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【心の成長】どうしてわたしはあの子じゃないの

ある日ふらっと立ち寄った本屋で、棚に並んでいる沢山の本の中から背表紙に惹かれてジャケ買いした一冊。
人も、本も、一期一会。

※この記事は本の内容を含みます。(ネタバレ注意)



【概要】

佐賀県の山奥にある田舎町・肘差で育ち、閉鎖的な空気に嫌気がさしていた中学2年生・天(てん)。
容姿端麗で天に思いを寄せる幼馴染・藤生(ふじお)。
小2の時に東京から越してきて、その恵まれた容姿によって人気者のお嬢様系女子・ミナ。
3人の同級生の思いは複雑に交差し、それぞれが「あの子になりたい」と言う思いを抱えて過ごしていた。

その田舎町では毎年”浮立(ふりゅう)”と言う祭事が行われ、天が中2の年も執り行われる予定だったが当日、原因不明の火事により中止となり、そこから長らく開催は見送られることとなった。

火事により伝統行事が中止となったまさにその日、天は一人、家出を試みていた。
村の人間に見つかり家出は失敗に終わったが、その出来事をきっかけに天と藤生には距離ができてしまう。

中学卒業を目前にしたある日、ミナの発案で再び3人は集まりそれぞれが抱いている思いを手紙に残すことにした。20歳になったらまたみんなで集まって、この手紙を開くことを約束して。

それから15年の歳月が過ぎ、”浮立”が復活すると言う話を聞いたミナが声をかけ、30歳になった同級生3人は地元肘差で再会することに。そこで明かされるあの頃は言えなかった思いとは。


【感想】

きっと誰もが一度と言わず抱えたことのある「あの子になりたい」と言う気持ちに向き合った作品。

子供の頃と大人になった今を対比させることで、善悪は一旦端に置いて自分の素直な気持ちをシンプルに表現し、のちに冷静に見つめる構図になっている。

人は必ずしも綺麗なもの、美しいもの、正しいものを見聞きして成長するのではなく
見苦しい、汚い、間違っているものに触れて、自分の中に価値観を作り上げていくのだろう。

14歳と30歳。どちらも今の自分と未来の自分を比較して、少しだけ大人に近づく為に行動したり、また、何かを諦めたりするような節目の年齢に思う。

14歳は色々な人、出来事を通して
『自と他』・『選ばれたものと選ばれなかったもの』
などを比べて羨ましく思う時代。
それは僅かでも希望や夢があって、それに届かないから。
「私もあっち側に行けるかも知れない。」と言う望みがあるから。

30歳は経験、挫折を通して
「もう、わたしはわたしなりにやっていくしかない。」
と、少しずつあるがままの自分を受け入れていく時代。
決して夢や希望を捨てたわけではないが、
人生に対する勝負の仕方を変えていく、そんな時。

自分の人生を俯瞰して見ることはなかなか難しいが、この3人を通して自分にも多少なりともあったであろう心の成長を確認できた気がする。

※九州女子中学生連続殺人事件が何か大きな鍵になるのかと思ったけど、あくまでもこの事件は『自分』と『被害者』の対比に用意された出来事だった。
(日頃、ミステリー小説ばかり読んでいるせいか、事件と出てくると「解決しなければ!」と意気込んでしまう…)


【おわりに】

コロナ禍と言うこともあって、書店に足を運ぶ機会も以前に比べると減っていることを認めざるを得ず
電子書籍で読書欲を満たしている日々だったのですが、
久しぶりのハードカバーで紙の良さを再確認しました。

買いたてのピシッと角の揃ったキラキラした本が
読み進めるにつれて手に馴染んでくる感じ。

たまらんなあ。



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