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「まずは試す」という購入体験。 パイオニアが実践するこれからの顧客戦略とは。

カーエレクトロニクスの分野で世界的に知られるパイオニア株式会社。「未来の移動体験を創る」という同社のコンセプトを体現する新製品として、2022年3月にリリースされたのがオールインワン車載器の「NP1(エヌピーワン)」です。

同年の10月には同製品をより訴求するために、自社のECサイト上で「試してから購入できる」レンタルのサービスを開始したことでも話題を呼びました。通常の販売だけでなく、0.5次流通とも言えるレンタルの機能を自社ECサイトに実装した意図とは? また半年が経過した今、どのような成果が出ているのか?同社のCCDOを務める木村氏に、レンタルサービス「Retailor」の提供元であるFree Standard株式会社の張本が話を聞きました。

(写真左)パイオニア株式会社CCDO 木村真紀氏
(写真右)Free Standard株式会社 代表取締役張本貴雄

「まずは試したい」。顧客のニーズに直球で応えるレンタルスキーム

――まず最初に「NP1」という御社の新製品をリリースしてから、お試しサービスの導入を決めるまでの経緯を教えてください。

木村:「NP1」をリリースする際に、パイオニアとしては初となるDtoCサイトという形で販売するチャネルを立ち上げました。既存のチャネルとしては、オートバックス様などに代表されるカー用品店や代理店という販売先もあったのですが、「NP1」は全く新しいカテゴリーの製品です。機能の全てをお伝えしきれず、お客様が購入をためらってしまうというケースが一定数見受けられたんです。

「NP1」は世界初のAI搭載通信型オールインワン車載器。次世代通信型クラウドドライブレコーダーとしての機能に加え、スマート音声ナビ、Wi-Fiスポットなど多彩な機能を搭載している。

木村:そこで実際にお客様にコンタクトを取り、「どんなハードルがあって購入をためらってしまうのか」という調査を行いました。その結果、「実際に商品を見てから決めたい」や「商品の機能をもう少し理解したい」という声を多くいただいたんです。お客様の中には「まずは試してみたい」というニーズがあるということを改めて強く感じました。
張本:ヒアリングの結果、生活シーンの中で顧客が実際に製品を体感できるレンタルのサービスに着目されたのですね。


――家電量販店の中にはすでにレンタルサービスを始めている企業もありますが、メーカーとして自社で提供しようとした理由はありますか?

木村:私どもは「NP1」のDtoCサイトを立ち上げたわけですが、一般的には購入というコンバージョンポイントしかないわけです。そこにレンタルというコンバージョンポイントを設定することで、まず試してみてから購入するというシームレスな体験をお客様にご提供できます。「NP1」も6万円程度する商品なので、決して安い買い物ではありません。お客様というのは非常に多様で、新しいガジェットを試すことに貪欲な方もいれば、慎重に検討して納得した上で購入したいという方もいらっしゃいます。そういう意味では、レンタルという購入方法をダイレクトチャネルで持つことは、お客様の多様な購入スタイルにメーカーが直接対応できることを意味するんですよね。

コンバージョンポイントが2倍になることの価値

――メーカーとしてレンタルスキームを実施する方法として、「自社での機能開発」「Retailorのようなソリューション導入」「レンタルモールのようなサービス活用」など、いくつかあると思います。その中で何故「Retailor」を選んでいただけたのでしょうか?

木村:そうですね。正直にお伝えすると、検討段階でモール型のレンタルサービスと「Retailor」を比較はさせていただきました。やはりモール型は、集客力はありますよね。RetailorはDtoCサイトに埋め込む形なので、集客は自分たちでやるものだと理解しました。ただ、レンタルモールの導線を調べていくと、メーカーサイトからレンタルモールに誘導してクローズ(購入)させているなと。

私自身、DtoCサイトの認知から購入に至るまでの広告運用もしているのですが、せっかく自社サイトに広告費をかけて誘導してきたトラフィックを外部に出してしまうのは、もったいないと考えました。

また、自社ECで「これだ」と決めた方も、モールに遷移して同一カテゴリーの商品に目移りしてしまう可能性もあります。自らそうした機会を与えてしまうのは非常にもったいないことですよね。だから、誘導したトラフィックを自社で完結できるRetailorを選びました。


――ありがとうございます。集めたトラフィックを自社で完結する、という判断の中には長期的にユーザーとの関係を強化したかったという狙いもあったんですか?

木村:ありましたね。私は2年前にパイオニアに入社しましたが、当時は顧客データベース上で有効なデータが少なかったですし、そこにアップセルやクロスセルなど適切なコミュニケーションが構築されていませんでした。だからNP1の発売と同時にDtoCサイトを立ち上げてDtoCで購入された顧客のデータはパイオニアとして蓄積できるようにしましたし、顧客満足度調査や改善点についてのコメントをいただいて改善に活かせるようにすることを重視してきました。その軸をブレさせず、レンタルをやりたかったんですよね。

張本:なるほど。単にレンタルを実施したかったのではなく、自社ECサイトの目的と一貫性をもってレンタルスキームを実装したかったということがよくわかりました。


――2022年10月に導入いただいてから一定の期間が経過しましたが、パイオニアとして得られた成果はありますか?

木村:「カートに入れる」、「お試しする」という2つのボタンを商品ページに配置しているわけですが、購入が減ることなくレンタルというコンバージョンが純増しました。マーケター的に言えばコンバージョンポイントが2倍になったということです。そんな施策は中々ないですからね。それだけでも効果的な取り組みだったと感じています。

また、レンタルしたユーザーが「継続する」のか「終了する」のか、「購入する」のかというトラッキングデータをRetailorから提供いただけるのも非常に助かります。弊社では、購入者を対象とした満足度調査をアンケート形式で実施していますが、購入に至らなかった方が終了した理由を検証することが重要なので、実際にお話を伺うようにしています。


――「なぜ購入に至らなかったのか?」を直接聞くのはとても面白いですね。どういったご意見が出てくるのですか?

木村:例えば、ある方は「NP1」の発表会を見た時から気になっていて下さり、イベントにも足を運んでくれていたそうです。それでも、なかなか購入には至らなかったところ、「お試しプラン」の存在をプレスリリースで知り、試してみようと思って下さったようです。でも、レンタル後の購入には至っていませんでした。その理由を伺ったところ、「NP1自体はとてもよかった。新車が納入されたらぜひ購入したいが、納車が1年後なので、一旦返却した」というコメントをいただきました。つまり、レンタルから購入に至らなかった場合でも、お客様は満足し、その後の購入につながる可能性があるという事実が導き出されました。このように正しく顧客満足度を把握できるのはとても貴重ですね

ちなみに、あえて改善点を伺ったところ、レンタルサービス利用後に購入する場合、メーカー保証から外れてしまうことをネックに感じていたらしいんです。「言われてみれば確かに!」と感じました。私たちにとっても盲点だったので、この方の声をきっかけに、レンタル後の購入でもメーカー保証適用の対象になるようにすぐ変更させていただきました。

こういうことは自社で直接ユーザーとの接点を持った上で、レンタルスキームでなければ実現しないことなので、そういった顧客の生の声も蓄積できるのは大きな価値ですね。

さらに、一般的にお試しというと「レンタル期間が終わったら返品されてしまうんでしょ?」というイメージがあるかもしれませんが、レンタル終了から購入に転換する割合は期待以上でした。顧客データが蓄積できる上に、投資が無駄にならないスキームだと感じています。


多様化する購入スタイルに応えるチャネルづくり

――メーカー様と議論する中で、「自社サイト上で販売の取り組みを強化すると、既存の販売店さんとの関係性が悪化しないんですか?」という質問をいただくことがあります。そこはどうお考えですか?

木村:そこは相反するものではなく、補完関係にあるんです。パイオニアも、例えばカー用品のオートバックス様には多大なサポートをいただいています。ただ、販売店におけるレンタルスキームがない中、メーカー公式レンタルという手段があることは、販売店のオペレーション上、販売支援施策にもなりうるんですよね。
長い年月をかけて築き上げてきた既存の流通経路、店舗との関係性はもちろん大切です。ただし、店舗に行かない若年層が増えていることも事実です。主にオンラインで情報収集をする方々に向けて、スムーズな購入経路を設けるにはどうすべきか、従来型ナビ以外にも選択肢があると知ってもらう方法を模索した結果が、直販チャネルの構築でした。当社は『デジタルでクロージングまで行いたい』と考えているわけではありません。今後も、パイオニアを支持していただく新たなきっかけの創出を続けていきたいと考えています。
張本:確かに、デジタルのチャネルやレンタルでNP1を知り、リアルのチャネルで購入するケースもあるでしょうから、良い補完関係と言えますね。


――取り組みを振り返って、メーカーが自社でレンタルを行うことにはどんな意義があると感じますか?

木村:冒頭に申し上げたように、これまでパイオニアにはDtoCという販売チャネルが存在していませんでした。マーケターの皆様には釈迦に説法ですが、データを活用して顧客とコミュニケーションを図るためには、まずDtoCのチャネルを作ることに意味があるなと。そして、そのDtoCサイト上に購入というコンバージョンポイントしかない場合と比べて、レンタルというコンバージョンポイントがあると、顧客獲得コスト(CPA)が単純計算で半減しますよね。
さらに弊社の場合、レンタル開始→期間延長→購入に至るケースが想定より多かったのが嬉しい誤算でした。レンタル後に購入する場合、レンタルにかかった費用は相殺されるので、購入しても無駄にならないというスキームも寄与していると思います。
張本:ありがとうございます。今後、製造コストは上がる反面、人口が減っていく状況においてモノ余りが増える状況を打開しなくてはいけません。無駄な消費を減らしつつ、適切な商品を適切なお客様に届けることで、そのブランドのファンになっていただく必要がありそうです。メーカーさん自らが音頭を取ることによってそれが実現できるはずです。
木村:そうですね。サブスクやレンタルという様々なサービスの選択肢がある中で、モノを所有するのか使用するのかという議論はあると思います。ただ、いずれにせよメーカーとしてはお客さまに直接手に取って使っていただく機会をいかに提供するかが重要なのではないでしょうか。
レンタルという選択肢そのものを用意していなかったら手に取らなかったお客様がいらっしゃるわけです。獲得チャネルを増やす、お客様の多様性に対応するという2つの意味において、今後のレンタルの意義は大きいと思いますね。

■Free Standardについて
Free Standardは、ブランド、メーカーが自社リコマースを立ち上げることを支援するサービス『Retailor(リテーラー)』を提供しています。リコマースを本格的に立ち上げる上で必要なスキームの設計からオペレーションの運営に至るまで、シンプルでローリスクな形で実現可能です。

事例も豊富にございますので、お気軽にお問い合わせください。

また、noteにも他事例を載せておりますので、ぜひご覧ください!


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