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ベンゾジアゼピンの減薬方法_20_離脱症状の著しい悪化を起こさない減薬量の閾値の経時的変化について

(この記事は、私の経験のみに基づく考察です。ベンゾジアゼピンの減薬に対する反応には個人差がありますので、ご自身の経過について考えるための参考としてご覧いただけましたら幸いです。)

私の場合の「離脱症状の著しい悪化を起こさない減薬量の閾値」の経時的な変化を単純化して描くと下の図1のようになります。

図1


すなわち、ある程度以上の量の減薬によって強い離脱症状が出ると同時に閾値の低下が起こります。その後、徐々に閾値の上昇が起こりますが、閾値が低下する以前の値までは戻らずに横ばいとなります。
このような、減薬とそれによる離脱症状悪化の前後の閾値の差によって起こるのがキンドリング現象であると私は考えています。
つまり、1回目の減薬よりも2回目、2回目よりも3回目の方が、強い離脱症状の出る減薬量の閾値が小さくなっているため、同じ量の減薬をすればより強い離脱症状が起こりますし、離脱症状を悪化させずに減薬できる薬の量が低下します。

閾値がどこまで低下するのか、閾値が頭打ちになる値まで回復するのにどのぐらいの期間かかるのかということを、「○○%」・「○ヵ月」などと絶対値として予め予測することは困難です。ただ、私の経験からは、相対的に見て、より大量の減薬を行った場合、より大きな離脱症状が出た場合において、より閾値が低下し、回復に時間がかかり、元の値に比較してより低い閾値で頭打ちになる傾向があると感じています。

私が0.1%/日の減薬で強い離脱症状が出て、0.01%/回(ステイの日も含めて計算すると約0.003%/日)で減薬を再開し、最終的に0.3%/日程度まで減薬量を増量できたのは、10%の減薬によって閾値が著しく低下し、まだほとんど回復していない時点で0.1%/日の減薬を行ってしまったことによるのではないかと考えています。
0.01%/日の減薬を開始してからは、大きな離脱症状を起こさない状態で減薬が継続できたために、その期間に徐々に閾値が回復していったものと思われます。

上の図のように単純化した理屈で考えるならば、0.1%/日よりも閾値が上がることが無いのでは?とも考えられそうですが、この点については、閾値の回復が不可能なほどの減薬とそうでない程度の減薬が存在すると考えています。ややこしいですが、「不可逆的な閾値の低下が起こる閾値」とも言えます。
どんな減薬であれ多少の離脱症状は出ますので、ほんの少しでも離脱症状が出たら閾値の低下が起こってキンドリング現象が出てしまうというのであれば、減薬・断薬はまったく不可能になってしまいます。
私の場合、0.1%/日で起こった閾値の低下は回復不可能なほど大きくは無かったのであろうと考えています。
これを図にすると下の図2のようになります。

図2


私の場合、最終的な閾値は0.3%/日よりも高い値であったと考えますが、症状の悪化や閾値の低下をもう一度起こしたくはなかったので上限には挑戦していません。
0.3%/日という減薬量に関しては、様々なブログを見させて頂いた上で、断薬に成功された方々と失敗された方々の一日あたりの減薬量と自分の体調や状況などを勘案した上で、感覚的にこの程度のスピードを上限にしようと個人的に感じた値になります。

この閾値の変化に関する考察は、今になって振り返って行っているものです。
なので、このような閾値の経過が初めから分かっていたならば、もっと十分な時間を空けて、0.01%/日よりも多い量から減薬すれば良かったのでは?と考えることもできます。
しかし、「十分な時間とは具体的に何か月、あるいは何年だったのか?」、「0.01%よりも多い量とは具体的に何%だったのか?」という問いに明確な答えを出すことは不可能です。
ということは、結局のところ、準備が整った時点で、失敗した量よりもかなり少ない量で再開して、徐々に様子を見て増量していくのがベストであるという結論に行き着き、実際に私が行った減薬とほとんど変わらなかったのではないかとも思います。

一つ反省点を述べるならば、私の場合、減薬を始めた当初には焦りがありました。
物質依存の一般論として、摂取期間と摂取量がより長期・大量であるほど依存が悪化し、積算の内服量と内服期間が後遺症などの予後に影響すると考えていたからです。
今も、この依存症の一般論はベンゾジアゼピンにも当てはまると考えますが、一方で、キンドリング現象や上記のような閾値の経過について考慮するならば、「急がば回れ」と考えて、可能な限りゆっくりと少しずつ、閾値の低下が起こらないように減薬することが必要であると言えます。
ベンゾジアゼピンの減薬においては、この相反する二つの原則のバランスをなるべく上手く取っていくことが必要になります。

そしてこの二つの原則のうち、特に意識すべきは「急がば回れ」だと思います。
体調不良の原因になっていると思うと、一刻も早く薬を止めたいと思って、多かれ少なかれ焦りが出るのが人情ではないかと思います。また、面倒な調剤の日々を一日でも早く終わらせたいと思う人も多いでしょう。
しかし、閾値の低下、キンドリング現象、後遺症に関しては、長期大量投与よりも急な減薬による離脱症状の大きさの方がより影響が大きいのではないかと私は感じます。
ですので、焦らないことの方が、急ぐことよりも大切になると考えています。

具体的に言うならば、例えば、私の実際の経過では、環境調整と0.01%の減薬の開始を同時進行で行ったのですが、環境が整わない状態で大きな離脱症状が出ていた可能性があることを考えると、環境が整う事と体調の回復を待って、その後に減薬を再開しても良かったかもしれないと思います。

上の図のような閾値の推移はあくまで私の場合の話であって、閾値の低下が起こらない人もいるかもしれませんし、私とは異なる経過を示す人もいるでしょう。
私は減薬を始める前にこのような閾値の変化がある事を把握できていたわけではありませんが、できればそれぞれの人が自分の閾値の変化のパターンをある程度把握できていれば減薬の失敗が少なくなるかもしれません。計画的に減薬を始める前であっても、意図せずに様々な理由で薬を中断した経験などがある場合は、その経過を振り返ることである程度推測できる可能性があると思います。
実際この記事に書いている私自身の閾値の推移については、私がベンゾジアゼピンに依存性や離脱症状があることを知らず、まったく意図せずに減薬・断薬・再内服を繰り返していた時期を振り返っての考察を含んでいます。
また、どんなに準備して減薬に取り掛かったとしても、私と同じくらいの過敏性のある方の場合、ある程度の試行錯誤や失敗は起こり得ることだと思いますので、そのたびに自分のパターンを把握して自分なりの減薬の感覚をつかんでいくことも必要になると思います。

補足ですが、ここまで書いてきましたように、私の場合には閾値が上がり切っていない段階で減薬を開始したと思われますので、減薬の期間中に閾値が上昇しました。しかし、ある人がこれから減薬を開始するとして、その人の閾値が図1のように推移すると仮定した場合、閾値はどこかの時点で頭打ちになりますので、現在の時点ですでに上限だった場合には、その後は上昇しないと考えられます。
ただ、実際の減薬においては、様々な要因が複雑に影響して症状が起きるかどうかや認容可能かどうかが変化すると考えられますし、全員がこの図のような閾値の推移を示すわけでもありません。実際、キンドリング現象が起こらなかったという方や、キンドリング現象など存在しないと書かれている方がいらっしゃったと思います。
ですので、この記事を読んで、自分の閾値がすでに上限に達していると思い込んでしまうことで、減薬を諦めてしまう必要はまったくありません。
ただ一方で、例えば0.1%の減薬で強い症状の出た人が、様々な工夫や変化があったとしても、いきなり100%の一気断薬で症状がまったく出ない可能性は少ないのではないかと感じますので、慎重な減薬を行うに越したことは無いだろうとも思います。

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