映画『ヴェノム ザ・ラストダンス』感想
予告編
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忘れない
今は非常に便利な時代。たとえ原作に詳しくなくても、ちゃちゃっと調べるだけで様々な伏線や隠れた小ネタを知れる。僕のようにライトなアメコミ映画好きにとっては有難い限りです。
たとえば、ただ記号的にしか認識していなかったサブキャラの名前でさえ、原作コミックに登場するキャラ名と同一だとわかっただけで見え方が変わってくる。
そういったいくつもの原作要素が散りばめられることは、『ヴェノム』シリーズを要するSSU(数年前まではSUMCとかSMCって呼んでいましたけど、色んな事情で様変わりしているみたいですね)の今後の展開への種まきにも思えてきて、期待は膨らむばかり。
……まぁ、『マダム・ウェブ』が興行的にうまくいかなかったみたいなので、本作や近々公開予定の『クレイヴン・ザ・ハンター』の興行次第でもあるんでしょうけど。
話が逸れちゃいましたが、今後の展開への伏線だけではなく、原作の『ヴェノム』内の諸要素が散りばめられていると知れば知るほど、本作にて終わりを迎える映画『ヴェノム』シリーズを偲べるというもの。
白状すると、思っていた感じの内容ではなかったんです。でも、ヴェノムとエディ(トム・ハーディ)の仲睦まじい(笑?)掛け合いを再び見ることができて、とても楽しかった。前作や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などを鑑賞済みの方であればご承知の通り、エディはカーネイジとの激闘の末に政府機関から追われる身となっていたり、本人のあずかり知らない事情よって別の世界線(MCU)に飛ばされたりしていました。
逃亡中であるとか、別の世界線に飛ばされていたであるとか、本作ではエディとヴェノムが二人っきりになりやすい土壌が出来上がっていたんです。おかげで、エディが大好きなヴェノム、そんなヴェノムに振り回されるエディという、相変わらずのイチャイチャぶりを堪能できる笑。
人それぞれかとは思いますが、とどのつまり『ヴェノム』シリーズの一番の魅力はこれに他ならないんじゃないかと、最終章にして改めて思い知らされました。人間の脳ミソが大好きで暴力的、でも飼っていた鶏は愛でるし、チョコレートも大好き。粗野で無茶苦茶、乱暴者、でもエディのことが大好きだから我慢もするし、言うことも(ある程度はw)聞く。そんなギャップだらけのヴェノムが可愛らしい。
本作に限らず、ずーっとそんなことを感じながら楽しんできた。だからこそ、終盤の展開に胸を打たれる。エディが大好き、離れたくない……そんな彼の想いを想像せずにはいられない瞬間。『ヴェノム』の終わりを実感し、改めてシリーズを偲べるもの。
劇中、エディに突き付けられた「いつか終わる運命だった」というセリフもまた、『ヴェノム』の終わりを突き付けるもの。今思えば、どこか物語以上のことを示唆しているかのような、含みを持たせるセリフがいくつかあった本作。「友好と共存を過剰に期待するのは危険」という否定的なセリフなどもありましたが、一番印象的だったのは「忘れない」という言葉。クライマックスにmaroon5の『Memories』が流れていたのもわかりやすい表現の一つでしたが、この「忘れない」ということこそ、本作を象徴するものなんじゃないかな。
「『ヴェノム』シリーズを偲ぶ」と先ほどから繰り返し述べていますが、それは終焉を悼んでのことではなく、忘れないためにこそ偲んでいる。終わりそのものを決して悲観的に捉えたりはしない。ヴェノムの細胞の一部がどこかに残っていることが描かれていただとか、ましてや再登場的な今後の展開に期待してのものでもない。ここで悲観的にならずにいられるのは、本作内で見受けられた、ある名作映画のオマージュのおかげなんです。
『レインマン』『ミッション:インポッシブル』など、いくつもの映画オマージュがありましたが、何よりもここで述べたいのは『E.T.』について。もはや説明不要。一部の予告編映像でもありましたが、エディとヴェノムが互いの指先を合わせようとする行為は、誰もが知る映画『E.T.』の名場面。異星人であるE.T.が故郷へ帰れるように主人公たちが奮闘する内容であり、“別れ” や “離れ離れ” といったものがゴールに据えられている物語。しかし、あの名作の感動を生み出すのは紛れもなく “友情” や “絆”。“別離”それ自体は心の繋がりを断つものではないと教えてくれるもの。
なればこそ、本作もまた同様。『ヴェノム』の終焉によってヴェノムは消えたりはしない。エディの心にも、ファンの心にも残り続ける。そして、そんな思考は、ヴェノムが採った選択にも意味をもたらしてくれるよう。
まさに今生の別れ、今際の際、エディと指先を合わせる……かと思いきやの行動を見せるヴェノム。どちらかの死・消滅を以てでしか脅威を退けられない中での行為。「エディのためなら」という自己犠牲でもありつつ、たとえ自身が消えても、大好きなエディの心には残り続ける、エディとの絆は潰えない、エディは自分のことを決して “忘れない” とわかっているから、あの形での決着を選択できた。最早、指先同士を合わせなくても強烈に心の繋がりを感じ得たからこそ採れた選択だった。異星人で、乱暴者で、手に負えない無茶苦茶なヤツだと思っていたのに、これほど純粋な愛が他にあろうものかとさえ思わされてしまいました。
「思っていた感じの内容ではなかった」なんて述べてしまったのは、そんな理由から。もっと痛快で陽気なブッ飛びアクションのイメージだったのに。こんなに後を引くとは思わなんだ。
【関連作感想文】
・映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』感想|どいひー映画日記
・映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』感想|どいひー映画日記
・映画『マダム・ウェブ』感想|どいひー映画日記