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「北アルプス国際芸術祭」に行く日帰り旅~全部見るなら3日間は必要。でも1日だけでも素晴らしい時間だった~




1 芸術祭の玄関口 信濃大町駅

信濃大町駅

 松本駅から大糸線に乗り、約1時間。信濃大町駅に到着した。
 駅を降りて歩き出すと、漬物、お茶、りんご、ゼリイなどの無料おもてなしのテントがある。地域を挙げて歓迎してもらっていることが伝わってきた。

2 市街地エリアの作品を観る


芸術祭のパスポート


インフォメーションセンターで無料配布してもらった信濃大町の湧水 美味しいお水でした

 まずは、駅の向かいにある芸術祭のインフォメーションセンターへ行き、パスポートを購入。芸術祭では35もの芸術作品が展示されている。スタッフの人に、おすすめのまわり方を聞き、それを参考にしながら見学スタートすることに。スタッフの皆さんは、親切でフレンドリーだった。午前は「市街地エリア」を徒歩で見てまわる。午後は少し離れたエリアを巡るアートバスを予約していた。
 さっそく見学へ。

 以下、①〜の番号は、作品番号。ほぼ見学した順に、写真とコメントをのせます。

①「私は大町で一冊の本に出逢った」ジミー・リャオ(幾米)(台湾)@市街地エリア 信濃大町駅前広場

「書童」


 かわいらしい一対の彫刻作品。カラフルな色合いは、気持ちが明るくなる。作者ジミー・リャオは台湾のベストセラー絵本作家。

②「熱の連帯」(足湯) 村上慧(日本) @市街地エリア 信濃大町駅前広場

藁の小屋の中は 足湯
ただいま足湯中 
小屋の中から外の景色が見える。前上に足湯の説明板あり

 インパクトの強い、体験型作品だった。藁の小屋に足湯。落ち葉の足湯は生まれて初めてだ。落ち葉についた微生物が発酵熱を作り出す足湯。温度は42℃前後。そこへ靴を脱いだ足にビニール袋を履いて「入浴」する。温かく、なんだかほっこりする。ここはちょっとした非日常の世界。作家は「命が生きることは熱を生み出し続けることである」と語る。まさにまさにそうなんだと実感する。

③「居酒屋MOGUS」 ムルヤナ(インドネシア) @市街地エリア 駅前飲み屋街

居酒屋Mogos の外観
毛糸で作られた食材で製作したフードモンスター
フードモンスターの作品たち

 元スナックの小さな店舗へ入ると、毛糸で作られた鮮やかな色のお弁当の食材が、カゴに入って並べられている。好きな食材を選んで想像上の「フードモンスター」を作ろうという体験型作品。毛糸で作られたたくさんの種類の野菜や果物やおかずはカラフルで手触りもやさしい。順番待ちになっていて、体験は断念。でも、雰囲気は味わえた。

④「時に宿る」山本基(日本)@市街地エリア、塩の道ちょうじや  


塩の道ちょうじやの玄関
塩で作られたアート 

 塩の道ちょうじやの看板を入る。千国街道の宿場町として栄えた大町の歴史を物語る「塩の道ちょうじや」は普段から有料で館内が見学できる。江戸時代に松本藩から塩問屋を任せられた庄屋であった平林家の建物。明治時代からは味噌、醤油を作ってきた。大町初の国登録有形文化財に登録。貴重な歴史的建物だ。
 塩を使って作られた作品は、見た瞬間「おおっ」と声が出そうになった。塩でこんなにも美しい世界が作れるとは…
「私は若くしてこの世を去った大切な人との思い出を忘れないため、また忘却に抗うための仕掛けとして、浄化や清めを喚起させる塩で描き続けてきた」と作家は語る。作家の思いが込められた作品。「忘却に抗うための仕掛けとして」という言葉に、秘められた思いの深さを感じる。会期終了後は作品を壊し、塩は海に戻すのだそうだ。

⑤「自然の美しさと調和」ポウラ・ニチョ・クメズ(グアテマラ)@市街地エリア 書麓アルプ

「自然の美しさと調和」


 マヤ文化をベースに描く女性画家の作品。信濃大町を訪れて感じた北アルプスの自然と人との関係性をマヤ文化特有の世界観で描いている。全体的にあたたかな雰囲気を感じる作品。後ろに描かれている山が映える。
 展示されているのは、山や自然にまつわる本が多く並ぶ古書店の一階。この作品を見学したことで、この建物3階にある素敵なカフェとの出逢いに繋がった。この建物は、もとは呉服店だったものをリノベーションしている。

 

3 素敵な和スイーツタイムとランチ

〇創舎わちがい の和デザート「水ゼリー」

栗林家のお屋敷  今は郷土料理の店わちがい
水ゼリーはとびきり上品な和スイーツ
琥珀糖 「北アの雫」 まるで宝石 


「わちがい」とは室町時代から大町市中心地に佇む「栗林家」の屋号。代々この地で大庄屋を務めた屋敷を明治時代からの造りをそのままに、郷土料理の店としている。私たちはここで和スイーツをいただくことに。ゆっくりと時が流れる空間で、歴史を感じながらいただいた清らかな和デザート「水ゼリー」は、忘れられない味になった。大町のおいしい水だけで作られたゼリイは、ほのかに甘みがある。ゼリイの下には特別なリンゴを煮たもの。食感も味も絶妙なバランスだった。建物も、デザートも、まさに芸術だった。

〇 カフェ「三俣山荘図書室」でランチを
 1階は山や自然にまつわる本が多く並ぶ古書店「書麓アルプ」、その奥に階段があり、3階までのぼると、山好きな人が集まりそうなカフェがある。黒部源流の稜線にある「三俣山荘」の経営者が営んでいるブックカフェだ。山の本や登山用品なども置いてある。広いテラス席もあり、街の景色が見おろせる。コーヒーと信州サーモンのホットサンドを注文した。どちらもおいしかった。コーヒーは山で使うカップで出され、たっぷりの量、アウトドアで飲んでいるような気分になる。ゆっくりしたくなる空間だった。かつては、映像の鑑賞会などもここでやっていたそうだ。わかりにくい場所にある階段を3階までのぼらないとたどり着けない、隠れ家的なカフェ。旅先では「気になる場所には行ってみる」をモットーにしているが、素敵なカフェに出逢えてよかった。帰りに1階の古書店で200円の古文庫本を1冊買った。

カフェ 三俣山荘
開放的なテラス席
フォカッチャのサンドイッチ
小皿のナッツを添えて出される

4 アートバスで午後の見学へ ~なぜこの地で芸術祭がおこなわれるのか~

 インフォメーションセンター前から、アートバスに乗った。バスは3コースあって定員20人。予約制であることに気づいて前日に慌てて予約した。(この日は当日朝でもまだ空きがあった)アートバスはABCの3コースあり、私たちはAコース午後便を予約していた。午前便と午後便がある。Aコースは、東山エリアと仁科三湖エリアの木崎湖畔、中綱湖畔などを3時間20分で7つの作品を巡る。13時20分発、16時40分着。運転手さんの他に、ガイドの方が1名同乗して案内してくださる。

アートバスではこのステッカーを貼つて乗車する

㉗ 「記憶の眠り」佐々木 類(日本)@東山エリア 旧中村家住宅
 会場は国の重要文化財である築300年の茅葺屋根の古民家の馬屋。植物をガラスに閉じ込めた、ガラスのインスタレーション。植物と泡がガラスの中でライトの光を浴びて緑色に浮かび上がる。美しく、神秘的だ。

旧中村家住宅


「記憶の眠り」
美しい作品だった

㉘ 「黒い跡」ソ・ミンジョン(韓国) @東山エリア 美麻二重屋内ゲートボール場 

「黒い跡」

 会場は屋内ゲートボール場。炭化した大きな木、熱で溶けた発泡スチロール。木という自然物と自然界で分解されることのない人工的な発泡スチロールの対比。人間と自然との関係を問いかけている。

⑳ 水をあそぶ「光の劇場」 木村崇人(日本)@仁科三湖エリア
 舞台は木崎湖畔の空き家。「あそぶこと」を通じて水と人のつながりを探るアートプロジェクト。作品と湖とが一体になって作り上げている世界だった。 

二階建ての空き家が会場 


庭に遊覧ボート 見学者が自由に絵を描ける 
ガイドさんいわく「今日はクオリティーが高い」
懐かしいテレビがある
見学者が自由に書いていい黒板

㉑「ささやきは嵐の目のなかに」ケリ  ントン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレット(カナダ)@仁科三湖エリア  木崎湖畔  

 この作品は、新聞にも写真が掲載され、今回1番見たかった作品。当たり前だけれど、実物は写真以上の迫力と美しさだった。光学インスタレーションというらしい。円形の眼鏡のレンズ、レンズ、レンズ、その数2万個。レンズが光を通すとどうなるか。きれいとか神秘的とかいうありきたりの言葉では言い表せない。光のあたり方で見え方が変わるので、ずっと見ていたくなる風景。内側にも入ることができ、そちら側からレンズを通して外側を見るのも不思議な感覚だった。 


バスを降りてしばらく歩くと、作品が見えてくる
2万個のレンズ
森と一体の作品。美しい

 奥の湖畔では、ちょうど結婚式がおこなわれていた。

 
㉔ 「水の記憶」アレクサンドラ・コヴァレ&佐藤敬/KASA  (日本・ロシア) @仁科三湖エリア 中綱湖畔

会場は中綱湖
夕方に近づいていた


 仁科三湖の真ん中に位置する中綱湖。「水」をモチーフにした作品。ちょうど曇っていて残念。晴れていたらもっときれいに見えたであろう。中綱湖自体が静かで落ち着いた場所であることが印象に残っている。その湖の奥にそっとたたずむ作品だった。作品は多くのことを語りかけていたのかもしれない。

㉕ 「やまのえまつり」コタケマン(日本) @仁科三湖エリア ふるさと創造館ラーバン中綱
 衝撃的な作品だった。体育館のような大きい施設に展示された巨大な作品に圧倒されたが、メーキング映像を見てさらに圧倒された。「やまのえまつり」がなにものなのか分かった時に、作品とともに展示されていたものの数々が何を意味するのか理解した。地域住民参加型芸術とでもいうのか、とにかくとてもメーキングが楽しそうで、できあがった作品もユニークで迫力がある。もし、機会があれば、私も参加してみたい。たのしいだろうな。コタケマンという名を忘れることはないだろう。


やまのえまつり

㉖ 「種の民話 ーたねのみんわー」  崎 誓(日本)@仁科三湖エリア ふるさと創造館ラーバン中綱
 この作品は、施設内の「カフェ&レストラン YAMANBA」の一角に展示されている。小さな種で作られた作品。どれくらい膨大な時間をかけて作られたのだろう。六角形の大きな作品には種で作られた世界があった。 

たねのみんわ


作品の近くに種の入ったたくさんの小瓶
これも芸術作品


 ここの売店では、まつたけも売られている。(注 いつもではないらしい)

5 夕方のコーヒータイムと松本「おきな堂」の夕食

 アートバスの旅を終え、バスから降りる。
 松本へ向かう大糸線の電車には、まだ時間があった。駅のとなりのテントを通りかかると、まだお漬物とお茶のおもてなしをしていた。まったりとお漬物やりんごとお茶をいただきながら、今後の日程をふたりで相談した。

3種類のお漬物、りんご、どれもおいしかった


 松本まで行って夕食をとることに決め、電車の時間まで信濃大町駅に近い「茶房かじか」に入る。ビルの2階にある喫茶店は歴史を感じさせるレトロな雰囲気で、入り口の木製のショーケースにはメニューのサンプルが並ぶ。ウィンナーコーヒーを注文する。昔ながらのホイップたっぷりのウィンナーコーヒー、おいしかった。

茶房かじか 入口
正統派のウィンナーコーヒー

 電車で松本に向かう。夕食のお店は「時代遅れの洋食屋 おきな堂」に決め、駅から歩く。土曜日の夜だからか、街に活気を感じた。若者が多い。国宝松本城というシンボルもある。
 おきな堂は、店名の前にみずから「時代遅れの洋食屋」とつけてしまうあたりユニーク。全然時代遅れなんかではない。レトロで素敵なお店。待ちが入ることもある人気店だが(店の外には、入店待ち用の椅子が並んでいる)、今回は待たずに入れた。オムライス&煮込みハンバーグを注文。オムライスは思っていたより小さかったが、私にはちょうどいいボリュームで、おいしかった。他のお客さんのポークステーキが見えたが、肉厚でとてもおいしそうだった。次回はそれにしてみようか。

サラダは二人でシェア
おきな堂 オムライス&煮こみハンバーグ ソースがおいしい

 夕食後、少しだけ繩手通りを歩いてみた。ほとんどお店は閉まっていたが、飲食店はやっているところもあった。駅まで戻る途中で、ライブをやっているお店があり、ワンドリンク付き2000円などと書いてあった。松本の夜はいい感じだ。ゆっくり松本へ来るのもいいと思った。


6 最後に 〜北アルプス国際芸術祭に行ってみて〜

 

各会場の受付でスタンプを押してもらう 
11 作品を見学した


 私たちは、11作品を見ることができた。作品は35ある。全部見るには3日間は必要だと思われる。泊りがけで来る人も多く、近隣のホテルは満室だと聞いた。
 作品を巡りながら、ティータイムやランチも楽しめたし、私たちは大満足だった。芸術作品も素晴らしかったし、この地域の自然は本当に宝物だし、大町という街に歴史があるから古い価値あるものが多くあり、ポテンシャルのあるいい街だった。そして、どこでも人があたたかかった。
 言い古された言葉ではあるけれど、「百聞は一見に如かず」 だと思う。旅には出てみるものだ。

 この芸術祭は3年に一度開催されている。今年は9月13日〜11月4日まで。水曜日定休。次は2027年の予定。

 この日の歩数18398歩、
 歩行距離13.4km  

◎最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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