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玉井の夏休み・プロローグ

あっという間に梅雨が明け、酷暑と言われて久しい今年の夏。季節はどんどん移り変わるのにわたしの病気は治らない。自分だけが何かに置いて行かれているような気がする。
断薬・寛解してから職場復帰というプランを組んで療養していたが、どうやらそれは無理なようだ。いつも飲んでいる抗うつ薬の離脱症状に苦しんでそう思った。「平穏に日常生活を送れる体」の基盤に完全に向精神薬が居座っていて、なかなか消し去れるものではないということに気付かされたのだ。医者のミスで1日分少なく処方されたのが理由で1回分断薬したら、高熱を出した時のような寒気と関節痛、固いものに叩きつけられたような全身の痛み、そして何より考えが上手くまとまらず文章にすることも困難でとても苦しかったが、でもそれらも薬を飲むと全部治ってしまうのだ。離脱症状とはそういうものだ。それを踏まえて、職場復帰するなら服薬しながらの方が現実的だろうという結論に落ち着いた。
年始、寛解して社会復帰しよう、まずは減薬しようと抱負を立てたことを思い出す。ごめん、無理だった。夏になってもわたしはバリバリ同じ量の薬に頼っています。嫌なことがあった夜はデパスを1シートくらい多めの赤ワインで流し込み、意識を飛ばしています。先日初めて「酒で記憶を無くす」という経験をしました。酔っている間にガチャを引いていたようで、朝起きたら知らないキャラが画面に居座っていてびっくりしました。医学的にはブラックアウトというらしいですね。
そんな荒んだ毎日を送ったところで、誰もわたしに味方してくれないから、とにかく自分の機嫌は自分で取るしかない。物音や他人の匂いに敏感になり、人混みでパニックになって搬送されながらも、集中力を高めるために凝った絵を描いている。本当に生きづらくなった。都内は人が多すぎる。夏休みに託けて人手が多くて吐き気がする。学生時代や休職前はどんなに人が多くても平気だったから、これも病気によるものなのだろう。コミケなんて参加したらその日が命日になってしまうかもしれない。
「暇で働きたいと思い始めたら復職のタイミング」という言葉を耳に挟んだが、そんなこと思うわけないだろうと素直に思う。金のためとはいえ、好き好んで死地に身投げするようなことはしたくない。満員電車、息の詰まる昼休憩、態度のでかいお得意様、高圧的な上司、ザ・更年期の先輩、どこを取っても地獄だ。それはそうだろう。地獄とはこの世の比喩であり、死後には何もないのだから。
睡眠薬にワインを重ね重ね飲まないと碌に眠れず、心の穴を埋めるべくガチャと買い物に金を注ぎ込み、爆死しては膨れ上がるクレカの支払額と睨めっこしている。そんな玉井の夏休みが始まる。


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