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寒邪がやってきた

やはり、腎が冷えていた。
シャワーのあと、足にお灸をした。身体はほてっていた。寒くはなかった。今日は一日汗ばむほどのいい天気だった。ぐずついていた前線が去って空気が乾いたので冬物の衣類に入れ替えた。

お灸は市販の「台座灸」。手軽なので愛用している。身体のバランスを整えるツボ「照海」にすえた。ふだんならすぐ熱く感じるのに、おや?ぜんぜん熱くないな。

2つ、3つ……と追加する。お灸って「一荘、二荘……」って数えるんだよ。面白いよね。お灸の原料はもぐさなので「一草」が転じたもののようんだ。

で……、三荘目でやっと熱く感じ、四荘目で「あちち……」となったので終わりにした。

自覚していなくても身体の奥に冷えがある。東洋医学では秋が深まった頃の冷えは「寒邪」と呼ぶ。いまの時期は「寒さ」と「乾燥」の季節。腎と肺がダメージを受けやすい。わかっていたのだが、じっさい自分の冷えを確認すると「おお!」と思う。

簡単なことだけど、気づかなければ冷えたままになる。
お灸をすると温まり、身体がゆるんで眠くなったのでそのままベッドに入った。リラックス効果があり、眠りの浅い人にはありがたい。

朝、目が覚めてまずじぶんの下腹を触ってみた。やはり……腎のあたりがひんやり冷たい。まだ冷えている。こういう時は自分の手をしばらく左右の下腹においておく。じんわり手のぬくもりで温める。まさに手当てだ。

空気が乾燥して、明け方「こんこん」と空咳が出た。寝ている間に咽の粘膜が乾いていた。

腎は肺と関係が深いんだ。共に呼吸を担っていると東洋医学では考える。肺は乾燥に弱く、秋は肺の病に気をつける。腎は冬の寒さに気をつける。寒くて乾燥してきた今の時期は、双方を補うためにお灸は手軽だし、とっても効くんだ。

私の父は、肺ガンで亡くなった。アルコール依存症だったから肝臓ガンで亡くなると思っていたので意外だった。

「お父さんは若い頃に、アスベストのようなものを吸っていませんか?」と医師から言われ「あ、そういえば父は漁船の機関士で、ずっとエンジン室にいたと聞いてます」「ああ、それでね。そういう肺をしていました」

父が船を降りたのは何十年も前だ。若い頃の生活習慣はこのように身体に残るのか……と、ぞっとした。私も若い頃は煙草を吸っていた。昭和の時代、まだ煙草がファッションだった頃の話。かっこをつけたくて吸っていただけだが……、肺はたぶん吸わなかった人よりは固くなっているんだろう。

冷えは、なかなか手ごわい邪だ。冷えると血行が悪くなる。血の滞りが長く続けばそれが症状になっていく。人間の体は大きな生態系なので、どこかでバランスが狂うと、その人にとって一番弱いところ、弱っているところにしわ寄せがいく。

父の場合、アルコールのしわ寄せは、若い頃に無理をした肺に来たのだろう。元気だったが、気がついた時はもう末期だった。

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