見出し画像

傷が愛おしさに

サウナの小窓から体を洗うおばちゃんの姿が見えた。

右乳がなかった。
きっと、乳がんになって全摘出したのだろう。

本人は全く気にしていないようで、隠す素振りもない。
ただ日常生活を営んでいるにしか過ぎないだろう。

わたしは、その姿が勇者に見えた。

「なんて勇敢なんだろう」

蒸し暑い中、そんなことを口にした。

ここで、いつもの「空想にふける」そんな癖を発動させてしまった。

医者から乳がんと言われたときは、どんな気持ちだったのだろう。
いつ頃いわれたのだろう。
その時、別の問題を抱えて、乳がんであることが追い打ちにはならなかったのだろうか。
全摘出する決断は、容易だったのだろうか、悩んだ末の結果だったのだろうか。
体中に転移していないか、心配だったのではないだろうか。
入院中はだれがお見舞いに来てくれたのだろう。
手術日には隣にだれかいてくれたのだろうか。
古傷が痛むときはあるのだろうか。

そして、ここまで、潔い姿になるまでにどれくらい不安の中にいたのだろう。
どれくらいの時間が、彼女を癒したのだろうか。
そして、わたしには潔く見えてるだけで、実はまだ乗り越えられていないのでは。

そんな考えが頭をめぐる。
室温も100度に達している。
とうとう熱くなり、水風呂に一気につかった。

「冷静になる」はこういうことか。
冷たい水が全身を駆け巡り、考えすぎた頭の熱が逃げていくのを静かに待つ。

本人にとっては大きな迷惑だろう。
人の体を見てそんなことを思われるのは。

しかし、私は、ここで記したいことがある。

傷は、現実に向き合った証であり、勲章だと思う。
そんな傷を愛おしく思ってる奴がここにいるよ。

ってこと。

いろんなことが起きて、その傷を負ったのだろう。
それを恥じる必要はない。
全くない。

あなたは、傷を隠したくなるだろうか。

見せびらかさなくてもいいが、傷を隠さず。
さらけ出しても、それを愛おしく思う人は、いる。

ここにいる。

目に見えない傷も同じだと思う。
心に傷を負った人の数は、命の数と等しい。

だから、命の数だけ愛おしく思う。

そんな奴が、ここにいる。

傷ついてしまったときは、遠慮なく
私に身をゆだねればいい。

その傷が癒えるまで、癒えたその先まで、
全部ひっくるめて、優しく包み込むからね。

心配しないで。
その勲章を誇りに思っていいんだよ。


そんなことを、サウナの中で、しばし一人考え込んでいた。

世に向けた言葉だろうか。いや、きっと、自分自身に向けた言葉だろう。


いいなと思ったら応援しよう!

Rammy
お気持ちください♥

この記事が参加している募集