太宰治関連本を整理しながら。
日本の作家で最も回顧、評伝、研究書が出されているのは太宰治だという。
太宰治は作品だけでなく、その小説的生き方の実践も人を惹きつけ、作品批評だけでなく人物論も多い。
今後を思うと、公私を切り分ける現代作家から、太宰を超えるほどの関連本が生まれることは難しいように思う。
その太宰関連の本の一部が手元にあり整理している。
おもに太宰の友人や知人たちの本である。
あんな生き方をしたのに太宰って人間関係が豊かだ。
批評には能わざる身だが、整理ついでに個人的に好きなものを二つ。
担当編集者から見た太宰。
太宰といえば野平健一と野原和夫という若い担当編集者が有名である。仕事上の付き合いを越えて、人に甘える太宰にとっては弟子であり、従者であり、相談相手でもあって、もはや晩節の伴走者であった。
野原は高校時代から太宰に私淑し、新潮社に入社して担当となった経緯もあり、太宰に信頼され濃密な関係を気付いた。
太宰の時代の寵児ぶりから私生活の裏表、心中までのいきさつを生々しく振り返っている。
友人たちの回顧とは違い、年下の編集者だから築けた関係性がある。
微妙な距離から見た太宰。
青山光二の本業は純文学であるが、東の阿佐田哲也、西の青山光二と評されて賭博小説家として名高く、東映の任侠映画の原作も多い。
大阪から文学を志し盟友の織田作之助と上京。織田を介して太宰と知り合う。織田が先に没した後も、太宰との交遊は続いた。
東西の戦後無頼派を代表する二人を見続けたわけである。
優れた観察力と抑制のきいた文章で太宰との日々を振り返る。
青山も独自の距離感で太宰を見ている。
檀一雄、石上玄一郎、山岸外史など友人達が見た太宰、井伏の先輩から見た太宰、田中英光のような弟子から見た太宰、他にも妻や娘やさまざまな太宰がいる。
自ら作品を残し、没した後も人を突き動かして作品を生み出し続けた。稀有な作家である。
優れた読み物は多々あり、上記2作品は好みでしかない。