女の朝パート72
11月25日月曜日
ここは国分寺駅の近くにあるスタバ。
時刻が8時30分を示そうとしている頃だった。
この時間に制服を着た学生の姿は見られない。
もしいたらそれはまずい事なのかもしれない。
そんな時間に大きなバックパックを背負った女が、
一人でこのスタバにやってきた。
おんなは直ぐに店内を一瞥すると、
その女がいずれ座るだろう席が何故か解って仕舞い、
自分の胸が何故か急に高鳴ったのを感じた。
次の瞬間には自分の喉が激しく渇いてる事にも気がつき、自分の声が一言も出せない事にも気がついて仕舞った。
タスケテタスケテタスケテコエガデナイ。
おんなは心の中で必死に叫んでいた。
暗転
オンナは、いずれ来るその時まで、今は何もせず、
静かに見守っていようと心に誓った。
暗転
女は背負っていたバックパックを背中から下ろすと、その大きな荷物を椅子に置き、その足でレジの方へ向かう。
お荷物が無くなり身軽になった女。
肩の荷が降り責任を果たした女。
もうお荷物の事を心配することもなければ、
お荷物に寄って心患わせられる事もなくなった女。
おんなは、今、
女の横隔膜がこの瞬間から期待に震え始めたと思った。
数分後。
女の手にはさっきまでなかったはずの、
アイスコーヒーが握られていた。
女は椅子に腰かけると、
笑みを浮かべながらそのアイスコーヒーを眺めている。
その時だった。
声を出せずにいたおんなは、
女が気疲れないように女の背後からそっと忍び寄っている。
そして、
パシャリ。
とはならなかったけど、
オンナは今、おんなが写メを撮ったと思った。
何故だか解らなかった。
きっとスタバで声を出せずにいたおんなのたった1つの願いは、
アイスコーヒーで喉を潤し、
どうでも良いことを呟けるようにする事だと、
オンナは思った。
完