映画『ビーキーパー』感想
予告編
↓
PG-12指定
かぎかっこ
新年一発目の劇場鑑賞。
予告編映像から期待した通りというか、もはや「主演:ジェイソン・ステイサム」以上の説明は不要なんじゃないか。彼が主演のアクション映画……それはもう、如何に「ジェイソン・ステイサム」を使いこなすかに他ならない笑。
僕が直近で(とはいえ2~3年前?)感想文に起こした彼の主演作は『キャッシュトラック』なのですが、ベースとなる感想はほとんど一緒かもしれません。設定上は一般人を気取っている、でも眼光が鋭すぎるために、どう転んでもパンピーには見えない。今か今かと観客が待ち焦がれる中、遂に(隠せてはいなかったけど)その隠された実力が露わになる瞬間、皆が「待ってました!」と声を上げたくなること必至。
ただただジェイソン・ステイサムお馴染みの魅力が際立つシンプルなストーリーです。PG指定といえど、各シーンでの出血量は控え目に感じられる程度でしたので、お正月休みに観に行く娯楽エンタメアクションとしては最高の一本だったと思います。
そんな本作の面白さの一つは、やはりタイトルにもなっている「ビーキーパー/養蜂家」という “呼称そのもの”。ジェイソン演じる主人公のアダム・クレイは養蜂家であり、それは単に「ミツバチを飼育している人」を指しているだけに過ぎません。でも、その意味合いが次第に変化していく。(まぁ前述した通り、その眼光や佇まい一つで“ただの養蜂家ではない”ことが観客には一瞬でバレてしまっているのですが笑、そこはご愛嬌)
言葉の意味——ビーキーパー/養蜂家——は通じるのに、どうしても話が通じないという違和感。原音にせよ日本語吹き替え版にせよ、本来セリフは音としてしか認識されず、色や形を持たぬもの。「養蜂家」という単語を耳にする際、聞き手にとってそれはあくまでも養蜂家——ミツバチを飼育している人、または蜜猟など飼育を生業としている人——という意味しか示さない。
にも関わらず、その言葉に〈 〉や “ ” といった特別な鍵カッコが感じられてくるのが面白い。不意を突くように別の意味合いが浮かび上がってくるんです。
しかしそれを醸し出していたのは、セリフのニュアンスや映像の雰囲気といった不確かな気配によるもののみ。けれども確実に観客は、この見えない・聞こえないはずの鍵カッコを感じることができるはず。
僕は字幕版での鑑賞だったのですが、素晴らしいことに日本語字幕にも特別な鍵カッコが付けられていない。「今の “ビーキーパー” というセリフは、普通の養蜂家を指していたのか、それとも“あの養蜂家”を指していたのか」……そんなことを感じながら、もはや思わせぶりも甚だしい、イカつい存在感漂うジェイソン・ステイサムを味わうことをオススメしたいです。
一方、鍵カッコの有無だけでなく、蜂がアイコン的に機能していたように見えることも魅力の一つ。たとえば『バットマン』におけるコウモリ、『スパイダーマン』における蜘蛛などなど。役割や立場、能力を示す言葉以上に、それ一つだけで象徴的に見えるものであり、観客に何かしらを想起させ得るもの。特殊能力や超能力が存在する世界観ではない(それどころか丸腰での戦いが目立つ)本作ですが、どこかアメコミヒーロー、それもアンチヒーロー作品にも似た雰囲気が醸成されていた気がします。「蜂の巣」や「六角形」等々、蜂に関するものが意味ありげに映し出される度、ジェイソン・ステイサムという存在感も相まって、それだけで見応えが担保される。
あんまり詳しくないけど、ジェイソン・ステイサム主演作でこういうアイコンが印象的な作品って他にあったでしょうか……? まぁ既に彼自身がアクションスターとしてアイコンとも呼べる存在になっていますが笑。
そう考えると、先述した『キャッシュトラック』も同様、そもそもジェイソン・ステイサムそのものが鍵カッコ付きの存在なのかもしれません。
さて、本項冒頭でも述べたように「最高」なんて言いたくなってしまう本作は、上記のような個性だけにあぐらをかいておらず、観ていて楽しい瞬間が他にもたくさんあるんです。
例えばアクションシーンにおいても、殴る蹴るといった殴打音がやや大きめで、且つ「メキャッ」とか、普通に殴っただけじゃそんな音出ないだろwと言いたくなる音も混じっており、その身一つで戦いを繰り広げるクレイの異質な強さが窺い知れてくる。
また、多対一という構図も然ることながら、先述した通り丸腰での戦闘も目立つため、より一層「オレTUEEE(つえええ)」感がほとばしっていました。
敵を欺くギミックや全てを予期していたかのような事前準備など、事態が上手く運ばれていく辻褄合わせも描かれていたのですが、単純に「まぁジェイソン・ステイサムだし、そうなるよね」と思わせてくれるのもサイコーです。
どこまで計算尽くなのかわからない用意周到さ、そして目的を達しさえすればその後は描かれない華麗な幕引きなど、どこかゴルゴ13にも似た魅力があったのも個人的には好きなポイント。
とはいえ、念には念を入れる性分とは対照的に、わざわざ敵の本拠地や敵軍の中に堂々と踏み入る姿も描かれる。臆病というか警戒心の高さ故の用意周到さとは裏腹な行動にも見えますが、「蜂の巣を突いてしまった」と狼狽える敵方とは対照的な “平然と敵の巣に乗り込む” という姿が描かれたことによって、彼のヤバさが強調されていたんじゃないかな。……それはもはやミツバチどころかスズメバチなんじゃないだろうか笑。
強さと同時に冷酷さやヤバさを知らしめる “指切断” が、二回目の際には別の目的のための行為になっていたり、ヴェローナ(エミー・レイバー=ランプマン)の「処刑はさせない」というセリフが、ラストになって再び活きてきたりなど、反復する見せ方も光っており、見応え抜群の「ジェイソン・ステイサムみ」にも劣らない魅力が詰まった痛快リベンジアクション映画でした。
【関連作感想文】
・映画『キャッシュトラック』感想|どいひー映画日記