【インサイトコラム】プロダクトアウトからマーケットインを超えて
今回のコラムでは、少し違う切り口でマーケティングと定性調査について考えてみたいと思います。
近代マーケティングは、19世紀末から20世紀前半のアメリカに起源があります。初期のマーケティングは、産業革命によって製品の大量生産が可能になったことで、大量に生産した製品をどのようにして販売していくかを考えることだったといわれています。そのような世界で企業がやるべきことは生産コストを下げて、販売価格を下げることであり、よく言われるT型フォードがその典型でした。人々はそもそもモノがないことが不満なので、モノを持つことが叶えられると満足したという時代です。
市場が拡大していく中で、ユーザーのニーズをそこまで反映させなくてもモノが売れた、まさにプロダクトアウトといわれる時代でした。
【プロダクトアウト】
技術や生産ライン等、作り手側の理論・都合で商品をマーケットに送り出すこと。シーズ発想。マーケティングにおいてはできたものをどう売るかが重要。
更に時代が下り、人々や企業が豊かになってくると、マーケットにも商品があふれてきます。市場が成熟してくると今までのやり方ではなかなか商品が売れなくなってくるので、会社としてもっとユーザーの声を商品に反映させようとなります。経営層から「顧客の声を聴いて商品を作れ!」と檄が飛んだり、社内に調査部のような専門組織ができたりもするのもこの時期ではないでしょうか。マーケティングの中でもリサーチが重視されるようになり、顧客の欲しいものを聞いて商品を作ること=マーケットインの考え方が正しいとされるようになります。
【マーケットイン】
顧客に何が欲しいかを聞いて、商品の企画・開発を行うこと。
マーケットに商品があふれると差別化を行う必要が出てきて顧客が欲しいものを聞くこと(リサーチ)も重要になる。
ところが、マーケットインの問題として、顧客は自分の欲しいものをわかっていない、ということがあります。リサーチをやっていても、何も情報を与えずに「あなたは何が欲しいですか?」と聞いてもなかなか参考になる答えが返ってくることはありません。顧客はまだ見ぬ商品について自分は何が欲しいのかを認識していませんし、特に新規性の高い商品であればあるほどそのような傾向にあります。
マーケットインだと顕在化したニーズしか聞けないので同じようなリサーチを行えば同じような結果が出ることになり、あっという間に市場はレッドオーシャンになってしまいます。
そのような背景から、マーケットアウトという考え方が提唱されるようになってきました。顧客の側に完全に立って、その顧客が「言われてみればたしかに欲しい!」と思うものを考え、商品やサービスとして具現化していく(プロダクトインしていく)という考え方です。
「言われてみれば確かに欲しい!」と思う潜在的な欲求はまさにインサイトであり、インサイトという言葉が使われ始めたのはこのような背景があると考えています。
マーケットイン=顧客の意見を聞く(顧客視点)
マーケットアウト=(隠れた)ニーズを知る(顧客理解)
と整理できます。
(このような潮流はマクロの動きだけでなく、新たに登場した市場でも起こります。例えばソーシャルゲームやアプリといった比較的最近新たに生まれた市場においても、最初のうちはプロダクトアウトな視点で商品が次々と生まれていましたが、市場の成長が鈍化してくると、マーケットインな思考でユーザー調査が増え、最終的にはマーケットアウトな商品開発に移行していくと思われます)
では筋の良いインサイトを出すにはどうすればよいかですが、定性調査の手法で考えると2時間のインタビューよりも自宅や買い物行動の観察調査・エスノグラフィの方がふさわしいと感じます。最近ではMROCで1か月ほど普段の生活を観察した後、参加者の中から数名のご自宅を訪問するというじっくりと時間をかけた調査を行う機会も増えています。どの調査手法も、調査対象者を単なる「商品のユーザー」ではなく、1人の人間として何を大切にしているのか、どのようなライフスタイルを送っているのかといったホリスティックなアプローチができるという点で共通しています。
そして調査の後にはワークショップを行い、観察によってどのような事実が見つけられたか、そこからどのようなインサイトが考えられるか等をディスカッションします。そうすることで、一人では考えられない質・量のインサイトが得られるだけでなく、そこから新しいアイディアや打ち手につなげることができるのです。
最後に以前noteに掲載しましたコラム「アイディア発想の構造」を、顕在的なニーズ(不満や満足)からアイディアを発想するのはマーケットイン的な思考、潜在的なニーズから発想するのはマーケットアウトという形で整理できるのではと思い、再度掲載します。
プロダクトアウト、マーケットイン、マーケットアウトのどれが正解というわけではなく、その時々の自社の強みや市場環境に合わせた考え方を柔軟に選択すればよいのだと考えています。
楽天インサイトへのマーケティング・リサーチのご依頼・ご要望は以下のフォームからお待ちしております。