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景色をつくる人

亡くなってから、その人がどんな人だったのかわかる時がある。

私にとって印象的な人は、仮名、佐藤さんだ。

近所に佐藤さんという一人暮らしのお爺ちゃんがいた。

毎朝8時にリアカーに道具を積んでご自分の田畑を世話して、時にはついでに近くの土手を草刈りして、夕方5時になるとまた、リアカーを引きながら帰ってくる

今では珍しくない畑をするシニアという印象しかなかった。
うちの隣に竹を何本も積み上げていて、最初は、よく分からない人だった。

それから時を経て

あの家の前に積み上げられていた竹は、桃の実がなるときに、桃の重さで枝が折れないように支えるために必要な主柱だと知った

春になると、桃畑の美しさに感動した

佐藤さんは、除草剤を使わず、まめに草刈りマシーンで草を刈っていた

でも、何故か、タンポポの花だけはくるりと小さな丸型に残されていた

近くの小川にはカワセミが来て、土手にはイタチが住んでいて、川で、亀が子育てし、名前が分からない小さな魚が泳いでいる。

雨が降ると田んぼから小さなカエルやザリガニが道路を、のんびり渡ってゆく

白鷺が飛んできて、秋には沢山のトンボが空を舞う
コロナ期、緊急事態宣言で自宅待機を余儀なくされた人たちが、

気分転換に土手を歩いては、亀の親子を見て
帰ってゆく

私はこの景色が好きだった

佐藤さんがいることに感謝し、
内緒で、ファンになった

今年も桃の花の開花を楽しみにしていた

でも、綺麗な花を咲かせた桃の木を、数日の間に切り倒す見知らぬ男性が現れて、

私は、今年、桃畑を見られなくなった

初夏になると、田畑の土手にはセイタカアワダチソウを始めとする雑草が1メートルにたっする

田植えが始まっても、佐藤さんの畑だけ水がない

売りにだすのかしら、、、寂しいけど

佐藤さんに何かあったのかしら、、、

しかし、しばらくすると
周りと一足遅れて、田んぼに水が入った

輝く水面をみていると、
私は、嬉しかった

さらにしばらくたったある日、

見知らぬ男性が、田植えを始めた
車のナンバーは隣の県。

息子さん?なのだろうか

休日だけきて、1日かけて手入れをはじめた

だが手が足りない

やむなく土手は、除草剤を散布して
田んぼの青さはキープ

次の週に草刈機で短く手入れされた

一見、物語は収まったかに見えたんだけれど、

気がついたら、
カワセミが姿を消し、
桃畑が無くなり
タンポポがなくなり
ザリガニを、今年は、みかけなくなり、
イタチがいなくなり、トンボとカエルと白鷺が
減った
今は、一時的に土手が、茶色く変色している

改めて

あの美しい景色は、佐藤さんの日々の手入れによって見せていただいていた景色だったんだと知る

それが身に染みて分かった頃

佐藤さんが天寿をまっとうされたと
回覧板でしった

ほとんど会話したことない人だったけど

丸い背中で一歩ずつあるく佐藤さんの姿が浮かんで手を合わせた

そして、生前、佐藤さんが桃の実を虫から守るために
消毒するときは、いつも、夕方にしてくれていた事に気がついた

私たちが、洗濯を取り込んで窓を閉めてから
薬を使ってくれていたことにも気がついた

それは、別の近所の人が、前触れもなく朝10時から消毒しているのをみて気がついた

うちは風上だけど、渦を巻いた風に乗って
我が家の窓からわずかに匂いが届いて気がついた
ただ、適正量だから、家族は無事ですけど

優しい人だった
ご冥福をお祈りします

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