🍎偏差値45の教員。先生になる
会議は図書室で行われた。席が決まってないので空いてた席に適当に座り、会議資料に目を通す。
ふむ。何度読んでも何もわからない。さっぱり理解できないが、理解したフリをするのは授業中に何度もしてきたから得意だ。この方法で乗り切ることにした。
職員の自己紹介から始まった会議では、初めて従来働いていた先生達の名前と教科を知ることができた。
今日の午前中は、新しく着任した先生達のために、市立曙中学校の基本的な概要の説明から始まった。
教頭が勤務時間について説明する。「職員の皆さんの勤務時間は8時15分から16時45分です。」どうやら、毎日8時15分までに職員室の出勤簿に印を押せばいいらしい。
それにしても、学校の会議というのは思ったよりザワザワしていて、方々から雑談のような話し声が聞こえてくる。そんなに堅苦しくなくていいようだ。緊張で固まっていた首を回し、肩の力を抜いた。
続いて、ジャージを着ている部活動担当の先生から部活動時間の説明があった。
「朝練は7時半から開始になります。7時15分まで生徒は校舎内に入らないようにしてください。また、放課後の練習時間は日が長い10月までは6時15分終了、6時半下校となります。」
資料の前のページを開き、勤務時間を確認した。隣に座っている先生に、
「勤務時間と部活動時間が違うんですけど、どうしてですか?」と、聞いてみた。
一瞬、時が止まったのを感じた。立っている部活動担当の先生がこちらを睨んでいる。後ろの席でため息が聞こえた。手に持っていたペンを机に叩く音も聞こえた。しまった。
言ってはいけないことだったのか、辺りをキョロキョロ見渡す。校長と目が合ったが、時計を見るフリをした。
隣の先生に「会議中だから静かにして。」と、言われた。
カッと顔が赤くなり目を見開いていないと涙が出てきそうになる。何がいけなかったのか。会社説明会では、どの企業も残業が無いこと、残業代が出ることをアピールしてきて採用担当者は貼りついた笑顔で学生の質問には何でも答えてくれた。駄目なこともわからなければ、わからないこともわからないということは、私の体を再び縮こませるには充分だった。
私と私以外の先生でここの世界は分断されている。この世界の歯車に噛み合わない私は、流れ着いた学校現場の世界でも爪弾きにされるのだろうか。何がいけなかったのか今までの人生を思い出したが結局わからないままだった。
何もなかったのように、部活動担当の先生がそのまま部活動配置の説明をする。私は女子バスケ部の副顧問で、松島先生という体型がいいベテランの社会の男の先生と組むことになった。松島先生をチラ見するが、目線を逸らされた気がした。
学生時代に見てきた私の知っている先生というものとは、かけ離れていた。