大森望(編)『ベストSF2020』レビュー
『ベストSF2020』
大森望(編)
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いきなり別出版社の本の話ですがw 創元SF文庫で2008年から2019年まで12年間出されてきた『年間SF傑作選』の精神的(?)後継者として、あの(?)竹書房から刊行されたのが本書。2020年の年間ベストSF傑作集です。
編者はご存じ大森望さん。創元版は日下三蔵さんとペアで編纂されていたので、今度は大森望氏単独セレクションの〈ベスト日本SF〉集というカタチです。
2020年と言えば、コロナ禍が始まったばかりのころ。集められた作品たちにはその影響はあまり見えず、ビフォー・コロナというか、まだ世界が緊急事態に陥っていない平和な時代だったころの華やかな想像力たちが並んでいます。
では、それぞれの作品の一言感想イキマス。
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『歌束』円城塔
和歌をいろはをこねた束にお湯をそそぎ(!)流れゆきまた合わさる歌の断片と流れを香のように楽しむ風流なお話。って、この発想と、これを書ききる技がさすが円城塔! スゴイ!
『年金生活』岸本佐知子
待てど暮らせど届くことがなかった〈年金〉がやっと届いてみたら……? という奇想SF。こういう読み味のお話って最近なかなかないかんじ。おもしろい!
『平林君と魚(いお)の裔(すえ)』オキシタケヒコ
人類をはるかに超えた技術を持つ〈汎銀河通商網〉とのファーストコンタクトを果たした人類。しかし、超不平等な関税を課せられ、頭にきたアメリカンはエイリアンに一矢報いようと戦争をおっぱじめ、あっというまにアメリカという国ごと巻き上げられてしまう。それから20年、唯一の生き残りのアメリカ人美少女商人が、圧倒的な星間不平等関税と銀河を乗り越えて地球に帰還する。コテコテの大阪弁でしゃべりながら。
という、これだけでもうご飯何杯も頂けそうなお話の、『続編』がこれw
著者のオキシタケヒコさんは、ゲーム・スーパーロボット大戦などのシナリオをかかれている方。なるほど、映像的というか、そのままゲームやアニメになりそう(うけそう)な設定が上手い。
続編も続編でおもしろかった! なるほどねえ。ワタシはイソギンチャクよりタコを想像しちゃいましたけどw
『トビンメの木陰』草上仁
さすが草上仁、ショートショートの教科書のような造り。そして、あとがきと結実する二段落ちのタイトル。すばらしいー。
『あざらしが丘』高山羽根子
アイドル+捕鯨SF? なぜかアイドルユニットが捕鯨をするというお話。ほげぇ。
『ミサイルマン』片瀬二郎
ブラック企業と外国人労働者の寓話……なのかなあ?
ロケットとミサイルの違いは弾頭に爆弾が付いてるかどうかだって話を思い出しながら読んでました。
『恥辱』石川宗生
ノアの箱舟を題材にした話はあまたあれど、この視点はまずないとおもうダークなファンタジー。
『地獄を縫い取る』空木春宵
これまたスゴイの一言。ペド・ゴシック・性愛的な、それでいて美少女AI制作もの。いやほんとうに衝撃的。読み手を選びそうだけれど、この地獄は味わってほしい感。
『断Φ(ファイ)圧縮』草野原々
スターリングエンジンの熱交換サイクルの原理、カルノーサイクルの断熱圧縮、その「熱」に当たる部分が「意識」だったら? というトンデモSF。なかなかハードで面白いw
『色のない緑』陸秋槎(著)・稲村文吾(訳)
百合SFアンソロジーのために中国語で書き下ろされたお話。日本語訳も上手いし本文も上手い。すごいなあ。
キーになるソウルジェム風のアイテムがSYNE(サイン)というのですが、スコットランド語ではscineの意味。過ぎ去った過去の情報。日本語のローマ字読みでも意味が通るなあなんて。偶然かもしれないけれどそこまで意識して書いているのかも。
『鎭子(しづこ)』飛浩隆
第46回星雲賞短編部門を受賞した『海の指』のスピンオフ……と思いきや、『海の指』がそのまま内包されている、スピンしてオフじゃなくてスピンオーバー? な作品。『海の指』な読み味そのまま別次元。好みは分かれそうだけれど『海の指』が読めたならばっちりハマりそう。
ちなみに『海の指』は
こちらで全文読めますので、未読の方はぜひ。
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大森望さんが2020年度のベスト作と推す11作品。わけあって『なめらかな世界とその敵』は収録できなかったそうですが、それなしでも十分楽しめました。
中でも↑の文章量でバレバレですがw オキシタケヒコさんの『平林君と魚(いお)の裔(すえ)』が私的に大ヒットです。良いわこれーw
その前作の『What We Want』がオキシタケヒコさんのSFデビュー作で、創元SF短編賞アンソロジーの『原色の想像力2』に収録されているとのこと。そちらは未読だったので、即ぽちりました。届くのが楽しみw
こういう短編集を読むと、いろいろ読みたい本が増えちゃいますね。
読みたい本と言えば、陸秋槎さんの百合SFも素敵でした☆ もとはハヤカワ文庫JAの『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』のために書き下ろされたお話だそうです。ほかにも読みたくなったので、こちらもぽちり。
秋の読書に合わせて燃料補充ですw
(まだまだ十分積読在庫があるのですけれどもw)
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