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【連載小説】百日草 ④

山田 武夫は 妻 明子の死に関して不審を抱き 何としても事実をあきらかにし、病院に対して賠償を求めるためできる限りの行動をした。
それによっての賠償金 、大金 が、欲しかったわけではない。
病院側に罪を償ってほしかったのだ。

遺族の願いも虚しく、病院側は事故(医療ミス) の事実を決して認めなかった。
職員はただ頭をさげるだけ。
担当医も看護婦たちも そして院長も、遺族の前に全くすがたを見せない。
誠意などは皆無であった。

今の時代、医療事故、交通事故等の賠償問題は 毎日のように ニュース等でとりあげられている。
しかし 昭和の時代は今ほど容易にとりあげられなかった。

たとえ 運よくお金持ちで弁護士を雇うことができたとしても 、大金がかかり、そして医者には医者の世界があり 専門的な知識がない一般人には事故の事実と真実を暴くのはとても難しいことであった。

当時 、山田武夫はタクシーの運転手をしていた。
生活は不規則なうえに 稼ぎも安定していなかった。
明子は生前 、夫の収入を補うため家事育児のあいまに 内職をしていた。
留美と理恵を連れて仕事をもらいに 工場へと公園の並木道を来る日も来る日も歩いてかよった。

その日を生きていくのに一日一日が精一杯の山田家に訴訟を起こす経済的余裕などなかった。

結局 山田一家は明子の医療事故死について 詳細を調べることも出来ず 泣き寝入りせざるを得なくなる。
















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