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わからん子ちゃん


私には、わからんことがあります。

あの子の話の内容も、みんなが私のことをジロジロ見る理由も、何もわからんとです。

季節の移り変わりもわからんし、1日の終わりもわからんとです。いつが昼か、夜かもわからんです。

私には、わからんことが多いのです。先生やお医者さんに質問されても、わからんから、わからんと答えています。いつ着替えて良いのかがわからんから、同じ洋服のまま寝て起きる毎日です。

突然、家に来た先生がお母さんと深刻な話をしていました。隣で、何を話しているのかわからんから、机の上に置かれたお菓子ばかり食べとりました。時々、お母さんに、食べるの辞めなさい、と言われました。食べたかったのに、クッキーを取り上げられてしまいました。お腹がシクシクしている気がしました。

先生が、またね、と、言いました。またね、がわからんとです。またね、があるのでしょうか。

先生が帰ったあと、お母さんに自分の部屋に連れてかれました。ピシャリとしまった襖の中は、真っ暗で何もわからんとです。
自分の部屋の中では、背負ったことがない赤いランドセルだけが私を出迎えてくれます。

体育座りにならないと、頭がぶつかります。体育座りをして襖の間から漏れる光と話し声をジッと聞いています。私には、わからんことが多いから。何もわかっていません。

お医者さんに、お母さんのご飯が美味しいか聞かれました。わからんから、わからんとだけ答えました。お母さんの料理が何かわからんです。

お父さんは優しいか聞かれました。わからんから、わからんと答えました。どの人がお父さんか、わからんです。

わからんことが、沢山あります。わからんから、わからん、と言っていたら誰にも相手にされなくなりました。体育座りでも、頭が天井にぶつかるようになりました。ランドセルを枕にして横になって過ごす毎日です。何も変わらん毎日です。

もしもし、聞こえていますか。私の名前は、わからん子です。

わからんけれど、暗い部屋で、布団の埃の臭いがする中で指を噛みながら、時々、髪の毛をしゃぶりながら、シクシク過ごしています。
シクシク、シクシク、しています。

この感情の理由がわからんです。でも、わからん子でよかったです。

もしもし、聞こえていますか。こちら、わからん子です。あなたのことを待っています。



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