見出し画像

1-6. 非晶質

こんにちは。おのれーです。ようやく1章もラストです!

これまでいろいろな化学結晶について見てきましたが、今回は「結晶ではない固体」に注目をしていきたいと思います。

■結晶ではない固体?

1-1.化学結合と結晶の種類でも書いたように、固体では、固体をつくっている原子やイオン、分子などの粒子が、粒子同士の間にはたらく引力によって、一定の位置に固定されています(下のイメージ図参照)。

画像1

これまで学んできた「金属結晶」「イオン結晶」「共有結合の結晶」「分子結晶」とよばれる固体は、原子・分子やイオンといった構成粒子が規則的に並んだ状態にありました。このように世の中にあるほとんどの物質は、固体状態として存在するとき、構成粒子が規則的に並んだ「結晶」の構造をとっています。

しかし、ごく一部の物質は、原子が不規則に並んだまま固体となった「非晶質(アモルファス)」という状態をとっています。

画像4

では、なぜこのような構造ができあがってしまうのでしょうか。もう少し非晶質について詳しくみていきましょう。


■非晶質ってどうやって作るの?

小学生の頃、夏休み自由研究などで「結晶づくり」をやったことがあるでしょうか? 

大きな結晶を作るためには、できるだけ液体をゆっくり冷やしていく必要があります。もし興味のある方は、日本ガイシ(株)のHPに方法がわかりやすく解説してありましたので、ご覧ください↓↓

なぜ、ゆっくり冷やすと大きな結晶ができるのでしょうか?

それは、液体物質をゆっくり冷やせば、原子や分子などの構成粒子がきちんと配列して結晶になることができるからです。それに対し、急速に冷却してしまうと、構成粒子が規則正しく配列するまえに位置が固定されてしまい、結晶になることができません。

画像6

このように非晶質は、構成粒子が規則正しく配列していく速さを超える速さで冷却をすれば、つくることができます。


■非晶質のいいところ

近年、非晶質は特殊材料として、いろいろな用途への応用が期待されるようになってきました。それはなぜでしょうか?

非晶質には、次のような長所があります。

・好きな形に加工でき、大型の物質をつくることができる。
・強く、粘り(靭性)のあるものをつくることができる。
・少ない工程で製造できるので、低コストでの大量生産が可能。

非晶質の例として最も有名なのはガラスで、主成分は二酸化ケイ素SiO2です。ガラス製品には、窓ガラスやコップ、実験器具、レンズなど、世の中には複雑な形をしていたり、大型のものもたくさんあると思います。しかし、ガラスでできているものを、天然の石英(二酸化ケイ素SiO2の結晶)を削ったり、つなぎ合わせてつくることは極めて難しいです。同じ二酸化ケイ素の固体であっても、非晶質なのか、結晶なのかで扱いはだいぶ異なります。

このように非晶質は、同じ組成(同じ化学式で表される物質)であっても、結晶とは異なる性質を示します。

では実際に、非晶質の材料は、どのような場面で利用されているのでしょうか。


■非晶質の工業製品への応用

◎石英ガラス・ソーダ石灰ガラス

石英やケイ砂(いずれも主成分は二酸化ケイ素SiO2)の融解液を急冷すると、非晶質の石英ガラスが得られます。

石英ガラスは光ファイバーに用いられ、また、耐食性、耐熱性に優れるため、各種の実験用器具などにも利用されています。

画像2

光ファイバー(photoACより)

また、二酸化ケイ素SiO2、炭酸ナトリウムNa2CO3、石灰石CaCO3の混合物を加熱して得られるソーダ石灰ガラスも非晶質であり、安価なことから板ガラス、ガラス瓶などに広く利用されています。

画像3

ガラス張りのビル(photoACより)

◎アモルファスシリコン

ケイ素Siの融解液を急冷すると、非晶質のケイ素が得られます。これを、アモルファスシリコンとよんでいます。ケイ素の結晶と比べて、加工が容易であり、薄膜にもすることができるのが特徴です。

従来の太陽電池にはケイ素の結晶を薄くスライスしたものが用いられてきましたが、ケイ素は共有結合の結晶であり非常に硬いため、直径が数十cmのシリコン板をつくるのに、何時間もかかり、コストが高くつきました。

しかし、アモルファスシリコンなら、ケイ素の蒸気を冷却された基板に触れさせることで、広い範囲に、しかも曲面や段差があっても一様にケイ素の膜をつくることができるので、ローコストで大量に性能の良い太陽電池を作ることができるようになりました。

画像5

太陽電池のソーラーパネル(photoACより)


◎アモルファス合金

2種類以上の金属を融解させて混ぜ合わせ、冷やして作った混合物のことを合金といいます。合金には、銅と亜鉛からできている真鍮(ブラス)、銅とスズからできている青銅(ブロンズ)、鉄とクロムとニッケルからできているステンレス鋼などがあり、それぞれの金属を単体で使うよりも丈夫になったり、加工しやすかったり、軽量化できたりと、用途に応じて様々な合金が使われています。

しかし通常、金属同士で合金をつくろうとすると、冷却している間にあちこちで結晶ができはじめ、継ぎはぎだらけの結晶となってしまい、継ぎ目で強度が落ちた合金となってしまいます。

一方、2種以上の金属を含む融解液を急冷すると、非晶質の合金が得られます。これは、アモルファス合金とよばれ、液体の時と同じように、異なる種類の金属同士が均一に混ざり合った状態を維持したまま固体にすることができるので、強い強度や、すぐれた耐食性を示すようになります。


このように、アモルファス材料は、まだまだ未知の可能性を秘めた面白い素材だと言えます。急速冷却の技術などにまだ課題が残っていますが、そうした技術が向上することで、用途も広がり、さらに一般に普及することが期待されています。


最後にワンポイントチェック

1.非晶質とはどのようなものか。
2.どうやって非晶質がつくられるのか。
3.代表的な非晶質にはどのようなものがあるか。


とりあえず、これで1章は終わりです。次回からは「物質の三態」について考えていきたいと思います。お楽しみに!


←1-5. 分子間力と分子結晶 | 2-1. 物質の三態とその変化→

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?