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映画『チャレンジャーズ』感想

予告編
 ↓

PG-12指定



 投稿するの忘れてた感想文。年末で感想文の整理してたらデータが出てきまして、折角なので投稿。


共依存


 とあるプロテニス大会の決勝戦から物語が始まる本作。トップ選手ながらもスランプ気味のアート・ドナルドソン(マイク・ファイスト)の対戦相手は、パトリック・ズワイグ(ジョシュ・オコナー)という選手。試合が始まりラリーが続く中、コートの中央、アンパイアの後ろから次第にカメラがズームしていき、満を持してのゼンデイヤ登場。彼女が演じるのは、怪我で引退を余儀なくされてしまった元スター選手、タシ・ダンカン。この三人を中心に描かれる……

 うーん、まぁいわゆる “三角関係” みたいなことなのですが、そんな言葉だけでは片付けられない物語。予告編でも語られていたように、価値観が揺さぶられる一本でした。


 試合中、それぞれが向けている視線の一つ一つが露骨というか意味ありげで、「何、何? 何があったのよ?」と否応なく気になってしまう。しかし憎いのが、本作はそこから過去のシーンへと行ったり来たりを繰り返す。この一つの試合の行く末と共に、三人の過去が少しずつ詳らかにされていく描かれ方。徐々にヒートアップする試合展開に比例して、過激でややこしい心情を孕んだ事情が明らかになり、「特定の誰かに感情移入」というよりは “この三人の関係性そのものへの興味・関心” が膨れ上がっていく、そんな感覚。




 この試合から13年前、彼らが出会った日のこと。タシは、ズワイグのプレーに対し否定的な意見を口にします。彼女曰く「テニスは自己表現ではなく相手との関係性が重要」なのだそうです。
 この時点では、あくまでもプロアスリートとしての信条というか哲学みたいなものとしてセリフを聞き流していましたが、今思えば、ここでのセリフ——〈テニス〉という言葉が指し示すもの——には別の意味が込められていたんじゃないかと思えてくるんです。

 タシは、試合開始後 “15秒ほどで相手を完全に理解できる” とも発言していましたが、ここで述べるところの「理解」および先述の「関係性」は、出演者らのインタビューにもあった通り「共依存」を暗に示すもの。「自身がどう思うか・どうしたいか」の域をはみ出し、関係性そのものへの依存を表した言葉。

 本項冒頭で述べた「満を持しての登場」シーンも然り、タシがかけているサングラスの左右のレンズにアートとズワイグ各々が反射していたキービジュアルも然り、タシが見ていたのはアート本人やズワイグ本人ではなく、彼らの関係性そのものだったように思えてきます。

 そう考えると、彼らが出会った日の夜中、ホテルの部屋の中での出来事もすべて違って見えてくる。


 「略奪愛」というワードで三角関係的なドラマも匂わせつつ、アートとズワイグの関係性や過去を質問していたことからも、タシが何に重きを置いていたのかが窺い知れる。そしてベッドの上で行われたキスの乱れ打ち(笑)からは、“無茶苦茶な三角関係” を象徴しつつも、そこから “アートとズワイグの関係を一歩引いて観察するタシ” という構図へと変化することによって、再び彼女の思惑や深層心理が浮かび上がってくるよう。
 ラリーの打ち合いから、二人の中央にタシの姿がドンッと据えられた冒頭シーンとも呼応する瞬間だったんじゃないかな。


 そして部屋を後にしようとするタシ。下心満載だったのに “おあずけ” になってしまったアートとズワイグ(笑)に対して、翌日の決勝戦(ここもアートvsズワイグだった)で勝った方とのみ連絡先を交換することを約束する彼女。

 「略奪愛はイヤ」と言いつつもこじれた三角関係を煽るような言動に疑念を抱いたのは、その場で彼女に「何を望んでいるのか?」と尋ねたアートだけじゃなく、観客も同様だったのかもしれません。そして語られた彼女の答え——彼女の望むもの——は、「最高のテニスを見ること」……。


 無根拠のままどんどん深読みが進んでしまっていますが、何卒ご容赦ください。〈テニス〉に対し “自己” ではなく “相手との関係” を見出す彼女が言うところの「最高のテニス」とは、「最高の関係性」とも読み換えられるのでしょうか?
 他者との繋がりにおける「最高」とやらは人それぞれ異なることでしょうけれど、共依存の関係性が観る者の心を揺さぶる本作に限って言えば、答えは一つ。二人の男とタシの三角関係だけではなく、アートとズワイグの共依存も見どころの一つ



 少なくとも僕には共感し得ない感情がジェットコースターのように襲ってくる本作は、それぞれの心情を推察せずにはいられないような間(ま)やスロー映像が散見されます。と同時にそれぞれの視線——「見る」、「見られる」、或いは「見られていない」——も際立ってくる。

 本作は冒頭、アートとズワイグそれぞれの表情をスローで映し出すシーンがド頭に描かれます。試合中の二人であることだけはなんとなく理解できるものの、接写気味であること、加えて本編が何一つ描かれていない冒頭シーンだったこともあり、何のこっちゃわからない。

 しかし、この思わせぶりなオープニングシーンへと終着する物語であることだけは察せられるため、白熱の試合展開、そして次第に明らかになる三人の関係性と今日までの経緯も相まって、「一体どうなるんだ?!」とワクワク(ソワソワ?)させられてしまうのです。

 そんな本作の行く末、及びこの試合の決着は、是非とも実際にご覧になって味わって頂くのが一番だと思います。


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