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似て非なるものについて思うこと

以前にも書いたことはあるが、我が家の料理全般は僕が担っている。
しかし、仕事が終わり帰宅すると大体21~22時頃になるため、平日は次のようなサイクルがここ数年のルーティーンとなっている。

帰宅

夕食をとる(前日に準備したもの)

調理(翌日の夕食づくり)

キッチン周りの片付け

入浴・歯磨き

就寝

このかんに子どもの歯を磨いたりといった細々こまごまとしたタスクもあるが、ここでは割愛する。
翌日の仕事を考えれば行動できる時間は3時間程度しかないため、そこそこテキパキと動いている。
妻との会話(事務的な用件も含めて)はこれらの作業をしながらということになるが、娘と一緒に布団に入る妻は寝るのが早い。
毎日というわけではないが、彼女が寝入る前に僕はたった一つの質問をする。

「明日の夕飯、何が良い?」

具体的な料理名が出てくることは期待していない。
和食、中華、肉、魚、米、麺…といったザックリとしたジャンルだけでも出てくれば、多かれ少なかれ期待に応えられるだろうか、と思っての質問だ。
胃が弱っているなら優しいメニュー、疲れているなら肉だろうか、などという観点で、一応情報収集を試みるが、返ってくる答えは、高確率でこれだ。

「何でもいい」

この回答、ありふれたものではあるが、人の(少なくとも僕の)テンションを下げ、全てのやる気をなくさせるものだと思っている。

この「何でもいい」、やはり気分の良いものではない。
が、しばしば議論の的となるので僕がここでグダグダと語ることはしない。
ただし、僕は毎回(二度と訊くものか)と心に誓う。
結局忘れてまた訊くのだが。


「わかった」

とだけ返事をし、僕はイヤホンをして自分の世界に閉じこもったところで、せっせと家事をこなし始める。

こんなことを考えながら。

(このジャガイモを茹でも炒めもせず、生のままでカットし皿に盛りつけてやろうか。何でもいいんだろ?)

(大皿にカロリーメイトを2本並べておいてやろうか。何でもいいんだろ?)

(カップ麺をピラミッドのようにキッチンに積み上げて「どれ食べてもOK」と書いたA4サイズの紙でも貼り付けておいてやろうか。何でもいいんだろ?)

我ながら性格が捻じ曲がっている
そして僕の地雷はどうも、「何でもいい」が起爆スイッチとして実装されているようだ。

もちろん上記のようなことはしないし妄想の範囲なのだが、万が一これをやられたとしても文句は言うな、と本気で思っている。
何でもいい」とは、そういうことなのだ。

こんな妄想をしながら、もうすぐ出来上がる肉じゃがの味付けにかかる。
ふと、思いつく。
いつも醤油で仕上げるが、今日は味噌を使ってみようか。
味見をする。バッチリだ。
コクのある感じが美味しい。
温度が下がるにつれて食材に味が入っていくことを加味すると、明日の夕飯時にはさらにクオリティも上がっていることだろう。


翌日の帰宅後。
先に夕食を済ませて娘の世話をしている妻に話しかける。
自分から味の感想を言ってくることは基本的に無い(この時点で「なんかいつもと違うところ、ない?」などという無駄クイズを出題する権利は、妻にはないと思っている。)ので、肉じゃがの出来についてこちらから問う。

「肉じゃが、味噌で仕上げてみたんだけど、味は大丈夫だった?」

「え?美味しかったけど、味噌だったの?全然気づかなかった。へー、醤油じゃなかったんだ。まぁ、どっちも大豆だしね!



営業の仕事をしていると、時折こんなことがある。

例えば僕が作成した合計金額34,800円の見積書に対し、取引先の担当者から「800円、どうにか綺麗になりませんかね?」という価格交渉。
充分に利益は確保しての積算であるし、彼が価格交渉をしてくることは想定済なので、あえて最初から端数を切らない形で提出していた見積。
「えー?じゃあ今回だけですよ!34,000円にしとくんで、引き続きお願いしますよ?」
お互いに見え透いた棒読みの演技で800円の差異が生まれるわけだが、こんな会話が案外仕事をする上での潤滑剤になっていたりする。
本来の僕の想定は33,000円。
1,000円のプラス。

別の取引先。
僕が作成した合計金額1千320万円の見積書に対し、取引先の担当者から「320万円、どうにかなりませんかね?」という価格交渉。
それに対し僕は、
「えー?じゃあ今回だけですよ!ちょうど1千万円に…」



…なるわけないだろ。
交渉下手かよ。
真顔で320万円の値引き交渉しようとする所業、アホなのか。
冗談はネクタイの柄だけにしてくれ。




似て非なるもの。
パッと見は似ているが、本質は根本的に違っていることをいう。

肉じゃがの味の決め手となる醤油と味噌。
たしかに原料はどちらも大豆だ。
ならば、マグロの刺身に味噌をつけて食べるというのだろうか。

見積の1千320万円と1千万円。
文字列として見た場合は少しの違いに見えるかもしれない。
しかし国産のコンパクトカーならば余裕で新車を購入でき、グレードも好きに選べる金額がこの差額320万円だ。

自首と出頭、重傷と重体、アメリカ合衆国ハワイ州とスパリゾートハワイアンズ。
この手のものは枚挙にいとまがなくどれも似たようなものに見えるかもしれないが、どれも全くもって違う。
僕の住む仙台から福島県いわき市のハワイアンズまでは車で3時間だが、アメリカのハワイともなれば飛行機移動は必至だ。





今シーズンはグラコロを食べ損ねた、というようなことを妻が言っていた。
もしかしたら間に合うかもと思い一応調べてみると、どうやら1月の上旬で販売は終了したらしい。

毎年グラコロの季節になると「バンズもパン粉もホワイトソースもマカロニも、ぜんぶ小麦粉だよね?」と、使い古されたしょうもないネタをドヤ顔で言ってくる輩にならい、(袋入りの小麦粉でも目の前に置いてやろうか。何でもいいんだろ?)というような妄想をしつつ、マクドナルドの新作スイーツ「クッキー&クリームパイ」を2つテイクアウトして帰った、ある平日の夜。
僕の捻じ曲がった性格が真っすぐになる事は未来永劫ないだろうが、甘いものを食べたら少しだけ気分が和らいだ気がした。



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