リコマース普及へのハードルに、私たちがどう対峙しているか
こんにちは。フリースタンダード取締役の野村です。こちらの記事でも代表の張本が述べていますが、私たちはブランドの持続的な成長のためにも、いいものをシェアしながら手軽に使える世の中にしたいと考えています。
ただ、この事業を進めていく中で、リコマース導入には2つの大きなハードルがあることに気づきました。1つは「手間がかかって大変そう」という、人的なコストに起因するもの。もう1つは「儲からなそう」「新商品が売れなくなりそう」という金銭的なコストに起因するものです。
今回はこれらの課題に対して、フリースタンダードがどう取り組んでいるのかについて、お話したいと思います。
正解は「地道な作業」にしかない。
まずは1つ目のハードルである人的コストです。人的コストの要因は商品管理・査定・配送オペレーションの大変さに集約されます。それぞれを私たちがどのように乗り越えていったのかについて、順を追って解説していきます。
1. データベースをイチから整理
リコマースを導入する上で管理しなければならない項目は、通常の商品管理よりも増えます。ブランドや品番、サイズ、カラーなどの基本情報に加え、誰が出品したものかを判別できるよう、出品者と紐づいた形で商品を管理しなければなりません。このことは導入を足踏みする大きな要因となってしまいます。
違う人の出品と混ざってしまうと大変ですから、出品者と商品を示す固有のIDを物理的なタグとして現物にもつけていきます。「現物」と「情報」をどのように効率よく管理するかを考えるところから始める必要があるので、この仕組みをイチから作っていくのは思った以上に大変です。
また、歴史のあるブランドだと、どの商品なのかを特定する難しさもあります。ブランドさんが持ってる商品データベースは、歴史の中で必要に応じてフォーマットが変わっていきますし、サイズやカラーも流行によって定義から変わっていくこともあります。ゆったりめが流行った時期とモードが流行った時期とでは、同じLサイズでも商品によって違うといったような。そのため、スペック情報は商品ごとにしっかり読み解いていかなければなりません。
膨大な商品群の中から、出品されたものを特定し管理していくために、データベースをイチからきれいにしていくことは、ブランドさん単体ではなかなか手が回らないと思います。ここを私たちが肩代わりできれば、導入に前向きになってくれるのではと考えました。
こういったことを愚直にやってきたので、今ではどのようなタイプの商品でもある程度効率よく対応できるようになっています。単純なことのように見えますが、私たちがつちかったナレッジは簡単に真似できるようなものではないと思っています。
また、導入初期はある程度アナログな作業が必要ですが、一度判別してしまえば私たち独自の管理タグを商品につけられるので、また出品されたときにすぐに判別できます。買って使って捨てるのではなく、商品を循環させていくためにも、導入初期の地道な作業は避けて通れないと考えています。
2. 査定基準のベースを作り効率化
私たちが扱うのはリユース品ですので、商品の状態を査定して値付けしたり、商品説明に付け加えたりする必要があります。この査定のためのチェック項目は、汚れやカビ、変色、伸び縮みなどの見た目に関わるものはもちろん、ブランドタグや品質表示タグの有無、お直しがあるかどうかなど、かなり細かく設定しています。この項目の洗い出しも一筋縄では行きません。
人によって判断がブレると困るので、最初の基準づくりはチームでディスカッションしつつ、ブランドさんともすり合わせた上で決めていきます。Tシャツと靴では見る観点が変わりますし、洋服と鍋などそもそものジャンルが違うと、洗い出す項目も全然違います。
項目が決まったら、状態のランク設定です。ランクを5段階に分け、新品レベルなのか重度の使用感なのかなど、実際にものを見ながら設定していき、販売価格に反映していくといった感じです。こういった項目の洗い出しとランク設定についても、ブランドさんだけで取り組むのはかなり難しいと思います。
革製品ならこのあたりを見るべき、この使用感はこのレベルなど、私たちにはこれまでの知見がたまっているため、イチから基準づくりを行うとしても、ある程度効率的に決められるようになりました。ここも私たちの強みになっています。
3. 他社協力の上で配送基盤を構築
商品の配送に関しても、リユースならではのハードルがあります。通常の商品と大きく変わるのは、お客様から送られてくる商品を1次査定し、販売可能と判断したものはクリーニングやメンテナンスに送るところです。また、そこから返ってきたものを2次査定し、サイト掲載のために写真撮影した上で、倉庫に保管する必要があります。
クリーニング・メンテナンスの費用に加え、「回収」という行為があることで通常より2倍の配送料がかかりますし、査定場所と保管場所が別だと倉庫に送る配送料も考えなければなりません。
これらのコストはそのまま販売価格に乗ってくるので、当然ですが極力抑える必要があります。このためにはクリーニング事業・商品を保管する倉庫事業のパートナーの協力が不可欠でした。
私たちはパートナー企業の協力のもと、1次査定からメンテナンスまでをクリーニング企業で、2次査定から写真撮影までを保管のできる倉庫で行うオペレーションにしています。これにより配送コストを無駄にかけることなく、倉庫で一括管理することができるようになりました。査定も撮影も(そのためのシステム連携まで)お願いできる倉庫企業は本当に限られるため、このパートナー関係が作れたということも大きいです。
また、クリーニングパートナーは、商品を保管する倉庫にも近い場所にあることに加え、洋服以外のクリーニングに関しても相談できるのが非常に助かっています。クリーニング業界もその対象を広げることを考える必要があるようで、スニーカーからキャディバック、テント、鍋などに至るまで一緒にチャレンジしていただける。1社では成立できない裏側の仕組みを構築できたところも、私たちの強みだと考えています。
商品管理も査定も配送オペレーションも、長く続けていくことで知見が蓄積していきますし、知見が蓄積することで新しい商品ジャンルへの対応力も上がっていきます。1つ1つは地道な作業ですが、積み重なっていくことでかかるコストも下げられるようにもなってきました。今では新しい商談時に査定の事例をお見せすると、たいてい「お任せします」と言っていただけるようになっています。
「儲からなそう」「新商品が売れなくなりそう」の誤解
このように人的コストに起因する導入のハードルはある程度解消できています。一方、もう1つ大きく立ちはだかるのが、金銭的コストのハードルです。こちらについても実際やってみると、思ったよりそうでもないとわかってきました。
1. 新しいお客様につながる手段になりうる
顧客データを蓄積・分析できるブランド公式リユースの広がりと共に「新品を購入する層とリユースを購入する層は異なる」ことが分かってきています。実際、あるブランドでリユース品を購入したお客様の属性を調査したところ、88.5%が過去購入履歴がない方(=新規顧客)だったというデータも出ています。
さらに、購入後にアンケートを行った際、「リユース商品をきっかけに新品の購入意向が高まった」という答えが8割以上だったのです。何人かのお客様にお話を伺ったところ、「これまで高くて買えなかったけれど高い理由がわかった」と一様に答えてくださいました。リユースで気軽に買えたことで、縫製やデザインなどその品質の良さを理解していただき、それが新商品の購入意向につながっているようです。
歴史の長いブランドになるほど、顧客層の年齢も上がっていく傾向があるため、若年層を獲得する施策として、リユース販売にふみきるケースが増えてきています。
2. 既存のお客様のリピート率が上がる
また、既存のロイヤルカスタマーにとっても、持っている商品を売って新しい商品を買うことができるので、ブランドの体験が強化され、より濃いファンになってもらえる。そういう好循環も生まれ始めています。
リユース品を出品いただいたお客様には、そのブランドの新品購入に使えるクーポンを発行いただくのですが、あるブランドではそのクーポン利用率が75%を超えています。
このクーポンが「セールではない」という点も非常に重要です。ブランドがセールを行えば行うほど、消費者に「セールをするブランドだ」という認識が生まれ、プロパー価格で買っていただけなくなっていきます。
昨今の「セールを減らし、プロパー販売比率を高めていきたい」というブランドの想いも相まって、今までセールを行っていた期間にセールではなく「下取りキャンペーンでクーポンを発行」し、そのクーポンで新シーズン・最新商品を買っていただく流れを作るブランドさんも増えてきています。
3. 「廃棄」を考えるとマイナスがプラスに変わる
最近ブランドさんと話していて話題に上がるのが、返品・廃棄の話です。家電に多いのですが、新商品が出ると旧型はどうしても返品・廃棄の道をたどります。大手メーカーになると年間数億、数十億規模でマイナス計上になることもあるそうです。これがリコマースで循環して販売できれば、プラスになる可能性も十分ありえます。
また、アパレルブランドになるとスタッフが着用するために、自社商品を社割で購入してもらったり、貸し出したりすることがあります。新作を毎年買わなければいけないとなると、スタッフにとっては大きな負担ですし、それをなんとかしてあげたいと考える経営者も多い。まして貸し出しとなれば、シーズン終わりには廃棄になってしまいます。ここもリコマースを導入すれば、良い循環が生まれる可能性が大きいのです。
まだまだ道半ばでありますが、金銭的コストに関しても到底無理な課題ではないですし、実際ブランドさんの理解も得られるようになってきています。何より、大量生産・大量消費の時代と決別したいと考える経営者さんは多い。それを実現するためにも、ビジネスとして成立する形で循環型社会を目指していくことは必須要件ですし、今後もさらにプロダクト・サービスを磨いていきます。