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エッセイ『モノクロームの中で』

日が暮れて、
すっかり月が夜を支配し出した頃に、
なんとなく、夜散歩に出た。

私はこの『なんとなく』を信用してる。
その正体を知るのに、晴れた日の夜散歩は適してる。

この季節、少し歩くだけでは汗ばむ事は無く、
頬をかすめるわずかに冷たい風は、
何を欲しているかを教えてくれる。

明かりの灯るコンビニには入らず、
薄暗い公園脇の自販機で、ホットの缶コーヒーを買った。

缶コーヒーで手を温めながら、
公園内のベンチに座る。

遊具の少ない公園は、夜の明かりも乏しいけど、
だからこそ、私は『なんとなく』な夜散歩でここに来る。


昼間には姿を隠していたモノたちが、
意識せずとも目に入り、
対照的な昼間と不思議と結びつく。


私は今、色とりどりの空間に居たくない。
公園からも見える、窓から漏れる室内灯の明かり。

それは、私の姿も、表情も、
昼間に抱えた想いまで、照らしてしまうから、
家族に心配かけない言葉を残し、夜散歩に出てきた。
私は、薄暗い公園でその輪郭を消す。

けれど、向き合わなければいけない。
根底にあるその気持ち。
それに気付かせてくれるから、
『なんとなく』は信用できる。

コーヒーを飲みながら、
はぁっと息を空に向けて吐いてみた。
まだ息は白くならない。
息を吐いたその先に目線を動かし、
夜空に輝く星を見た。

月はマンションに隠れ、見えないけど、
都会の明かりに輝きの一部を奪われた、わずかな星が輝いてる。

『なんとなく』眺め続け、
『なんとなく』昼間の想いを振り返った。


どれくらい眺めていただろう。
コーヒーはもう冷たくて、
私の前を、何人もが通り過ぎた。

寂しさを連想させる状況だけど、
私はちっとも寂しくなくて、
むしろ、
多くの彩りや明るさにその存在を消されていた正体を
見つけ始めていた。


どうして人は、
白い紙に黒い小さな点が付くとそれを『汚点』とし、
黒い紙に白い小さな点が付くとそれを『希望』と感じるんだろう。
それは、空のよう。
明るい空に、黒い煙を見つけた時のよう。
暗い夜空に、小さく輝く星を見つけた時のよう。

グレーはなぜ、中途半端なイメージにされがちなんだろう。
白か、黒か。
それだけで、決められないモノの方が多い。
大切なのは、そのグレーの向き。
黒だったモノが、
一生懸命に白になろうと『努力しているグレー』なのか、
白だったものが、
黒に染まっていっている『堕落のグレー』なのか、
どちら向きのグレーなのかは、伝わりにくい。



昼間の想いの正体の
明確な答えは出なかったけど、
心は納得した。

答えが出たら、
私は躍起になってしまう。
事の終息の為に、あらゆる行動に出てしまい、
その結果、また新たな想いを抱える事になる。
見つけ始めていたのは、
語れるほどでも無い程度の心の気付き。

夜散歩は、晴れた日に、
『なんとなく』を信じて出るのがいい。

もう私は、色とりどりの空間に、
自然と帰れる。

そして、帰りはいつも、少し早足になる。

出る時は、黙ったまま自分で鍵をかけた。

輪郭を取り戻した私は、
『なんとなく』インターホンを押す。

ガチャリ。

「おかえり。」

「うん、ただいま。」


夜空よ、ありがとう。
朝日よ、待っててね。


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