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『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義 完全翻訳版』レビュー

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『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義 完全翻訳版』

シェリー・ケーガン(著/文)柴田裕之(翻訳)

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誰だって生きてる以上いつかは死ぬわけで、「死」というものはすべての人間(というか生命)に平等に与えられている「終わり」なわけです。
そして、その「終わり」の後、どうなっちゃうのかは誰にもわからない。

もちろん、物質としての身体は、生命活動が終わったあとは土に埋められて腐っちゃったり、燃やされたりして、いつかは塵となって……、という風に、物質の分子・原子レベルでどうなるかはいまの科学でもわかってはいるわけですが。
が。そういうことではなくて、誰もが知りたいけれどわからない「死後の世界」は、あくまで精神の話、ですよね。
物理的な身体というハードウェアではなく、脳の中の情報処理機構や記憶・心・感情などのソフトウェアやデータが、身体が死んだらどうなっちゃうのか。
その情報=精神的な死後の世界を、宗教や迷信といった検証のできない想像ではなく、科学的な態度での理論的な検証と、哲学的な推論によってとことん追及し、それをわかりやすく大学で講義されている内容がそのまま本になったのが本書なのです。

以前、この半分弱の縮訳版が邦訳されていたようですが、これはその完約版、縮訳で省かれている形而上学的な話なども含めた講義全体を一冊にまとめています。けっこう分厚くて740ページ越えの大著になっています。
けれどもすべて平易な言葉で、哲学の講義とは言っても非常に分かりやすくすすめられていてサクサク読んでいけます。

だれでも興味があるはずの「死」というものの本質は一体何?
死んでしまったら、私の精神(心)はどうなってしまうのか、まったくの「無」になってしまう?
もしそうでないとしたら、「魂」が存在するということ?
「魂」とは何か?

などなど、一般的な疑問を、深く深く掘り下げていって、我々が持つ多くの誤解や迷信などに含まれている、希望的であったり悲観的であったり、考えなしであったりする思い込みを正してくれます。

ただし、本書の最初の方から明言されていますが、残念ながら(?)この著者であるイェール大学教授のシェリー・ケーガン先生は、「魂は存在しない。人のハードウェアが死んだら、ソフトウェアも一巻の終わりである」という持論の方です。

もちろん、決して読者にその考えを強制しようとはしないところが好印象なのですけれどw

本書では、ケーガン先生の持論をかんたんに解説した後、それよりもはるかに丁寧に、それ以外の多くの見解(もちろん「魂」はあるにちがいない!ナド)について解説し、もし仮にその立場に立ったなら、と自説にむけて反論をぶつけていきます。
宗教的な説明や迷信などと十把一絡げに否定するのではなく、もしこうならば、こうであるはず、しかし、そうなっていないということは、この意見は成り立たないんじゃない? といった形で一つ一つ論証していくのです。
その結果、様々な検証の末に残っている説得力のある見解は、残念ながら「魂は存在しない」である。と私は思うのだけれど、みなさんはどう思う? と、問いかけているわけです。

この手法は、SFによくある「もし〇〇だったら~?」というエクストラポレーションのテクニックそのままで、私にとって非常になじみのある思考展開です。その他にもけっこうSFからの引用が多く出てきて興味深いものがありました。SFは普通じゃ考えないような突飛な発想を引き寄せてくれるので、先生も愛好されているようですねw

さて、先生の持論「魂は存在しない」について、じつはワタシも読んでいて論破されてしまったクチなのですが、これが決して不快な読書体験ではありませんでした。なるほど、なるほど、と思いながら読めたということもありますし、「死」というものを目隠しせずに直視することによって、「生」の意味をあらためて、今生きているくせによく考えていなかったことを浮き彫りにしてくれる感じがして、なんというか、いっそすがすがしい気持ちにさせてくれる本なのでありました。

表紙に金彫りで書かれている「人は必ず死ぬ。だからこそ、どう生きるべきか」という言葉そのままに、生きている意味を逆説的に考えさせてくれる。生きているすべての人に、生きているからこそ考えてほしい。この本は、そんな、考えるきっかけと手引きとなる良書なのです。

※そうそう、余談ですが、SFの話で印象深かったのが、カート・ヴォガネットの『猫のゆりかご』からまるまる1ページ引用されるところがあります。
(カート・ヴォガネットを持ってくるところがケーガン先生、好きねぇ。ってかんじですがw)
で、『猫のゆりかご』は私もむかーし読んでいたはずなのだけれど、まったく当時は意味がわからず、ぴんときていなくて記憶にものこっていなかった部分なのですけど、この本を読んでさまざま理解した後に出てきちゃうと、がらっと印象がかわりまして、これがまた非常に感動的なのです。
うわあ、カート・ヴォガネット、わたし全然わかってなかったけどめっちゃ深いやん。。って、文を読んでおもわず涙してしまいましたです><
そんな意味でも、あらためて魅力をおしえてくれたケーガン先生ありがとうなのです。
『猫のゆりかご』、本棚にあったかなあ。ちょっと探しに行ってきます(ФωФ)☆

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#シェリー・ケーガン #柴田裕之 #哲学 #宗教 #生死観 #おすすめ本 #らせんの本棚

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