2020年7月1日
悪疫は,辺境にある当地にとっては遠雷のようである.
しかし,当地でも相変わらず,面会制限が続いている.
この地にこれからも住み続けざるを得ないスタッフは,上が決めたことに盲従するしかない.盲従するうちに,判断力を奪われ,何が正しいのか次第にわからなくなっていく.
現場では,看護師たちが,死にゆく患者に一目だけでも会いたいと縋ってくる家族たちを,門番のように追い返す役割を担わされている.
家族とともに最期のケアを紡いできた彼女たちにそのような苦役を強いるのはとんでもないことだ.
「何をやっているのかわからない」「何が正しいかわからない」そんな声も聞こえてくる.
そのような汚れ仕事は,決め事を作った「彼ら」がすべきことだ.
私は,医師としての行動規範と,現在の状況に基づく判断をしながら,家族と共謀しつつ,面会制限を無効化し,最期のひとときを共に過ごしていただく.どうすればこの無理ゲーをクリアできるか,家族とともに考える.
決め事を作った「彼ら」に対して,縋る家族を追い返した場合に生じうる,「彼ら」にとって不都合な事態を持ち出して,「彼ら」を脅迫する.それでも追い返せというのなら「彼ら」自らが実力行使すればいいだけの話だ.決め事だけ作って現場に丸投げして高みの見物というのは許されない.
制限を無効化し,家族を患者に会わせている私が,現場に混乱を招いているのは百も承知だが,そもそも,人の死に目に家族を会わせない権利など,誰も持ちうるはずもない.
われわれは日々,粛々と最期のケアに没頭する.
それ以外の雑事を強いないでほしい.