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積読濫読/It’s a family affair
1.「母の遺産 新聞小説」水村美苗
(中央公論新社 2012年3月)
2.「猛獣ども」井上荒野
( 春陽堂書店 2024年08月)
3.「アイミタガイ」中條てい
(幻冬舎ルネッサンス 2013年04月)
1月に読んだ小説3本、何れも女流、って最近は言わないんだろうな。自分的にも、ここ20年くらいで好きな作家というと、柴崎友香、角田光代、西加奈子とか女性作家がすぐに思い浮かぶ。
1は「大使とその妻」で雷に打たれた水村美苗氏の前作.毒親と言ってもおかしくないレベルの母親に育てられた50代後半の姉妹、特に妹の方から見た場合の親子関係と見取りの話が前半。と言ってもそれなりのクラスの話で、貧乏くさいシーンは殆どない。
後半は、その母親が亡くなって3000万円ほどの遺産を手にすることになった妹が、サヴァティカルでベトナム滞在中の夫(愛人同伴)の知らせずに、人生んp越し方行く末を考えるべく長逗留する芦ノ湖畔のホテルで出会う、一癖ありそうな人々とのミステリアスなやりとりが後半の見せ場となっている。
タイトルに「新聞小説」とついているのは、母親とそのまた母親(芸妓上がり)の生涯を象徴するものとして、尾崎紅葉の「金色夜叉」が引用されているため。
重い話だが、ハッピーエンドとは言わずとも、読後感は悪くない。
2は昨年刊行の新作。八ヶ岳という観光地で、そこに住む人々の濃密な人間関係を背景に起こった熊によるカップル殺害事件。そのカップルが、いわゆる姦通関係にあったため、物語全体がスキャンダルの影を帯びることになる。
登場人物は、当該別荘地を分譲した不動産会社の管理人の男女を狂言回しとして、ペンション・レストラン・美容師・子供の誕生を待つカップル・最期の時を待つ高齢者夫妻などが入り乱れて繰り広げる人間劇。
表面上は取り繕いながら、その裏では複雑な感情をぶつけあう姿が生々しい。人間としての一皮をめくれば、そこには猛獣が控えているということがタイトルに由来だろうか。読後感はやや荒涼としています。
1,2で異化され、ハラに溜まっ重い感情をを浄化してくれるのが3.
昨年末に公開された映画「アイミタガイ」(黒木華主演、草野翔吾監督)を観て、ホッコリしたので原作に手を出してみたら、10年ほど前の作品でした。
伏線とその回収を通じて、思わぬ人々と私たちは繋がってい流ことが示され、そのつながりこそが生きている証なのだが、つながりを作るのは「アイミタガイ」(相身互い、お互い様)という気持ちではないか、というお話。
原作は5本の連作短編集だが、映画はその5本を一つの物語に上手にまとめている。その技に後付けで気がついた。
アイミタガイ、日本でも世界でも、その気持ちがどんどんと弱まって来ているような気がします。
All You need is アイミタガイ。