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そろそろあの膠原病を診断しよう

本当に恐縮なのですが、noteは幾つか書きかけてそのまま公表していない〔公表するほどの完成度ではない、まさにチラ裏の雑文で、「クソ日記」として公表するクオリティに達しない〕下書きが複数ストックされてます。

以下はとある先生からの問い掛けに応じて書き始め、非-医療者にもわかりやすく書きなおすつもりが、そのままお蔵入りしていたものです。
また気が向いたら文献的考察の追加や言い回しの変更など行うかもしれません。

〔注: 田中芳樹「銀河英雄伝説」のネタバレを含みます。ヘッダー画像は「イラストお絵描きばりぐっどくん」より〕

田中芳樹「銀河英雄伝説」の最終巻、皇帝となったラインハルト・フォン・ローエングラムは「変異性劇症膠原病ヴァリアビリテートゥ・フルミナント・コラーゲネ・クランクハイト」で満2年余の短い治世を終え、25年間の激動の生涯を閉じることになるのだが、それはつまり何病やねん?と、ビッテンフェルト提督ならずとも声を荒げたくなるだろう。

症状については以下の短い記載のみで、それと発症年齢が20代ということのみがclueとなる。

「高熱、臓器の炎症および出血、それにともなう痛み、体力の消耗、造血機能の低下、それによる貧血状態、意識の混濁、それらが症状としてあげられるが、ラインハルトは、高熱を発したときでも、これまで意識は混濁せず、錯乱におちいることもなかった。〝ルビンスキーの火祭り〟に際して病室からの退去を拒否した以外には、精神の不安定をしめす例もない。その容貌も、こころもち痩せて白皙の肌が蒼みをおびたかに見える、それ以外には病変らしいものがなかった」

—『銀河英雄伝説10 落日篇 (らいとすたっふ文庫)』田中芳樹著

https://a.co/irJ1A6u

Problem List
#1 発熱
#2 臓器の炎症
#2-1 消耗
#3 出血
#3-1 疼痛
#4 貧血
#4-1 造血機能低下
#5 意識レベルの低下

つまり、恐らく「強い全身性炎症」「中型・小型の血管の破綻」があり、「造血機能低下」が慢性炎症によるとすれば、標準的な膠原病・リウマチ専門医が血管炎〔免疫の異常による血管壁の破綻・血管閉塞による臓器梗塞・全身性炎症を主徴とする症候群〕を想起するのは容易である。

Wikipediaより: 全く似ていない。要出典

一方で、血管炎の有力な治療薬である糖質コルチコイド〔いわゆるステロイド〕の投与を受けた(外見的)形跡に乏しいのは、もしかすると皇帝自身が何らかの意向・直感で拒否したのかもしれない。
やんごとなき方の主治医は大変です。

では、どのような種類の血管炎か。
血管炎(症候群)は、主に侵される血管の径によって大型血管炎から小型血管炎に分類され、さらにその中で特定の疾患名に分類されるのだが、上記症状は「中型・小型血管炎」の症状に合致する。

リウマチ科医は1,000回以上見ている図

発症年齢・想定される人種などからGPA〔Granulomatosis with polyangiitis: 以前Wegener肉芽腫症と呼ばれていたもの〕は有力な鑑別だが、経過中95%のGPA患者さんが経験するとされる上気道症状についての記載がない。
MPA? まぁそうですけどね、腎炎もなさそうじゃないですか………
PAN?? まぁね………

個人的に、これは「成人発症DADA2(ADA2欠損症)」だと思うのです(断言)。免疫不全や骨髄不全の要素が薄く、血管炎症状が前景に立つことも、成人発症例として平仄は合うかと思われます。貧血も、慢性炎症性貧血だけではなく赤芽球癆(PRCA: pure red cell aplasia)を併発しているのかもしれません。「変異性」の意味が今ひとつわからない(そもそも「変異性」から始まる疾患・症候群名を聞いたことがない)のですが、きっとADA2遺伝子の変異なのでしょう〔牽強付会〕。

〔NEJMに掲載された最初の報告〕

諸君は呼んでないぞ

2014年に報告された疾患を1980年代に予見・記載した田中芳樹の鬼才ぶり(いやいやいやいや??)に驚くが、どこからこの症候群の元となるヒントを得たのだろうか。

ステロイドとTNF阻害薬のある世界線であったら、皇帝の治世はより長いものであった可能性が否めないが、そのパラレルワールドではモノクローナル抗体製剤の補給線が「皇帝の生命線(Die Rettungsleine des Kaisers)」と呼ばれていたことと思う。

*****

最後に………
ステロイドだけではどうしようもなかった全身性壊死性血管炎に対してCyclophosphamideを追加することで予後が改善することを示したのが若き日のTony Fauciである。1979年の論文。

劇症の膠原病・血管炎、HIV/AIDS、新型インフルエンザと闘い、そして今回NIAIDSのheadとしてCovid-19並びにTrumpと戦った「小さなMedical Giant」に拍手を送りたい。

「Trumpと共に」ではなく

ということで………

読み終わったんやろか。

*****





白状すると、田中芳樹には「夏の魔術シリーズ」で性癖(誤用)を歪められた感謝の念(誤用?)しかないのだった。
アニメ版銀英伝で「魔術師」ヤン・ウェンリーが暗殺される前、最後に読んでたのが"MAGIC of SUMMER"(by Yoshiki Tanaka)です。
いやそういう魔術ちゃうし?!

この表紙のやつ(1988年5月)


銀英伝は僕のなかではなんというかおまけ。

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