ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第35話】フリゲ公開編③感想に返信せよ! 〜エゴサする?しない?問題を添えて〜
Nscripterで人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。7年の休止期間を経てティラノビルダーで制作を再開。ノベルゲームの祭典・ティラノゲームフェス2021に参加することを目標に制作を続け、無事締め切りまでに「ホラー編」を公開。無事フェス開幕を迎えた落柿は、フェス参加作のプレイと感想投下を楽しんでいた。
「かかか、感想が! 初感想が! ついたーーーーー!!」
フェス開幕後、約半月後。
落柿の人生初のノベルゲーム作品「アカイロマンション〜ホラー編」に初めての感想コメントが投稿された。
8月末に作品を投稿してから、早1ヶ月半。自分はフェス作品を楽しく遊びつつも、心のどこかで「自分のゲーム、ちゃんと遊ばれてるのかな……」「いやいやダウンロード数は少しずつだが伸びている」「だけど長編だし、さわりだけプレイして終わりとかそんな感じかなぁ……」という思いは消せなかった。
そんな中でもらったコメント。正直、躍り上がりたいような気持ちである。
「あ、なるほど。以前、自分が感想を書いた作者様からだ。なるほど、人に感想をすることでこちらの存在を知ってもらえるということもあるのだな」
感想主を確認して、うんうんとうなずいた。ノベルゲームコレクションでは感想を残すにはノベコレのアカウントが必要になる。なので誰が感想をくれたのか、そのアカウント主がゲーム制作者であればその人の作品も辿れるという訳だ。
「本当によくできてるな、ノベコレのシステム!」
こちらも別にお返しを期待してコメントするわけではないが、自分のゲームを遊んでくれた人がどんな人なのか気になるのは人情というもの。知名度ゼロから始まった初フェスの活動としては「人の作品にコメントを残す」というのはひとつの活動としてアリなんではないかと思えてきた。
「さて……」
落柿はもらった感想を何度も読み返すと、肩を回した。
「返すか……! 感想に、コメントを……!」
脳内でなぜかカイジのハンチョウの悪人顔になりながら、PCに向かう。
…………。
…………。
…………。
しばらく無言でPCに向かう落柿。その手が早々に止まる。
いや、むっず。
感想書くときも思ったけど、感想返しも激ムズじゃねーか! せっかくプレイしてコメントを残してくれた人にヘンな作者と思われたくないし……。でも当たり障りない返事だと面白みがないし……。
ちなみにティラノゲームフェスでは作者からの返信は必須ではない(コメントへのお返しであるダイア玉を渡すことは推奨されてはいる)。フェスにどのようなスタンスで臨むかも作者の裁量に任されている。いっそ、コメントは返さずに孤高のミステリアス作者を気取るのもアリっちゃアリなのである。
「いや……だけど、返事したい! なんて書いていいかわからないけど返事はしたいよ!」
落柿はこの時点で何作ものフェス作品に感想を書いてきた。正直言って、感想に返信が返ってきたときはめちゃくちゃ嬉しかったのである。その返信に「こだわって作ったところが伝わって嬉しい」的なことが書かれていれば尚更だ。
落柿はうんうん悩みながらもなんとか言葉をひねりだして感想を返した。
「つ……疲れる……楽しくて嬉しいがこれは労力を使うぜ……」
感想を返した落柿はほっと一息つきながらも、ある不安が拭えないでいた。
「それにしても、まだ最後までプレイしてくれた人の報告がないから、致命的なバグがないかわかんないんだよなぁ……」
初めてもらった感想も(長編すぎるので当たり前だが)プレイ途中のものだ。もちろんダウンロード版もブラウザ版も自分で一通りのテストプレイはしたが、本当に人様の環境で最後までプレイできているかは怪しいところ。
「別に固まるような重い画像とか動画とかないし、大丈夫だと思うけど……」
落柿は、ちらりとスマホを見た。悪魔の囁きが聞こえる。
「エゴサ、しちゃえば?」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 嫌どす!!
そんな怖いこと、できるわけおまへんがなあーーーー!!
落柿は手に持ちかけたスマホを遠ざけて嫌々をする。
エゴサーチ。それは聞くところによければ作者を生かしも殺しもする諸刃の剣。落柿がかつて小説を書いていたときには、SNSなど存在しなかった。
感想をもらうとすればBBS(またもやインターネット老人会を発揮)やメールでのやり取りであった。
しかしそれは作者に直接向けて書くものなので、特に辛辣な意見をもらったことはない。そもそも個人ホームページの小説には感想などこないことの方が多いのだ。
そして現在作品を発表しているノベルゲームコレクションは感想は基本甘口だ。これははっきりと運営がネガティブなコメントを禁止しているせいである。面白くない、合わない作品は「not for me」の精神で何も言わずに去る、というのがノベコレの基本ルールなのである。
しかしエゴサとなれば話は別だ。それは作者に読まれる前提で書かれていない。それをするにはある程度の覚悟が必要である。
「まぁ、でも自分みたいな制作者が怖がるなんて一万年早いか。無名の作者の第1作目なんだ。特に話題にしてる人もいないだろ。ま、あくまでも一応、ね?」
落柿は腹を決めるとTwitter(現X)の検索欄に自分の作品名を打ち込んだ。恐る恐るタップする。
そして落柿はそこに信じられない文を目にすることになる。
「アカイロマンション面白かった。23エンドクリアした」(要約)
マ??
よ、良かったーーーー!!
本当に良かったーーーー!! 最後までプレイできて良かった!!
(いやそこ?)
落柿はその短文を何度も何度も読み返した。スマホを抱えて床をゴロゴロ転がりながらその喜びを噛みしめる。
自分の作品を、最後まで遊んでくれた人がいる。
そして面白いと言ってくれる人がいる。
「ゲーム、作って本当に良かったなぁ!!」
……その後。
感想は、感想を呼ぶのだろうか?
そこから「アカイロマンション〜ホラー編〜」作品を全ルートクリアしたという書き込みが次々とノベルゲームコレクションに書き込まれるようになるのである。
「アカイロマンション完全版」の完成まで──あと3年。
そんな落柿が15年かかって作ったゲームがこちら。
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ティラノゲームフェス2024年に参加しています。PLiCyゲームコンテストでは準敢闘賞をいただきました。
プリシー版はこちら
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