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「をんごく」北沢陶(2023)ー浪速怪異ミステリ×バディものー


今回読んだ本

「をんごく」北沢陶(2023)

本書のあらすじ

 大正時代末期。舞台は大阪は心斎橋。関東大震災の折、妻を喪った絵描きの主人公古瀬壮一郎は、巫女に妻の降霊を依頼する。上手くいかないと巫女に言われ失意のまま帰宅すると妻のようでいて歪な何かに出くわす。妻の霊について探るうち、古瀬は「エリマキ」という見たものの心に想う人の顔を浮かび上がらせる怪異と出会う。エリマキは霊を喰らう存在であるが妻の霊に喰らうことを阻まれたという。古瀬はエリマキと共に妻の霊、そしてその背後にある謎を解き明かすために大阪を奔走していく。

見どころ

 大正時代末期の大阪という舞台設定において自然な関西弁、流麗な文体。その当時の空気を感じさせてくれるような雰囲気作りが絶妙。
 本作は、横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞しており、どちらのジャンルの要素を含んでいるが、おどろおどろしいホラーというよりは、切なさを含んだ怪異冒険奇譚という趣である。それが時代設定とマッチしており、するするとページが進んでいくのである。
 また、主人公と怪異というバディものの要素を含んでいて二人の関係性の深まっていくにつれて展開が加速してく点が申し分ない。

感想

 怪異・ミステリ・ホラー、バディものといえば、23年公開された「幾多郎誕生 ゲゲゲの謎」が思い浮かばれる。名作であるが、本書もそれに通じるものを感じた。
 やはり魅力的な怪異あるいは異形のものには、何かそそられるものがある。本書の「エリマキ」は主人公にとってはのっぺらぼうのような顔に見えるのだが、出会う市井の人たちにとってはそれぞれの大事な人の顔に見えるのだ。それが「エリマキ」自身のほんとうの自分は一体何なのだという根源的な問いへと繋がっていく。
 本書の視点は、基本的には主人公である古瀬自身のものであるが、「エリマキ」からの視点を想像しながら読み進めるのも面白いと思う。
 怪異を喰らうという食欲を満たすに足る餌の提供主として見ていた主人公に対して、もしかするとほんとうの自分というものを解き明かしてくれるのではという淡い期待を持ちながら適宜、自分自身がどう見えるのかと問うシーンは、読後振り返ってみると切ないものを感じてしまう。
 バディものというのは、このように二人の関係性が深まっていく中でそれぞれのそれぞれに対する思いと物語の展開が絡み合いながら加速していく点がとても楽しい部分だと思う。

終わりに

 正直にいうと、事前情報なしで読み進める前はもっとホラーテイストの強いものなのかなと思っていた。
 ただ良い意味で裏切られたというか、切なさやほろ苦さを含んだビタースイートなホラーミステリーであった。
 アニメ映画化するとすごく今の若い世代にも受け入れられそうな作品だと思う。
 アニメ化するならエリマキは諏訪部順一氏が良いなと思うこの頃であった。

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