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陶片から情報を読み取って元の器を想像する遊戯
まずは、こちらの陶片をご覧ください。
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上から、口縁、胴、高台(器の足の部分)と繋がっているのが分かるだろうか。
上がどこまで続くか分からんだろがい!というツッコミもあるかもしれない。上の模様をよく見ると、四方襷文であることが分かる。これが器の中間に入ることはほぼ無い。むしろ口縁部によく使われる模様と言って差し支えないだろう。よって、これは陶片の縁はほぼ器の口縁に当たると推測出来る。
さらに、胴の模様は丸の中に「壽」とあり、その左に見切れている丸の中も「壽」の一部と重なる。なので、この器の胴部は、丸に壽の文様がスペースを空けて施されていると推測出来る。
そういったヒントを陶片から読み解き、元々の器全体を想像すると以下のようになる。
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・陶片は器の上から下まで全部ある→煎茶碗の一部
・ゴム印判(大正〜昭和戦前に使われた絵付け技法)
・「丸に壽」が一定の間隔でスタンプされた柄
この煎茶碗はアンティーク食器屋さんで見かける機会の多い大量生産品なので、特にヒントを拾わなくても「ああ、これね〜」と分かる人もいるのではないだろうか。みなさん、私がその一人です。どうぞ盛大な拍手でお迎えください!どうもどうも。いや〜……そろそろ拍手をやめてスクロールしてください。
今回は陶片から全体像を想像する回です。よろしくお願いします。
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○
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矢羽根模様で高台が少しだけ付いている。高台からは真っ直ぐ立ち上がっているため、蕎麦猪口の下の方だろう。つまり、こう↓。
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もう少し詳しく見ていきたい。
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高台のカーブ具合から、底の円の半径は約3.5cmと分かった。これはいくつかの円を半透明のシートに書いて、カーブ具合が合うものを探すことで特定した。すると口径は7〜7.5cmくらいか。
口縁と見込み(内側の中央の部分)の模様が分からない。矢羽根模様の筆致を見ると、線の太さがバラけており、勢いがあってやや雑な印象を受ける。じゃあ、内側の模様もそこまで凝ったものではないのでは。
高台は蛇の目高台(高台内の釉薬をドーナツ型に剥がしたもの)だろう。
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産地によって高台の造りは若干異なるが、江戸後期から明治期の猪口は蛇の目高台が多いと思う。全てを見たわけではないから断言は出来ないけど、でも、しかし。江戸中期の猪口って、高台は畳付き以外施釉されているものばかりだし、筆使いもっと丁寧だし、もし筆の荒いものだとしたら不純物が混じった素地を使うし、まあ中期ではないでしょう。……もう蛇の目高台で良いよね?
薄々気付いていたが、この遊び、「読んでる人に信じてもらう」が重要すぎてヤバすぎる。想像ですのでね……オホホ……
気を取り直してまとめよう。私の想像によると、陶片の全体像はこうなった。
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・陶片は猪口の下の方→蛇の目高台
・口径は7cm〜7.5cmくらい?
・内側の模様もそんなに凝ってなさそう。定番柄になりそう。
陶片だけ見てた時は、もっと小ぶり(口径6.5cmくらい)なのかな〜って思ってたけど、めんつゆに浸しやすいサイズっぽくて意外だった。普通に欲しい。
▽▼▽▼ NEXT ▽▼▽▼
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またまた染付の矢羽根。先ほどの陶片よりも落ち着いた筆運びで、個人的にはこちらの方が好みだ。造りが良さそう。
陶片の上下が分かりにくかった。そこで、矢羽根の向きに注目した。縦線を中心にして斜線を配置しているように見えるが、縦線には太くて白抜きのものと細いものがある。調べてみると、白くて太い軸に対し、矢尻を下に置いた時の方向に斜線を引くようだ。ただ、矢羽根の向きが分かったところで、今回の陶片の絵付け職人が同じ常識で描いたかは分からない。
陶片を裏返してみると、片側に二重輪線の一部が残っていた。これがおそらく口縁だろうと推測。もし見込みならば底に近づく分ちいさな円になるはずだし、二重にしなそうなので。改めて陶片の上下を確認すると、私が理解した通りの矢羽根の向きで合っていた(先に挙げた陶片画像の向き)。
また、陶片の矢羽根の縦幅があまり無いから、そんなに高さのあるものではないだろう。これはもう背が低くて丸みを帯びた輪茶碗かころ茶碗であるように思える。
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口径は陶片を上から見た時のカーブを参考にした。直径およそ7cm。定規で7cmを測ると思ったより小さい。手持ちの輪茶碗と比べてみたら似ている気がした。
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まとめると、こうだ。
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・矢羽根模様の裏には二重輪線が描かれており、こちら側が上になる。
・口径は7cm程度か
・陶片のカーブ具合から丸みを帯びた形と分かる
・矢羽根の描かれている幅が短く、器の背は低そう
口縁に二重輪線があるし、見込みに絵付けが無くてもおかしくないよなあと、シンプルな感じにしてみました。ころころとして、手の収まりが良さそうだ。かなり好きなタイプの器だった。
ラスト↓
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明治前期の型紙刷り。模様の途切れている部分は雪輪の一部と思われる。それと、高台が良い感じに残っているから、高台の大きさから逆算して全体の大きさと雪輪の配置を考えてみる。
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高台内の直径が10〜11cmと分かったので、それに近そうな器を観察。
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←6.5寸皿(径約19.5cm)、高台直径12cm
→5.5寸皿(径約17cm)、高台直径9.5cm
6寸皿(径18cm)ぐらいか。陶片がほぼ平らだし、高台の大きさから見ても平皿だろう。
雪輪のほぼ真下に高台が位置しているので、雪輪は見込みに来る説が濃厚に。縁の模様が一切分からない!情報が少なくて困る!よーしわかった!よくある柄にしちゃおう!
で、出来たのがこれってワケ。
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・明治前期の絵付け技法「型紙刷り」
・途切れた模様は雪輪の一部で、器の中央に来そう
・6寸(18cm)くらい
・縁の模様が一切分からない
いや、ありうる。あるだろ、これ。無かったらあったことにしてよ。あと線が多くて描くのが大変だった。印判って型を使うことで絵付けの手間を省くものなんだけど、そりゃあ手描きで絵付けするよりずっと楽だし早いよな!って思った。そういうことも知れた良い機会でしたね。
○
いかがでしたか。私はすごく疲れました。でもまだ全貌を暴きたい陶片があるので、またやります。ひとまず今夜は寝かしてください。
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こういう系の話が好きな方は↓をどうぞ。
次回更新予定 12/2:ちょっと悩む
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。
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