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肥満の科学-ヒトはなぜ太るのか リチャード・J・ジョンソン~~~推薦の辞
本書は、脂肪蓄積モード(本書内でサバイバルスイッチと呼ぶ)の存在と、そのキーになる食物、生活習慣を代謝の研究者が語った本である。既知の部分もあると思うが、果糖の摂取、水分摂取の不足、塩・ウマ味調味料の摂取、食後高血糖の寄与、尿酸の寄与などを幅広いポイントの指摘がある。サバイバルスイッチが入った状態で、安静時代謝の低下が生じる点は重要な割に広く知られていないと感じる。
本書を子の成長や学業と肥満抑制の両立で悩む親、ハードなカロリー削減でも痩せられないと悩む人、健康指導の知識をアップデートしたい人などに広く勧める。ちなみにアフィリエイトはなし、読者がせめて3ケタになったら考えよう!
最初の知見は、果糖の大量摂取により細胞内で飢餓状態の模倣(ATPレベル低下)が生じ、以下の状態がセットで生じることの発見であった。
・空腹感。食物への渇望。
・衝動性(よく言えば迅速な判断)と攻撃性。
・安静時の代謝低下(30%以上におよぶ)
・インスリン抵抗性。必要酸素量の低下。
・血圧上昇。塩分貯蔵。
・脂肪産生の増加、グリコーゲン蓄積
これは、秋生りの果物の摂取をきっかけに、冬の飢餓に耐えられる体を作る意味があり、多くの温血動物に共通性がある。その後研究が進むにつれて 果糖の大量摂取以外に、このサバイバルスイッチを入れてしまう食物、習慣が明らかになった。
・ウマ味調味料の大量摂取
・水分の摂取不足(スープ、甘味のある飲料、牛乳等は水の代わりにならない可能性)、塩分過多も同じ結果に。
・高GI食品の摂取による食後高血糖
・尿酸値が高い
・その他、酸素濃度不足(高地)、低血圧、脱水状態、心臓発作時など体の 危機状態でも体内で果糖が産生され、同様にスイッチが入る。
本書内で触れられていないが、本書の知見はダイエットを頑張りすぎるヤセ型女子の一部に、インスリン抵抗性が発現する仕組みを説明する。脱水、低血圧などのストレスに反応して、インスリン抵抗性を含むサバイバルスイッチが入った代謝状態に移行してしまうのだ。インスリン抵抗性は、脳と重要な臓器を保護するため、筋肉などでブドウ糖が消費されない様にする、という意味でサバイバル適応ではないかとしている。
推奨している食事法は、ごく緩やかな低炭水化物食で、目標が体重維持または軽い減量であれば食事制限を伴わない。
・添加糖類(果糖・ブドウ糖・液糖などの表示名で飲料や加工食品に入って
いるもの、砂糖)を、甘いドリンクとしては禁止、食事からの摂取量合計の最終的な目標は、総摂取カロリーの5%以下にする。砂糖はブドウ糖+果糖の2糖類なので、好ましくない。マルトース、一部のオリゴ糖は分解後にブドウ糖しか生じないので望ましい。
・高GI食品は抑制気味に。食後高血糖の最大値が120mg/dlになる習慣が目標値になる。(可能なら持続的血糖値モニタリング※を実施)
・尿総量が、少なくとも1.5Lが望ましい。できれば2.5-3Lになるように十分な水分摂取。塩分摂取は5-6g/dayが、現実的かつ少な目の目標値。
・うま味食品は抑制。ビールは止める事を推奨。乳製品の摂取は悪くない。うま味食品の抑制の観点から赤身肉は週2回とか抑えるべき。(ほかの日は、魚、鶏肉など)
・コーヒー、茶、ブラックチョコレート、ビタミンC、ビタミンDの摂取を推奨。
・果物は、ジュースやジャムに加工した形で摂取しない、生で、できれば一日3-4回に分けて食べるとよい。一度の摂取する果糖の量の上限が6gくらい。少量の果糖は腸で直ちに代謝されて、肝臓(スイッチのありか)に届かない。かつ果物の健康効果というものも認められる。
・油についての推奨内容は、WESTはやや不足を感じる。
(WESTはショートニングや固形のヤシ油の入った加工食品、スナック類を控える事や、EPA/DHA/その他ω3の摂取、ココナッツオイル・MCTオイルの利用などに触れてほしかった。)
※持続的血糖値モニタリングは、最近処方箋がなくても利用可能になっている。本体よりセンサー部が高く(8000円程度)、最長14日間使用可能(使用後使い捨て)というものの4日程度でエラーになる事もあるとのこと。