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キャスティングの妙

初回は12・7%。

これはNHK大河ドラマ「光る君へ」の視聴率。さらに

1963年「花の生涯」からの大河ドラマの初回世帯平均視聴率としては89年「春日局」の14・3%を下回り、歴代最低の数字に。

だそうだ。

NHK大河ドラマでは戦国武将ものみたいなものが人気が高くて、どうやら女性が主役のドラマはあまり人気がないようだ。だいたい大河ドラマって、信長、秀吉、家康が取っかえひっかえ登場する印象がある。いくさのシーンもない平安時代の、しかも女性の紫式部が主役の大河ドラマはかなり異色かもしれない。

ともあれ、私はこの数字にはかなりびっくり。だって、初めて私が「見たい」と思った大河ドラマだったからだ。テレビがないので当初は見ていなかったが、Amazonプライムで第1話だけ無料で視聴できたので、それを見たら続きが見たくなり、思わず、有料のNHKオンデマンド申込をポチッてしまった。

で、毎回楽しく見ている。キャスティングがおもしろい。特に、「よくこの人をこの役に抜擢してくれました。ありがとう!」と思ったのは、藤原道兼、藤原為時、花山天皇、安倍晴明、そして藤原道長。

道長を演じている柄本佑は好きな俳優だが、平安貴族の装束がこんなにも似合うとは思わなかった。髪型を当時のスタイルにしたら、整った顔の輪郭がはっきりと出てとても美しい。柄本佑の見目麗しさにうっとりしつつも、ついつい「どこが柄本明と似ているんだろ」という目で見てしまうのは私だけ??

道兼役の玉置玲央はそれまで知らなかった俳優だが、まひろの母を殺害したときの返り血を浴びた残忍な表情がすご〜く印象に残った。見るからに悪役という顔立ちではないのに、キレて狂気に走るときの表情がよかった。しかも、屈折した心や満たされない心を抱えていることが伺える人物を好演していて、ときに「なんて嫌なやつだ」と思い、ときに同情しつつ見ることができる。道兼が次のシーンでどんな演技を見せてくれるのかと期待させてくれる。

岸谷五朗はあまり時代劇で見たことがなかったので意外だったが、まじめでいい人なのに、いかんせん要領が悪くてうだつが上がらない、という下級貴族の役どころにこの人の風貌がどはまりで、この配役、お見事!と思ってしまった。為時が出てくると、そこはかとないおかしみとペーソスを感じる。

これまでで一番楽しいと思ったのは為時と息子の乳母のいと(信川清順)とのシーン。為時がいとの手をとって「お前にも苦労をかけたなあ」みたいな労いのことばをかけるシーンがある。為時に手を取られ、優しいことばをかけられて、いとは一瞬「はぁ〜」と淡い期待を抱く。

が、それだけで、次の瞬間には為時はその場をあっさりと立ち去る。本当にいとに感謝して労いの言葉をかけたかった”だけ”だったという、女心などまったく読めない為時の野暮天ぶりがすごくいい。そして、淡い期待を抱いたのち、それが一瞬で泡のように消えてしまったときの、いとの、微かな期待が一瞬のちに落胆の表情へと変化する様子が、やたらとかわいくておかしい。このシーンは繰り返し見てしまった。私は演出の意図にどっぷりはまってしまったのかもしれない。

花山天皇は孤独と退屈を持て余し、やっと最愛の人を得ることができたと思ったのも束の間、妻を亡くしてしまい、どうしていいかわからない、誰を信じたらいいか、誰を頼ったらいいかわからない、大人になりきれない天皇を好演している。初めて見た俳優だが、現代劇ではどんな感じなのか、他の作品をぜひ見てみたいと思った。

ユースケ・サンタマリアは若いときのコミカルなドラマの印象しかなかったので、「え、安倍晴明?」と意外に思った。どんなふうに演じるのかと期待が増した。怪しい易経や呪詛を操る陰陽師の目の表情がよくて、私にはこの役はユースケ・サンタマリア意外には考えられないとさえ思ったほど。他の役では感じないが、安倍晴明の役ではメイクもすごく重要だなと思った。

キャスティングに違和感があるとドラマを見ているときになんとなく引っ掛かりを感じてしまうことがあるが、「光る君へ」はキャスティングがいいなと思った。しかもその期待に俳優陣が見事に応えてくれていて、毎回楽しめている。平安貴族の雅びやかで優美な衣装を見るのも楽しい。これは戦国武将もの大河ドラマにはまずない魅力だ。

視聴率は低いままのようだが、オンデマンドで視聴している私のような人たちは視聴率にカウントされているのだろうか。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

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