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短編小説 : 最後のバッター

『最後のバッター』
第1章: 「最後のバッター」
桐谷翔(きりたに しょう)は、地方の小さな高校野球部のエースピッチャーであり、誰もがその投球に高い期待を寄せていた。しかし、翔自身はその期待に応えきれていないと感じていた。チームは順調に県大会に向けて準備を進めているが、翔には常に「最後のバッター」という不安がつきまとっていた。
ある日の練習後、先輩の中嶋(なかじま)がふとつぶやいた。「翔、お前、もし最後のバッターに打たれて試合が終わったらどうする?」その言葉は翔の心に深く刻まれた。
それまではあまり考えたことのない「最後のバッター」。だが、中嶋の言葉が頭から離れなくなった翔は、次第にその場面をどうしても避けなければならないと感じるようになる。彼は完璧な投手になりたいという欲求に駆られ、練習に没頭し始める。しかし、その思いが彼を孤立させ、周囲との関係がぎくしゃくし始める。
第2章: 孤独と焦り
翔は次第に、仲間たちとのコミュニケーションを疎かにしてしまう。練習の合間も一人で投げ込み、完璧な投球を目指して続けていたが、チームの仲間たちは次第に彼の背中に距離を感じ始めていた。そんなある日、副キャプテンの高木(たかぎ)が翔に言った。
「翔、お前、投げることばかりにこだわってないか?試合は一人で勝つものじゃないんだぞ。勝つためには、みんなの力が必要なんだ。」
その言葉に翔は一瞬驚いたが、すぐにその意味を理解できなかった。翔は心の中で「でも、俺が最後のバッターを打ち取らなきゃ、勝てないんだ」と思い込み続ける。
練習を重ねるごとに、翔はかつて感じたことがなかった「焦り」を感じるようになる。投げても投げても、何かが足りない――自分に足りないもの、そしてチームに足りないものが何かを考え続ける日々。
第3章: 新たな投球と覚悟
試合の前日、翔は一人で校舎の裏のグラウンドに足を運んだ。月明かりの下で、誰もいない夜のグラウンドでひたすら投げ込んでいた。その時、ふと自分の中で何かが変わった気がした。無駄に変化球を増やしても、肝心の「勝利」には繋がらないということに気づいたのだ。
「試合で大事なのは、最後のバッターを打ち取ることじゃない。自分の心をしっかり持ち、みんなと力を合わせて戦うことだ。」翔は、自分に言い聞かせるように、心の中で誓った。
その夜、翔は自分にとって本当に大切なものを再確認した。そして、練習の焦りを捨て、改めて「チーム」として戦う覚悟を決める。
第4章: 予選開幕
迎えた甲子園予選初戦。翔は初回から安定した投球を見せ、試合は順調に進んでいた。だが、試合は予想外の展開を迎える。相手チームは粘り強く反撃し、最終回、翔のチームは1点リードで最終回を迎えた。しかし、相手には無死一三塁のチャンスが回ってきた。
「最後のバッター」がやってくる瞬間、翔は不安とともに冷静さを保っていた。しかし、翔の心の中で、あの中嶋先輩の言葉が再びよみがえった。「最後のバッターだけにこだわるな。」その瞬間、翔はふと目を閉じ、深呼吸をした。
第5章: 勝利のために
試合は最終回、最後のバッターが打席に立った。翔はその瞬間を迎えるために準備していた。だが、翔はただの「最後のバッター」に集中するのではなく、あらゆることに気を配りながら投げた。守備陣を信じ、打線を信じ、自分の力を信じる――全てが一つになったその時、翔は心から投げた。
相手打者はスイングしたが、空振り三振。試合はそのまま終わり、翔のチームは勝利を手にした。翔はその瞬間、心から安堵し、涙がこぼれた。試合後、仲間たちと喜びを分かち合う中で、翔は初めて気づく。「勝利を手にするのは、一人ではなく、みんなで戦ったからだ。」
第6章: 新たな誓い
試合後、翔はインタビューでこう答えた。「今日は、最後のバッターを打ち取ることだけを考えていた。でも、気づいたんです。勝つためには、最後のバッターだけにこだわるんじゃなくて、チーム全員で力を合わせることが大切だと。」
翔はその瞬間から、さらに一段と成長した。これからは「最後のバッター」を意識するのではなく、チームとして戦い続けることが、甲子園への最短の道であると強く感じた。
そして、翔はこの経験を胸に、甲子園を目指し、仲間たちと共に更なる戦いに挑んでいくのだった。



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