膨大に溢れたレシピの数々。その価値の違いを何処に見出す?何で判断する?
■レシピに価値の違いをどう見出すのか
とある投げ掛けを見かけた。それは『レシピ自体に価値の違いはあるのか?』という問いかけでした。
この時代に、ありふれたレシピという文字の羅列は『過去と比較して価値が無くなってきているのではないのだろうか』という疑問に直面している人は少なく無いと思います。
たしかに、簡単な料理のレシピは今の時代ありふれ過ぎている。
皆さんはこの問い掛けにどう答えますか?
■共感力、時代背景の違いとは
レシピという文字の羅列に価値があるとすれば、その大小は、それが生み出された歴史的背景に依存しているという考え方が出来ます。
絵の価値、人の価値も、世間から相対的に見た歴史的価値の大小に帰着します。つまりレシピを生んだ人の時代背景に、共感出来るかどうか、それに価値を感じるかどうかが重要な指標になります。
先でも述べたようにレシピとは所謂、文字の羅列です。しかしレシピ本が本屋に並んでいる事実を踏まえると、一つの商品(プロダクト)であるとも言えます。
この商品が、同一のクオリティという事を前提とすれば、『ミシュラン3つ星を獲得したシェフが編み出したレシピ』、『貧乏時代に作った激安レシピ』、『世界一忙しい人が毎日作るレシピ』など、レシピ自体に価値がつく訳ではなく、それを生み出した時代背景が加味されます。
(例)『ミシュラン3つ星を獲得したシェフが編み出したレシピ』
卵黄 2個分
塩 小さじ1
サラダ油 1カップ
酢 大さじ2
(例)『一般人が捻り出して考えたレシピ』
卵黄 2個分
塩 小さじ1
サラダ油 1カップ
酢 大さじ2
もし、これらの時代背景の枠組みが限り無く同一のものであった場合でも、最終的な判断は、それを生み出した人の価値によって商品(レシピ)の価値が決定します。
もちろん、『過去に参考にしたこの人のレシピが美味しかった』という経験から感じる価値の違いもありますが、一貫してその人の歴史的背景が関係します。
◾️レシピに価値を付けるには
全ての問い掛けに対する、正解の返答は1つではない事を踏まえると、自分自身が正しいと感じた答えが、その人にとっての正答になります。
人によって善悪の判断が異なる以上、同一の商品であっても価値の大小を判断する結果は、人によって其々異なる事を意味します。
商品の価値が同一の物が、一つの棚に羅列していた場合、顧客はその価値の対価を何処に払いたいかを無意識に考えています。
その無意識に手に取る指標の1つとして、商品が歩んできたストーリーや、商品を提供している人間性になります。
◾️価値の対価を何処に払いたいを考える
▶︎レシピの価値を他に例える。
アフリカ難民へ募金する窓口が5つあったとします。
それらの募金の使い道が全て同一の場合は、募金する目的に対してどれだけ純粋なルートで送金されているのか、またそれを信頼するに足る相手なのかが重要になります。
このように、対価を払う相手を決定するために必要な情報を追う必要が出た場合、情報量の差、知識の差で価値の提供先を、自分の目的に沿って選択できる精度が高くなります。
反対に目的に沿っていなくても、自分自身が価値の提供先を気持ちよく選べたら、結果はどうでも良いと感じている人も存在しています。
この話の本質的なところは、レシピに価値をどう付けるかではなく『どのように価値が付いているように見せるか』が重要なポイントだという事です。
商品の価値が同じだった場合、他の商品と差を付けるためには、「どのように魅せるのか」や「どの価値に対価を払いたいか」を工夫するという難題に向き合う必要があるのです。
◾️実際の飲食店に置き換える
インターネット上では沢山のレシピが溢れて飽和した結果、レシピ自体の価値が小さくなり、それが生まれた歴史や、生み出した人を指標にする比重が大きくなったという結論になりましたが、飲食店の実店舗はどうでしょうか
昔から『飲食店は美味しいのは当たり前』と散々語られてきましたが、事実そうでしょうか。私はそんな事はないと思います。
仮にも『飲食店は美味しいのが当たり前』だとすれば、私達が店を選択する際に、評価(口コミ)を参考にする必要が無くなるでしょう。
飲食店の価値は、単に料理の美味しさだけで決定するのではなく、他の飲食店との相対的評価が根底にあります。
単に美味しい、接客がいい、という理由では間違っていないが 言葉が足りず。その価値の大小を決定するには、他の飲食店と比べて相対的に上回っているか、下回っているかを前提に考える必要があります。
◾️単調な商品がありふれた結果辿る先
レシピという文字の羅列は、内容が決して複雑な物ではありません。レシピという単調な商品は、他にも、世の中に沢山あります。例えば、化粧品などの日用品が挙げられます。
化粧品などの日用品の殆どの原価は、広告料金が占めています。価値の違いを出すことが難しい商品は、商品の本質的な価値に対して、『売り方』の比重が上回っています。
単調な商品で有れば、そうであるほど、本来の商品価値とは別の所が重要な指標になります。
それと比較して飲食店はとても複雑的な要素が絡んでいるように思えます。
この複雑な要素(料理、接客、内装、立地、コスト)の価値が、他の商品と比較できないほど飽和する様には到底思えない分野だと思います。その中で料理を作るという点に置いては、さらに複雑な分野であると言えます。
実際に私がリピートしたいと思った店舗は、名古屋市の中でも、数える程度しかありません。事実として全ての飲食店が美味しいという訳ではなく、比較した場合に飲食店によって差があるのは明らかです。
複雑すぎて抽象化できない部類に入る飲食店は、料理だけを極めれば、圧倒的な武器になると捉えることも出来ます。実際に接客だけで成り立つお店もあるくらいですから、接客だけで十分な武器になると捉えることも出来ます。
これだけ複雑な事象を、伝える方法は抽象化して簡素化するしかありません(レシピなど)。
これらの飲食店で起こっている複雑な事象を抽象化する手段が、今の言語能力では限界があり、それが出来たとしても、分厚い教本のようになり理解するのも一苦労です。
抽象化して簡素化すればするほど、商品の価値ではない所が重要になってしまうのです。
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