映画『コール・ミー・ダンサー』感想
予告編
↓
可能性
Netflix映画『バレエ 未来への扉』という作品をご覧になったことはあるでしょうか……?(ちなみに僕は、本作の公開を知ってから慌てて観ました。)
本作は、プロのダンサーを夢見る青年・マニーシュの姿をとらえたドキュメンタリー映画なのですが、『バレエ 未来への扉』(以下:ネトフリ版)はそんなマニーシュの半生を描いた物語。しかも彼自身が本人役として主演を務めていました。
もちろん、本作単体でも感動を覚える内容ではあったものの、ネトフリ版を観ていた方が本作をより深く楽しめると思います。もっと言うと、ネトフリ版を観て感動した、楽しめたというのであれば、本作は間違いなくオススメです。
さて、ネトフリ版を観た方なら共感して頂けると思うのですが、やはり一番気になっていたのはアミールについて。マニーシュとは年齢差こそあれど、家庭の経済事情や人種・宗教的なしがらみなど置かれていた境遇も近しく、共に元世界的バレエダンサー・イェフダ氏に師事し、切磋琢磨してきた間柄だった……。
本作では、そんなアミールについての話がなかなか出てこないっ! マニーシュのことも大好きだし応援しているけど、それぞれの人品や人柄、人間性といったことだけではなく、この二人の関係性そのものも素敵に思えていたからこそ、気になって仕方が無かった。予告編映像では影も形も無く、本編が始まってからというものしばらくの間は、一切気配が感じられないアミールのことで頭がいっぱいでした笑。
結果として、彼の姿がほとんど映されていなかったのには理由があったわけですが、それによって改めてネトフリ版を観ておいて良かったと思えます。
様々な試練や壁にぶつかりながらも夢を追い求め続けるマニーシュの姿に胸打たれる、その一方で、たとえ映っていなくても、特別に言及されることがなかったとしても、「心のどこかにアミールが存在しているんじゃないか」と想像できることによって、一層胸が熱くなる。宿敵、親友、兄弟……簡単に一言では言い表せない繋がりがある者が “きっと今もどこかで頑張っている”。それだけで、歩みを止めずにいられる理由になる気がします。
本作では、ネトフリ版で描かれていたことも含め、彼のその後についても映し出されています。マニーシュが歩んできた道のりは、本当に険しいものでした。ネトフリ版の撮影現場の様子や、彼の実際の両親のお話も伺えるのですが、「あんなに厳しい父親じゃなかった笑」とマニーシュの父も仰っていたように、ネトフリ版の中では多少の誇張もあったにせよ、それでもやはり彼の道のりは過酷。バレエ用のシューズも買えない、家庭の経済事情のために働かざるを得ない、だからこそバレエのために投資する費用もない。その他、才能が評価されてからも実家の経済事情などを理由にビザが発行できず渡米できない等々、ネトフリ版だけで語られていた苦難もありました。
それでも希望に満ちたエンディングを迎えたネトフリ版。だからこそ本作を楽しみにしていた。そんな中で彼に突き付けられたのは、一つは年齢というハンディ。予告編でも少し触れられていましたが、バレエを始めたタイミングが遅かったマニーシュは、才能や実力の有無ではなく自身の年齢が壁になる。その次に襲い掛かるのはコロナウイルスの猛威。ただただ身動きが取れなくなってしまう。時には、その年齢が故なのか、ケガとの戦いもあった。
あれやこれやと外的要因の障害によって邪魔され続けてしまう。だからこそ、それでも頽(くずお)れないマニーシュの姿に、観客の心は惹かれていくんじゃないかな。如何に暗雲が立ち込めても、可能性があれば、希望があれば、それだけで未来は輝き得る。
本作、もといマニーシュの姿は、“可能性の強さ”というものをありありと感じさせてくれる。中盤、「現実版ビリー・エリオット」みたいな言葉も用いられていましたが、幾つもの苦難を乗り越え、より美しく、より逞しく、見事なバレエを披露するマニーシュの姿は、まさしく『リトル・ダンサー』の感動を彷彿とさせてくれます。
そんな可能性が潰えずにあれたのは、「偏にマニーシュ本人の努力によるもの」だけでは片付けられない。過日鑑賞した映画『BISHU 世界でいちばん優しい服』(感想文リンク)でも語られていた、「才能は、それを見つける人と守る人がいて初めて輝くもの」という言葉が思い起こされます。
ネトフリ版で描かれた彼らの出逢いがどこまでリアルなものなのかは知る由もありませんが、イェフダ氏との師弟関係もまた、先述したアミールとの関係に負けず劣らず美しい。インドでは師(グル)を敬う文化があるそうですが、国や地域、時代を問わず、これもまた同様に一言では言い表せない関係を築いた信頼や愛情の美しさに心が洗われます。
師の下を離れてからも、その才能や実力を評価し支援してくれる人たち、指導してくれる人たちがいる。繰り返しになりますが、もちろんマニーシュ本人の努力の賜物。けれどそれだけではない。ダンスカンパニーで集団生活を送っていた際も、マニーシュには何かと理由を付けて仲間が集まってくる。直向きにダンスと向き合う姿勢も然ることながら、自然と周りに人が集まる人柄、そんな善良な精神もまた観ていて心洗われるし、心の底から彼の活躍を願い応援できる要因の一つ。
若者の未来に対して、投資というよりは純粋な支援。イェフダ氏だけでなく、パトロンとして彼を支援していたマリアム氏の存在も然り、可能性を見出す、守るという美しさも再認識させられる本作。彼の姿やダンスだけで生まれる映像美は劇場で鑑賞する価値が大いにある。彼のことを知れて本当に良かった。
#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #バレエ #コール・ミー・ダンサー #バレエ未来への扉 #Netflix #ネットフリックス #ダンス