建物の耐震性を示す計算値

建物の構造や壁の量など、様々な情報を入力し、専用のソフトで計算する。

評点 1.0未満は  「倒壊の恐れあり」
評点1.0~1.5未満で「一応倒壊しない」 ( 一応ね? コイツが問題だ )
評点1.5以上で   「倒壊しない」

りんご🍎で言えば、糖度、水分量などを計測して点数をつける感じかと思う。

耐震等級とは

建物が地震に耐えるレベル 要するに 建物の品質のランクを現している。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)

りんご🍎で言えば、
美味しさの点数を付けた上で、ランク分けをするという事になる。

耐震等級1は 評点1
耐震等級2は それ以上〜評点1.5未満
耐震等級3は 評点1.5以上

「耐震等級3の建物でなければ
地震に強い建物とは言えない」というのが、専門家の意見のようである。

耐震等級1

建築基準法で定められている最低限の耐震性能
 震度7の地震に1度は耐えて即時倒壊はしないが
そのまま住み続ける事はできない
 2度目の揺れに耐える保証はない

りんごに例えると
一応、商品としてお店に並べていいと政府が認めたレベルの味です



耐震等級2

耐震等級1の1.25倍の耐震性を備えていると評価される
震度7の地震にも耐えられ その後も一部の補修を行えば生活できる可能性がある
体育館や学校、病院などは、耐震等級2以上

りんごに例えると それなりの上等な品です

耐震等級3

耐震等級1の1.5倍の耐震性  震度7の地震にも耐えて
その後も一部の軽微な修繕のみで住み続けられると想定される
警察署や消防署 官庁や公共建築物は
耐震等級3レベルを満たしている事が多い

りんごに例えると とびきり美味しい最上級品です


耐震基準とは 

建物を建築する時の「建築基準法」

建物の品質で決まる  耐震等級1〜3のどれに該当するか
つまり どのレベルのりんごを採用しているか という話だ。

2000年以前の戸建て住宅は

    その多くが耐震強度不明という恐ろしさだ。
 りんごで言えば、甘さは? 大きさは? 虫食いは? 腐りかけてないか?
 よくわからない詰め合せになる。

2000年耐震基準は 

評点1.0の一応倒壊しないレベル 耐震等級1を義務化した。
建築基準法が守られていれば、2000年以降の建物は、最低でも評点1.0 耐震等級1 のはずだ。命だけは助かるが、住める家が残る保証はないというレベル。

 りんごで言えば
 商品としてお店に並べていいと政府が認めたもの
 甘さ 大きさは マアマアで さすがに 虫食い 腐りかけはないだろうが
 贈答品レベルではなく 家庭用といったところか…

地震に強いとされる耐震等級3 は 

建築基準法では義務化されていない。

2回の震度7でも、ほとんど被害がなかった個人住宅は、2000年耐震基準を超えて
耐震等級3までレベルを上げて設計されたものだ。
これが、現時点では最高クラスの耐震性を誇る住宅と言えるようだ。

警察署や消防署など、災害時に復興の拠点となる建物は、このクラスが義務付けられている。

 りんごで言えば
 贈答品に使える最上級品という事になる。


耐震改修工事について


地方自治体の多くは、
1981年の耐震基準以前の家屋に対して無料の耐震診断を行なっている。

倒壊の恐れがある評点1.0 未満を 一応倒壊しない 1.0まで引き上げる事が、国の耐震改修の最低基準になっている。
「震度7で、住める家は残らなくても 生命だけは助けよう」という方針だ。

能登半島地震の後、耐震工事の番組が テレビで繰り返し放映され
いろいろな工事方法が紹介されていた。

壁を強くしました。
金具を取り付けました。
こんなに安くできます、百万円以下で、大丈夫。
「これなら私にもできます、これでもう安心」と、おばあちゃんもにっこりしていた。

なっちゃんも、その時は「ふ〜ん」という程度の関心しかなかった。

だが、今にして思えば
あれは「震度7でも、生命だけは助かる」というレベルの話にすぎない。
もちろん、やらないよりはずっといい。

だけど
「これでもう安心」と、にっこりしたおばあちゃんは、本当にそれが分かっていただろうか?

生命だけは助かっても
住む家も家財道具も失い、避難所 仮設住宅 というコースになる。
そして、住宅ローンは残る。 
仮設住宅に住める期限が来たら、後は自力でなんとかして下さい。
これは、もはや心配どころか、恐怖そのものだ。

なっちゃんは、初めて父さんの心配がはっきり見えてきた気がした。

能登半島地震で
「この家は、耐震工事をしてあったからなんとか助かった」
と玄関先でインタビューに答えた女性がいた。

「その代わり、家一軒建てるほど、お金がかかった」とも言った。
耐震工事で、耐震等級3まで持ってゆくには、大変なお金がかかる。
建てる時から組み込むなら ともかく、今さら誰もができる金額じゃない。

だが、住まいを守り抜く事こそが、最も重要な防災だろう。


一人ひとりの暮らし、それぞれの住まいこそが、社会を構成する核ではないか。

地震大国の日本で

政府は、なぜ震度7でも住み続けられる建築基準法に

できなかったのか?


せめて、現在の建築基準法 耐震等級1では

震度7で、住まいを失う可能性がある事を

周知すべきではないか?


それが、夏美が今一番問いかけたい事だった。


<  作者からのお願い  >

建物が地震に耐える3ケのポイント
「耐震基準」「耐震等級」「評点 」について
わかりやすく説明するのは、かなり難しい。

分かりにくい点が多々あるかと思いますが
南海トラフで想定される震度7に、ご自分の住まいが本当に安全なのか
考えるきっかけになればと願ってこの物語を書いています。

どうぞ よろしくお願いします。


#連載小説 #オオカミ #南海トラフ #建築基準法 #耐震改修工事 #震度7
#地震大国 #防災 #倒壊 #耐震診断 #仮設住宅 #評点 #耐震等級 #耐震基準 #耐震等級3

いいなと思ったら応援しよう!