悲惨な未来を回避する方法
生活水準は向上し、世界的に極貧状態は減少し、平均寿命は続伸している。
長期的に見れば、世界は順調によりよくなっているように見える。
しかしながら同時に、世界は悲惨な状態になりつつある。
世界人口は高齢化し、人口爆発が起こるのは貧しい地域だ。極貧状態は減少しているからといって、なくなっているわけではない。地球環境は悪化し、気候変動は世界に悪影響を及ぼす可能性が非常に高い。世界的な大企業が国家を牛耳り、格差は拡大の一途を辿っている。その中で、トランプ現象に見られるような保護主義が吹き荒れ、科学や真実が軽視されている。こうした状態はさらに最悪のものへと悪化していくのか?
フランスの思想家であるジャック・アタリは、「すべて予定調和で終わり、最悪の事態は訪れないというように、未来を自分に都合よく考える」のは知的怠慢であり、「最悪の事態を予測することこそが、最悪を回避する手段」であると説く。
危機が迫っていると自覚することが絶対に必要だ。そうした自覚こそが、危機を回避するための唯一の方法なのだ。
ジャック・アタリの未来予測(要点)
政治と経済の「自由」に基づく社会組織は、世界で最も優れた制度である。
しかしながら今日、このシステムは機能不全であり、世界は奈落の底へ突き落とされる寸前となっている。市場はグローバル化され、法の支配のない状態にある。
国内に閉じこもる民主主義はますます空虚になり、民主主義が現実に対しておよぼす影響力は減る一方だ。
こうして袋小路に陥り、怒りが爆発する。
「自由」を断念することなく、大惨事を回避するためには二つの解決策が考えられる。
二つの解決策
一つは、市場が解決してくれると期待し続けることである。これは、不死テクノロジーに頼ることに行き着く。
それに対してもう一つの解決策は、人類の存在意義を維持することである。
アタリは言う。
世界は、エコロジー、経済、公衆衛生、政治など、あらゆる側面において相互依存を強めている。よって、他者の失敗で利益を得る者は誰もいないと悟ることが重要である。人類のサバイバルのカギとなるのは利他主義なのだ。…(中略)…自由を束縛する物質的でなく倫理的な拘束として唯一機能するのが利他主義であることを忘れてはならない。つまり、自己の利益のために最大限に利他的に振る舞うのだ。このようにすれば全員の利益のために自己実現を図ることができる。
ぼくたちに必要なのは、「他者の幸福は、他者の悲しみよりも有用であることを理解」することであり、悲惨な状況に対する「自分たちの憤懣を怒りではなく、利他主義へと誘導する」ことなのである。
アタリは、飛行中の航空機に操縦機をつくるような難題に、いますぐに、しかも全人類で取り組まなければならないことを強調するのだ。
利他主義を実践するとは、「自分自身ができる限り高貴な生活を送りながら世界を救う」ことを意味する。
われわれは「快適な時間」を過ごす手段を自身に与えると同時に、他者もそうした時間を過ごせるように手助けなしがら、幸せで持続的な世界をつくり出すことができるのだ。
利他的に振る舞うための10段階
❶自分の死は不可避だと自覚せよ
自分は唯一無二の存在であり、この世は諸行無常である。いま現在を最期だと思って生きるように、自分の人生をよりよくしなければならない。カルぺ・ディエム(1日の花を摘め)の格言を実践すべきだ。
❷自己を尊重しろ、自分自身のことを真剣に考えろ
自分の天賦の才能を見つけ出し、それに集中しよう。それだけではなく他者の天賦の才能を見つけ出すことにも労を厭わないようにすべきだ。それは自分自身のために、他者が自分自身のことを真剣に考えることを支援することを意味する。
❸変わらない自分を見つけろ
不変的な価値観を自己の奥底に見出し、自己の課題を明らかにすべきだ。
❹他者が行おうとすること、そして世界の行方について、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめろ
共感力をもって、世界をさまざまな側面から絶えず分析せよ。共感力とは、たとえ他者の行動が利己的、不誠実、敵対的だと思えても、彼らの価値観、不変的なもの、探究しているものを見出し、なぜ彼らがそのように行動するのかを理解しようとすることだ。
❺自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
自分と世界は相互依存していることの自覚(押し付けではなく)を通して、自由から利他主義への本格的な転換が始まる。
❻複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をせよ
自己実現のさまざまな形式を絶えず発見し、自己開花の道筋で絶えず新たな人々と出会うためには、複数の職業的なプロジェクトと個人的な成就のためのプロジェクトを、同時かつ継続的に準備することが必要だ。その際に重要であるのは、「他者が自分自身になる」ことを手助けすることである。そうすることで、自己の人生および自身の生涯プロジェクトを成就することができる。
❼危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつけろ
人生の時々に起こるマイナス面に対する抵抗力を身につければ、レジリエンス(へこたれない精神)と勇気を獲得することができる。
❽不可能なことはないと思え
いま、ここにはないことを望み、考えることが大切である。不可能なことはない。
❾実行に移す
できる限り利他的なプロジェクトを具体的、野心的、現実的に実行する。プロジェクトの燃料は憤懣であり、プロジェクトのエンジンは心と身体である。世界や社会に対する憤懣をプロジェクトにつなげるべきだ。そして実行できるために、自分自身の心と身体をケアし続けること、つまり自分自身を大切にすることが大切である。
➓世界のためにも行動する準備をせよ
「あきらめた評論家」のような投げやりな態度になってはいけない。世界の現状を深く理解し、世界を変革する必要性を痛感したのなら、あとは行動するだけだ。
アタリは言う。
無数の「自分自身になる」が統合すれば、世界は変わる。なぜなら、彼らは当然ながら利他主義者だからだ。
「自分自身になる」とは、❶〜❾段階を経ることだ。
自分自身になることを選択した人は、自分たちの目的が利他主義を通じてこそ達成できることを悟っているのである。
彼らの唯一の自問はこうだ。
「自分は世界の幸福のために何ができるのか?」
悲惨な未来を回避する方法
ここまでをまとめよう。
悲惨な未来を回避するためには、悲惨な未来が迫っている危機的状況を自覚することが必要だ。
その上で、悲惨な未来を回避するためには、一人ひとりが利他的に生きることが重要である。
それは思想的な旅で終わってはいけない。
利他主義の実践的な追求こそが、悲惨な未来を回避できる唯一の方法なのだ。