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🍎偏差値45の教員。先生になる


大丈夫だと思った前向きさも、朝になると泡になる。とにかく何をするにも怖くて仕方がない。

今日は生徒が午前中だけ登校をし、入学式の体育館準備をする日だ。職員会議で出されたプリントをジャージのポケットの中に入れ、体育館に集まる。
まずは、新2.3年生に新しく着任した先生達の自己紹介をする。体育館のステージにゾロっと一列に並ぶ。体育座りしている中学生達がステージに注目をする。恥ずかしくて消えたくなった。名前が呼ばれた後に、一歩前に出て一言挨拶をして一歩下がる。緊張する。
「横山はるか先生、国語の先生です。」と、名前が呼ばれた。一歩前に出る。お辞儀をして
「よろしくお願いします。」と言った。
自分の声を久しぶりに聞いた気がする。顔を上げると生徒同士が顔を向き合わせて、何か言ってるようだった。やばい。聞こえていないのかもしれない。急遽買ったジャージは風通しがよく、体を小さくするには充分だ。やっぱり教員なんて、向いてないよ。そう思い、ステージから降りて生徒を見ると何人かの生徒が小さく手を振ってきて、安心した。

作業が開始する。私は1年生の教室掃除とトイレ掃除、廊下掃除の担当だ。どうやって1人で3つの班も見るんだ、と、思いながら1年生のフロアに向かう。

生徒達が班ごとでまとまって掃除をしていた。思ったより真面目に掃除をする中学生を見て安心した。どの子も静かに一生懸命掃除をしている。何もしないのも悪い気がして、一緒にとりあえず掃除をしてみた。雑巾を絞るのなんて、何年振りだろうか。汚れた水が溜まっているバケツの中に手を突っ込む。冷たくて手が赤くなる。廊下や教室の机を生徒の真似をしながら綺麗に拭く。何とか時間内に終わらせられた。

掃除が終わり、体育館に移動中に生徒が話しかけてきた。

「先生、新卒でしょ?22歳とか?」
「そうだよ。よろしくね。」
「この学校さ、若い先生少ないですよねー。」
「今年初めて先生しているから、他の学校がわからないなぁ。」
「ふーん。あー、先生、ネイルしてんだ。かわいいー。」
「あっ、本当だ。先生ってネイルしていいんだー。ずるーい。」
「何言ってるの。先生ならネイルしていいんだよ。そうですよね。」
「うん、まぁ、そうなのかな。」
「へぇー。」
「先生、うちの兄貴と同じ年齢だよ。」
「おー、まじか。」
「じゃあ、私のお母さん何歳だと思う?」
「え?42歳とか?」
「ん?違うよー。今30歳。」
「えー若いねー。」

中学生時代、先生が怖くて気安く話しかけられなかったけれど、今の中学生は先生と友達感覚なのか、私が若いからなのか人懐っこく感じた。とにかく、生徒の中には打ち解けられそうで、安心をした。生徒に話しかけられると嬉しくて、私も学生時代にどんどん先生と話せばよかったと思ったが、やはり無理だと思った陰気な自分がいる。



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