ブランドと商業施設が考える、サステナビリティ事業の始め方 (パネルディスカッション編)
2024年6月19日、Free Standard株式会社と東急不動産株式会社の共催で、「リコマース先駆者が語る ブランドと商業施設が考える、サステナビリティ事業の始め方」と題した公開のセミナーイベントを、東急プラザ原宿ハラカド4階のパブリックスペース「ハラッパ」で開催しました。
ブランドは既存のビジネスや市況と照らして、サステナビリティ事業をどのように位置付け、回していくのか。また、その展開に「場所」やまちづくりがどのように絡んでいくのか。本イベントのパネルディスカッションでは、ゲストスピーカーと共にこれらの問いへの答えを探っていきました。
登壇者
テーマ1:既存のセカンダリー市場をどう見ていたか?
張本:まず1つ目のテーマとして挙げたいのが、既存のセカンダリーマーケットについてです。メルカリのGMVが1兆円と、ブランドのプロパー消化率にも影響が出る規模に成長してきた今、セカンダリーマーケットをどのように見ていますか。
相城(ラコステ):正直に言えば、当初はあまり気にしていませんでした。セカンドハンドに注目したのは、新卒採用の面接する学生の多くがラコステを古着で買っている、という現実を知ったのがきっかけでした。
Z世代の顧客にブランドをアピールしていくことはグローバル全体での方針です。そうした中で、いわゆる「マイ・ファースト・ラコステ」をお客様にどれだけ早いうちに提供できるか、という視点に立った時に、セカンドハンドの市場が際立ってきました。既に多くのメーカー・ブランドが自社でユーズド品を販売しているし、裏原宿や下北沢に行けば学生たちが古着を求めてやってきている現実がある、と。それならば自社でセカンドハンドを取り扱えないのか、というのが出発点になりました。
張本:ラコステさんと弊社Free Standardでリコマース事業のお話を始めてから、約1年半になります。その間、どんな社内議論があったのでしょうか。
相城(ラコステ):当初はプロパー商品販売へのマイナス影響に対する懸念が大きく、社内議論にも時間を割いてきました。そこから、まずはスモールプロジェクトからスタートして影響を検証しようという形でスタートしています。
ブランドの長期的な成長を考えると、やはり20代・30代の顧客を獲得していく必要があります。ふさわしい製品や価格を考えていった先に、プロパー商品を値下げするのではなく、新たな市場を作っていく方向性を見ていこう、となりました。
回収事業がプロパー商品の売上に貢献
張本:オンワードさんの場合、まだ「サステナブル」という言葉も浸透していない2009年から不要になった自社製品を回収する取り組みを始めて、いまや年間生産量の9.2%を回収するまでに拡大してきた実績があるとご紹介いただきました。どんなところに難しさがありましたか。
山本(オンワード):開始当初はまだ「エコ」という言葉すらほぼ聞かない時代でしたし、リーマンショックの直後でもありました。念頭にあったのは、店頭でいかにお客様との接点を持つか、つまり、販売スタッフがお客様と店頭で会話ができる状態をいかに作り出すか、ということです。お客様にユーズドのお洋服を持ってきてもらって、その場でクーポン券と引き換え、接客を通じて新しいものをお求めやすく買っていただく、というのが大元のコンセプトです。
一方で、引き取った衣料品の行き先を議論するなかで、やはりメーカーとして「作る側の責任」をきちんと果たす必要があるね、というのが社内の共通認識でした。そこから、全量をリサイクル・リユースする出口を設定したうえで回収事業をスタートさせました。営利事業として位置付けていないため、セカンダリー市場などを意識することもありませんでした。
その後拡大していったのは、売上が伸びたから、というのが大きな理由です。回収を実施した店舗では売上が前比200%もの実績を出すことがあり、店舗間や営業担当者間で評判を呼び、「うちもやりたい」と実施店舗が増えていきました。それも頭打ちになってきた頃に、オンラインやファミリーセール等でお客様とのタッチポイントを増やして、回収量を上げていった経緯があります。
張本:回収量を上げていく中で、事業単体としての採算性もセットで考える必要があったかと思います。そのあたりはいかがでしょうか。
山本(オンワード):我々の回収事業はサステナブル活動として位置づけているので、かかっているコストを回収する、という考え方では取り組んでいません。ただ、お洋服を引き取る対価としてお客様に還元しているポイントの利用率に関しては注意深く見ています。
実際に、回収で付与したポイントは98%もの高い確率で使用されており、一般的なポイント利用率よりも高い結果となっています。売上の具体的な数字を出すことは差し控えますが、十分な採算性を出せるだけの購入につながっていることを踏まえて、回収事業を継続しています。リセール事業についても3年目で黒字化を達成できてますから、この状態を維持していきたいと思っています。
テーマ2:循環型社会に向け、商業施設とブランドはどんな共創をしていけるか?
生活者との様々なタッチポイントからリユースの取り組みを浸透
張本:花野さん、商業施設側のご意見もお聞かせください。ブランドのサステナブル事業は、どうしても経済合理性が課題になりがちです。オンワードやラコステの事例であったように、店舗やポップアップストアでリユース品を販売するといった「場所」がコアとなる取り組みも出てきているなかで、商業施設としてどのようなお手伝いができそうでしょうか。
花野(東急不動産):例えば今日の会場であるこのハラカドという建物もですが、こうした商業施設では当然、テナントさんからお家賃をいただいていますし、テナントさん側は売上を立てるためにはプロパー商品をしっかり売りたい、という前提があります。同じ場所でリセールを頑張る、というのはそもそもハードルが高い話です。
一方で、東急不動産としては商業施設だけでなくオフィスやリゾート施設を含めた全国の事業地、さらには街中の色々なところにお客様とのタッチポイントを持っています。そうしたタッチポイントで、我々がまちづくりのプレイヤーとして参画し、一緒にリユースなどの取り組みを浸透させていくことを考えていきたいと思っています。
テナントさんとの活動を介して当社がまちづくりのプレイヤーとなることや、テナントさん同士をつなぐ立場になるなど、新たな視点に立ってみると、今までの「売る場所」とは別の価値を持ち込むことができるかもしれない。例えば2023年に開業したフォレストゲート代官山ではそうした取組をどんどん進めたいですし、コンセプトに共感してくれる方を集めてスキーム化できないか、と考えています。
張本:商業施設とブランドがどのような共創をしていけるか、という観点ではいかがですか。
花野(東急不動産):順番としては、サステナブルな空間を作っていくことによって初めて、「ここで何かをやりたい」という人が出てくるんじゃないかなと思っています。当社にとってはフォレストゲート代官山も、このハラカドのハラッパがその位置付けであり、全国で取引のあるテナントさんと共に社会のための活動をしていくための場所です。
正規品を売るところの場所と、しっかりとした世界観を含めて作り上げていく場所、それぞれを施設側としてしっかり作り上げていくことが大事なんじゃないかと思います。
張本:ありがとうございます。では、ブランドの目線から、商業施設との関わりで何か要望はありますか。
相城(ラコステ):ひとつのブランドでやれることの限界は、やはりあります。サステナビリティを実現して循環型社会を作っていく、といった大きなメッセージを拡張していくには、同じ志を持つブランドが集まってイベントなどを介して発信することになるでしょう。
安いから買う、ではなく、信頼できる企業から買う、というカルチャーを育むプラットフォームを提供していただけるという意味では、商業施設側からのそうした動きは非常にありがたいですね。
山本(オンワード):集客の面でも商業施設側の力を借りないことには、多くの人に知ってもらうことはできません。新規の方とのタッチポイントを探すという点で、幅広い年代の方が参加できるようなブランドを揃えて、展開をしていただくというのが、より一層のカルチャー醸成につながるのかなと思います。
ブランド横断でリユース品の市場をつくる
張本:従来であれば顧客のLTVを伸ばすことが商売の基本にあり、そのうえで顧客単価を上げようとするアプローチがほとんどでした。ところが、物が溢れている世の中になって、いかに物を減らしながら経済合理性を実現し、持続的な売上を作るのかが、今後より重要なポイントになると思っています。その中で、リペアやアップサイクルというのは非常に重要な役割を担う可能性がありますよね。
一方で、アップサイクルする商品の流通量を思うように増やせず、また同時に、アップサイクル品を作れる人的リソースにも限りがある現状があると思います。
例えばデザイナーやパタンナーなど、各ブランドが抱えている専門人材が連携して、いわばリペアの連合軍を組んでマーケットを作っていけないかな、というのが私の考えです。もっと言えば、それを実現する場所があり、お客様にも体験としてのリペアを提供していけるのが理想です。
こうしたブランド横断で市場を創造していくことは、ブランドさん側で可能性はありそうですか。
相城(ラコステ):もちろん事業化するとなればビジネススキームとしての検証が必要ではありますが、弊社には素晴らしい人材が揃っていることは確かです。やれる可能性はあります。
張本:ありがとうございます。日本の人口が減ってきているなかで、作り手も買い手も今後減るのに対し、物だけは海外で作られたものも含めて、どんどん日本の市場に入って溢れてきている。やはり作り手側が根底から考え方を変えていかないことには、この状況は脱却できないと思っています。
だから僕らはすごく小さいスタートアップ企業ながらも、ブランドの皆様や東急不動産の方々のお力を借りて、新たな市場をつくることが、未来の子どもたちにつながる価値かなと思っています。少しでも皆さんのノウハウやスキル、持続的な価値づくりというところでご一緒できると、すごくありがたいです。
東急不動産でも、循環型ファッションの実現化を目指すファッションコミュニティ「NewMake」とコラボレーションをされていますよね。
花野(東急不動産):はい、まだ販売には至っていませんが、アップサイクルの仕組みづくりを少しずつ初めているところです。
アップサイクルには時間もコストも結構かかってくるなかで、今後の伸ばし方を検討しているところです。一方で、こうしたリユースの仕組みが始まりつつあることをより広く伝えていくように、街とのタッチポイントをどんどん増やしていきたいと考えています。
山本(オンワード):担当者としての個人的な想いには留まりますが、アップサイクルについては弊社も事業化を目指したいなと思っています。そうなると、社員に閉じるのではなく、外部の方と一緒にやっていくのが重要と思っていますので、幅広く検討して進めたいですね。
テーマ3:プロパー、アウトレット、リユースの棲み分けと共創のイメージは?
張本:最後のテーマは、僕が皆さんにお聞きしたかったことです。プロパーとアウトレット、リユースの棲み分けについて、語っていただきたいと思います。
2000年代にアウトレットが登場して、さらにその後にインターネットコマースが急速に広まっていきました。一次流通品のプロパー販売に加えて、場合によってはアウトレットの専用商品、さらには回収した自社製品のリユース販売と、販売チャネルが増えている実態があります。各チャネルをどう棲み分けて、どう共創していくか。ご意見伺えますか。
山本(オンワード):リユースとの棲み分けという話ならば、当社の場合は単純明快です。当社のリセール事業は、新規顧客にゆくゆくはオンワードブランドのファンになっていただくための入口と位置づけています。新たなお客様にブランドを体験してもらい、オンワードの高品質な洋服の良さを知っていただき、将来的にはプロパーでも購入していただけるようになる、というストーリーなので、長期的な目線での共生はできていると自負しています。
張本:なるほど、ありがとうございます。難しいのは、アウトレットかもしれませんね。消費者側の視点で考えると、お得なものを買いにいくのがアウトレットであり、テーマパーク的な楽しさもあって行きやすいのではないでしょうか。ただ、アウトレットの専用商品が作られ、プロパー商品よりもお求めやすい価格で販売されていることを消費者が認識し始めているのも事実です。
短期的にみると眼の前の売上を作り上げていくのはすごく重要なポイントではあると思いますが、本来の循環型社会への移行という観点で考えると、今の棲み分けでいいのか、という点はぜひ議論をしていきたい点です。
アウトレットとリユースの微妙な線引き
相城(ラコステ):ラコステの場合、アウトレットでは商品の在庫消化に重きを置いていて、そのポジションを維持していくことを考えています。リユースに関してはまだ計画段階ですが、お客様とのエンゲージメントのためのツールとして活用する期待は大きいと思います。やはりオンワードさんと同じく、新規の若いお客様が初めて買う店頭商品と位置づけていきたいと考えています。ですが、まだまだ計画段階であり、同じ悩みを持つブランドも多いと思いますので、今後も協議させていただきたいと思います。
張本:ありがとうございます。商業施設という「場所」の観点から見て、プロパー、アウトレット、リユースと、コンセプトの異なるアイテムをどうエンドユーザーに表現していくのか、ご意見ありますか。
花野(東急不動産):難しいですね。個人的な意見にはなりますが、その場所にあるニーズに対して適切に売っていく、という意味では、全てを一緒にしようとしすぎず、それぞれの場所ごとに成立させていくものだと思います。
一方で、リユースのような新しい取り組みは、また別のニーズを生み出していけるのではないかと思うんですよね。例えば、東急不動産のビルで働くおよそ20万人のオフィスワーカーの方々に対して、顧客サービスとしてリコマースの体験を提供していく、だとか。そうした別の展開軸を作っていくことが、私たちにできることなのかもしれないと考えています。
張本:最後に、これまで、アウトレットの流通量が3割を超えていくとプロパーに影響が出てくるという、いわゆる「3対7の法則」が、業界内でなんとなく共通の認識としてあったかと思います。ここにリユースが入って来た時、どれくらいの配分になるか、今のイメージをお話いただけますか。
相城(ラコステ):我々はリユース事業をビジネスの柱とするよりは、ラコステというブランドとのエンゲージメントツールとしてどのように活用していくかを考えて進めたいと思っています。そういう意味では5%程度になる可能性はありますが、社会のサーキュラーエコノミーに対しての貢献を考えてのチャレンジはしていきたいと考えています。
山本(オンワード):当社も事業として位置づけてはいないので、現段階でいえば1〜2%程度だろうと思います。しかし、仮に将来的に事業へ転換したとすれば、その場合には5%、または10%、という水準を目指していくべきかなと思っています。
張本:ありがとうございます。世の中にEコマースが登場してきた当初、EC化率5%を目指そう、と多くのアパレル企業が話していました。それが、直近では20%が当たり前という流れになってきています。まさに、時代と共に目指す水準は変わっていくものだと思っています。
ただ、適切なタイミングで適切な伸ばし方をできる、というのがブランディングにおいても重要であることは間違いありません。そうした長期的な視座と、短期的な経済合理性、さらには世の中の流れを反映しながら、Free Standardとしてもブランドの皆様のお手伝いを継続的にしていきたいと思います。
◆「リ・ライク」公式サイト:https://freestandard.co.jp/re-like
◆リコマースサービス「リテーラー」:https://freestandard.co.jp/retailor
◆フリースタンダード株式会社:https://freestandard.co.jp/