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キックボクシング 8章~高校での自己紹介~

「兄ちゃん、あたし今日は先に学校行くから」
「ん? 送って行かなくていいのか?」
「いい、今日は平気なの」
「そうか。・・・・・・何でだ?」
「何ででも! それじゃ、行ってきま~す!」
 千夏はそう言うと、先に家を出て行ってしまった。恐らく大翔が足を怪我しているので、千夏は自分を中学まで送ってから、大翔が高校まで通うのは大変だろうと、気を使ってくれたのだろう。
 千夏のやつ、俺が高校に行くために向かう最寄り駅が千夏の中学校のすぐ横だって事、ド忘れしてるんだろうな。
 大翔は怪我のせいで普段より歩くのに時間がかかるので、千夏が出て行ってからすぐに家を出て高校に向かうことになった。
 また千夏に気を遣わせちまったかなぁ。
 大翔はそんなことを考えながら、高校に向かった。
 高校までは極力足を使わないように駅の改札から降りた後、普段なら歩ける距離でもバスを使った。高校の前に着くと、校門前には生徒会の役員がいて、新入生に挨拶運動をしていた。
「おはようございま~す! 入学おめでとうございます!」
「朝早くから元気だな」大翔はボソッとそう言うと、大きなあくびをした。
 校門の前を通り過ぎようとした時、男子生徒会役と目があった。すると、男子生徒役員は顔が真っ青になり、固まって動かなくなった。
「・・・・・・なん・・・・・・で」男子生徒会役員はポロッとそう言葉を漏らした。
 知り合いだっけ? いや、知らんか。見たことないしそもそも年上だし。あの時のヤンキーたちに、この高校に入れる程の学力がある奴はいないはずだし。
 大翔は眉をしかめていたが、気のせいだと思い、ペコッとお辞儀をして通り過ぎた。そして、そのまま校舎前に張り出されていたクラス表を見て、自分のクラスに向かった。
 1―Aか。二階の・・・・・・ここか。
 大翔は自分のクラスに入ると、何人かの生徒が固まって話しているのが見えた。黒板には自分の座席が書いてある紙が貼ってあったので、それを見て座席に着いた。
「きみ! こっちで話そうよ」大翔が声のする方を振り向くと、数名の男子生徒が集まってこちらを見ていた。
 おお、蓮介以外の同学年の奴に話しかけられたぞ! 何年ぶりだ? めっちゃ嬉しい!
「おう、行くよ」後からくる男子生徒もみんなで呼び込み、徐々に男子生徒の人数が増え、同じクラスの男子生徒が全員で集まって担任の先生を待つことになった。
 暫くすると担任の先生が来たので、集まっていた男子生徒も皆自分の席に着いた。ホームルームが始まり、先ずは先生からの自己紹介があった。
「初めまして。簡単に自己紹介しますね。私が担任の桜野 日葵(さくらの ひまり)です。国語の担当教員ですので、分からない事があったら是非聞きに来てくださいね! 私も初めて自分のクラスを受け持つので、緊張していますが、精いっぱい頑張りたいと思います! それでは、一年間よろしくお願いします」
 日葵先生はピシッとしたスーツに眼鏡をかけていて、暗めの茶色い髪を、後ろでポニーテイルにしていた。
 眼鏡教師。真面目そうな教師だな。
「それでは入学式までに出席番号順に自己紹介していきましょうか。じゃあ、まずは出席番号一番の方、名前と、出身中学、あとは入りたい部活もお願いします」
「○○です。○○中学です。サッカー部に入ります。三年間よろしくお願いします」
「○○です。○○中学を卒業しました。軽音楽部を予定しています。三年間よろしくお願いします」
 自己紹介は、名前、出身中学、部活を言うだけで大盛り上がりだった。そんな中、大翔は自分の番が来るまでクラスメイトの名前を覚えようと必死にクラスメイトを見ていたが、三人自己紹介すると、その三人より前の人の名前を忘れてしまう。中学時代、蓮介しか名前を覚える必要が無かったので、大翔にとっては歴史の偉人の名前を覚えるより難しかった。何とかならないかと思っていた矢先、自分の番が来て自己紹介をすることになった。
「あ、俺か」大翔は立ち上がった。
「おっ、うっかりしてたな?」
「なに部に入るんだ~? 俺と同じサッカー部か?」
 大翔は盛り上げてくれている人がいて、少しほっとした。そして自己紹介を始めた。
「黒川大翔です」大翔が名前を言った途端、辺りが静まり返った。クラスの殆どの人が、固まって動かなくなり、中には目が泳いでいる人もいた。
「えー、出身中学は八王子雷ノ中です」
「・・・・・・八王子雷ノ」さっき盛り上げていてくれたサッカー部の子が、ぽろっとそう言葉を漏らした。大翔がチラッとその子を見ると、「あ、いや、すいません」と言って縮こまってしまったので、大翔は自己紹介を続けた。
「外でキックボクシングをやっているので、高校では部活に入らないつもりです。よろしくお願いします」大翔がそう言うと、パチパチと拍手だけが聞こえた。
 自己紹介の時間はその後も続いたが、大翔以降の自己紹介以降で、初めのような盛り上がりを見せることは無かった。むしろ全員が拍手だけしかしないという静まり返った自己紹介の場になってしまった。
 やべぇ、高校に入ったら俺のこと知っている奴なんかいないと思っていたけど、これは結構俺のこと知っている奴がいるパターンだな。どうにか弁明しないと高校生活が終わるな。
 全員が自己紹介を終えたところで、日葵先生が話し始めた。
「それじゃあ、始業式までまだ時間があるので、同じ部活の人で集まって、話をしましょうか。帰宅部の人は帰宅部同士で集まって下さい」
「お、俺やっぱサッカー部入る」
「俺はバスケ部入る」
 帰宅部だった人が何人か他へ行ってしまった。大翔は苦笑いしつつ、帰宅部男子の集まっているところへ行った。と、言っても一人だけだったが。
「よろしく~」大翔がそう言って、そいつの横の席に座ると、その男子生徒が話しかけてきた。
「大翔くん」
「なんだ? 何くんだっけか?」
「・・・・・・田中だけど、同じ中学の」
「そうか、田中か。そうか、そんな感じの顔だったわ」
「そんな感じって、絶対覚えてなかったでしょ。まぁ、僕は同じ中学だから大翔くんが無意味に人を殴ったりしないこと知ってるけど、他の人怖がってるよ? 僕も手伝うから弁明しようよ」田中はそう言った。
 すると、帰宅部の女子が一人、それを聞いていたみたいでこう言った。
「ごめん、あたしも大翔と同じ中学だから、弁明手伝いに行ってくるね」
「大丈夫なの?」
「大丈夫よ、あいつただバカなだけだから」その女子はそう言い、大翔のところに来た。
「バカ大翔、あたしも手伝ってやるよ」
「おお! そうか、ありがとう。名前何だっけ?」
「同じ中学の佐藤だよ! あたしあんたと結構話したことあると思うけど?」
「同じ中学の佐藤? 中学の時、可愛い女の子の友達居なかったけどな」
「あ、そう、可愛いねぇ~。ふ~ん」
「何だ、ふ~んって」
「まぁ良いわ。それにしても本当に私のこと覚えてないの⁉ あたしあんたからキックボクシングの雑誌、結構見せて貰ってたんだけど?」
「キックボクシングの雑誌・・・・・・ああ! あの時の! お前佐藤って言うのか! 中学の時とぜんっぜん見た目が違うじゃ、」大翔は佐藤に口を塞がれた。
 佐藤はそのまま座っている大翔の額に自分の額をお押し当て、睨みつけながら小声でこう言った。
「良い? それ以上言ったらぶっ飛ばすからね? あたしはあんたが女の子には手を出さないこと知ってるんだからね。あたしと殺り合うとあんたが一方的に殺られるのよ。それ以上言ったら殺るわよ?」
「わかりまひたいいまへん(分かりました言いません)」大翔は口を塞がれているので、上手く喋れなかった。
 なるほど、佐藤は俗に言う高校デビューってのをしたのか。中学の時は前髪長くして眼鏡かけてて、ほとんど誰とも喋ってなかったと思うけど。今は眼鏡をかけてないし、髪も明るい色に染めてるし、何か髪型もおしゃれだし。
 佐藤と話をしているところを見ていた帰宅部の女子たちが喋りだした。
「女子には手を出さないなら平気じゃない?」
「ってか、あの噂信じてもしょうがないでしょ」
「私も、何か今見た感じ平気な気がする」
 それを聞いていたクラスの女子がどっと集まってきた。
「黒川くん、あの噂の話なんだけど・・・・・・。」
「そうそれ! 五十対二で戦ったんでしょ? 本当にそんなドラマみたいなことあったの?」
「暴走族を蓮介くんって人と二人で、仲間を守る為に戦って全員倒したって聞いたよ!」
「私も知ってる! 大翔くんがアメリカの大統領を殺したんでしょ?」
 出るわ出るわ俺の噂。自己紹介の時に知られてんなーって思ったんだよ。・・・・・・ん? アメリカの大統領を殺した? 俺がアメリカの大統領殺した事になってるのは何でだ? こいつら俺の事なんだと思ってるんだよ! 何でアメリカの大統領殺した事になってんだよ! 心外すぎるだろ! 第三次世界大戦が勃発しちゃうだろ!


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