ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第15話】エターナル編②いざ開業! 〜の前にいろいろしたいこと〜
これは、サウンドノベルの持つ魅力に取り憑かれ、「自分でもノベルゲームを作ってみたい」という思いを抱き、終わりのないゲーム制作に足を踏み入れた1人の個人ゲーム制作者の物語である。
Nscripterで人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。数年作業をしても完成が見えないと思った落柿はあることを決めた。それは、個人事業主となりライフワークバランスを整え、ゲーム制作にかける時間を増やすこと。
2012年。ゲームとは1mmも関係ない業種での開業準備をあらかた終え、職場を退職した落柿。いざ自由な時間を手に入れた落柿が向かった先は……。
「白米、うんめぇなあ!!」
新潟県は燕三条市のとある自動車学校の食堂。落柿は学生時代に取りそびれた普通自動車免許を取得のため合宿免許に来ていた。
今後始める業種に免許は必須ではないが、持っていれば活動の幅も広がるのではないか、またこの機会を逃したら自由な時間はしばらくなくなるのではないか。そう考えての決断だった。
いやいやいやいや……。まだ開業準備とかあるんだから通いで近所の教習所通ったらよかったやん? なんでわざわざ新潟くんだりまで?
もはやツッコミ疲れてきたもう一人の自分が訪ねる。
え、だって通いにしたらどれだけ延長料金取られるかわかんないし。基本、自分鈍臭いですし。合宿免許なら延長料金無料プランあったし。それに。
人のブログに新潟は米が旨いから合宿免許オススメって書いてあったし!
ええ……。
こうしてみっちり1ヶ月、落柿は合宿で普通自動車免許取得に取り組んだ。幸い口コミの通り米は旨く、おかずのメニューも選べて大満足であった。
寮では様々な年代・国籍の人々と仲良くなり、毎日酒盛りにトランプ大会、卓球に勤しむなど充実した日々を送った(マジで何をしてるんですか?)。
そして本人の予想通り同日入校者の中で一人だけ卒業検定に落ち、仲良くなった同期たちより長く滞在することになったがなんとか免許を取得することができた。
「あのー、開業するって言ってたけどいつになりますか? 早く始めてほしいんですけど」
合宿免許から帰ってきたあと、落柿は外部で働いていたときの顧客の1人に言われた。そしてようやく遊びすぎた準備に時間をかけすぎたと気づく。
「えーとじゃあ、年明けからやりまぁす!!」
堂々と安請け合いをする落柿。このとき季節はすでにもう秋だった。大丈夫か? 間に合うのか? 年明けっていうと1月とか? そうするともう数ヶ月しかないが?
……大丈夫。
間に合うとか間に合わないとかじゃない。
間に合わせるんだよ!
え、なんか急に強くなったというか昭和脳になった? 根性論とか今どき流行りませんよ?
チッチッチ。これは根性論じゃない。これは現実的な逆算だ。すべてのやることを書き出し、それにかかる時間を見積もる。そしてひとつひとつタスクをこなしていく。
この勢いで年末まで……いや11月中には開業準備を終わらせる!!
だって自分には……開業の他にもすることがあるのだから!!
「そうそう、開業準備もだし、時間があるうちにゲーム制作も進めるんだったよね?」
ホッとして問いかけてくるもう一人の自分に落柿は言った。
「だって、12月はハワイ旅行行きたいし!」
……ええ?
「ええ? じゃないだろ。ちゃんと前回にそう予告しておいたはずだが?」
ついにツッコミ役に言い返してくるようになった落柿。
「12月! ハワイ! ホノルルマラソン! この時期にこんなに休めるなんて今後もなかなかないんだからオアフ島だけじゃなくハワイ島にも行ったろ! そんでもってクジラ見たり溶岩の上歩いたりしたろ!」
「…………」
もはやもう一人の自分もツッコむ気をなくしている。
こうして師走の忙しい時期に落柿はハワイに向けて旅立っていった。
ここまで読んで、賢明な読者の皆様は思ったことだろう。今回と前回、まったくゲーム作ってないやんけ、と。
だが心配しないでほしい。ちゃんと合宿免許にもハワイにもノートPCは持っていっていた。スクリプト作業はできなくても、シナリオは進めていたのさ。フフ……。
こうしてしっかりと日焼けして帰ってきた落柿は年末年始をダラダラと過ごし、新しい年を迎え……ついに動く。
「さあ、いよいよ開業するぞ! まずは本業が軌道に乗るまでの二年間でゲームを作り終える。そして同人ゲームを売る! 同人ゲームを〝売る〟ってことは、いずれ会計処理が必要になる。ならばここは本業と同時に開業届を提出しておくのが正道というもの……ッ!」
急に福本漫画みたいなノリになると、落柿は意気揚々と開業届を提出した。業種の欄にはこの月から始める本業の職種を記す。そして「個人でのゲーム制作」と書き添えた。
開業届けの日付は2013年1月9日。
実に「アカイロマンション」を作り始めてから4年後の出来事であった。
このゲームが完成するまで……
あと11年。
そんな作者が15年かかって作ったゲームはこちら。
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