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ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第33話】フェス編⑨フリーゲームをリリースせよ!〜初めてのティラノフェスに滑り込み参加〜
Nscripterで人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。7年の休止期間を経てティラノビルダーで制作を再開。ノベルゲームの祭典・ティラノゲームフェス2021に参加することを目標に制作を続ける。8月末の締め切りまでの「ホラー編」完成を目指して奮闘していたが、ついに……。
「ホラー編、完成したぞー!」
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2021年8月11日。
「アカイロマンション〜ホラー編〜」のWindows版のテストプレイが完了した。全23エンド。総プレイ時間は約7時間。
「選択肢は多い方がいいよね〜! ワクワクするし!」「選択によってガラッと展開ごと変えたい」「ストーリーに関わらない選択肢でも遊びを入れたい」と自分の願望を詰め込んだ結果、地獄のようなテストプレイをすることになった落柿であつた。
ゲームにおいていちばんあってはならないもの。
それは進行不能バグ(とどっかで読んだ)。
ノリと勢いで自分で作った選択肢、その先がちゃんと進行するか確認するだけで膨大な時間を費やした。なんでこんなに小ボケ選択肢作ったんや……。しかもボケの先にまたボケるとか、テストプレイが大変だろがッ! 作ったヤツ出てこいや(ここにいます)!
あと、以前からこのエッセイを読んでくれている読者はご存じかもしれないが作者は基本プロットを書かない。ガツッと作品世界にのめり込み、流れに身を任せて創作するというスタイルである。
なので、攻略メモもない。
「……あれ? あのエンドってどうやって出すんだっけ」
「あの展開に持っていくにはどうしたらいいんだっけ」
……作者のクセに、何度か詰まった。なんでや!
「まあいい、とにかく完成したんだ。完成した。完成だ」
しばらくすると、じわじわと達成感がこみあげてきた。少し泣きそうだ。正直ティラノビルダーで製作を再開したときはあまりにも未完成すぎる状態で投げ出されていたこのゲーム、まさか(ホラー編だけとはいえ)本当に完成するとは……。これもすべてティラノビルダーとティラノゲームフェスという締め切りのおかげである。ありがたや。
「さあ、しかしこれで終わりじゃない。まだやることがある」
当然だが、ティラノゲームフェスに参加するためにはゲームを登録するという作業が必要になる。その作業はおおまかにいって下記の四つだ。
①ゲームを書き出す
②Readmeを作る
③ゲーム紹介文を書く
④紹介画像を用意する
ゲームを書き出す。これは簡単だ。Nscripter時代は最後までどうやってゲームの形にするかわからず終わったが、ティラノビルダーは「ボタンポチー」で完了である。いい時代になったものだ。
②のReadmeと、ゲーム紹介文はだいたい同じ内容でいけるだろう。ただ、ゲームの紹介文はしっかり書きたいところだ。何しろ落柿は初めてゲームを公開するのだ。どこの馬の骨が作ったものかもしれない長時間のノベルゲームに手を伸ばしてもらうためには、その内容をしっかりとアピールする必要がある。
落柿が作ったのは、ビジュアル面ではまったくウリがない全画面サウンドノベル形式のゲームである。正直時代と逆行している感は否めない。しかし逆に、数は多くはないがサウンドノベルファンは確実に存在し、今でも面白いと思えるサウンドノベル形式のゲームを探し求めているはずだ。落柿は想定プレイヤー……ビジネス界隈でよく言われる「ペルソナ」を思い描いて考える。
このゲームをプレイしてほしい人とはどのような人物か?
チュンソフトのサウンドノベル「弟切草」「かまいたちの夜」「街」などにかつてハマり、サウンドノベルが好きだった人。
しかしコンシューマではサウンドノベルの新作が出ることがなくなり悶々としている人。もっとたくさんサウンドノベルが遊びたいと思っている人。
「かまいたちの夜2」は酷評されたがあれはあれで面白いじゃんと思っている人。だけど否定派の意見もわかるなぁという人。想像力をかき立てるという意味では前作の方がやっぱり優れていたからなぁと思っている人。
「忌火起草」は設定を見たときは「弟切草」を思いだしてワクワクしたけど、やっぱりボイスより文字で読みたいなぁ、ボイスか文字か選べるようにしてくれたらいいのにと思った人。
「かまいたちの夜×3」は面白かったけど、「街」ほどザッピングが生きてないんだよなぁ。でもカップラーメンくださいと紺のしおりでの真相は良き、と思っている人。
「428」は久しぶりにテンション上がったよね。「街」の収束しない感もいいけど、 「428」は収束するからこそ後半の疾走感あるストーリーが楽しめるよね。あとタマ可愛い。って人。
…………。
…………。
…………。
あ、いっけね。
これ、ペルソナじゃなくてただの自分語りだったわ。
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ってことはやっぱりこのゲームは完全に自分に向けて作っていたのか。なんという恐るべき自己満足ゲー……。
まあいい。世界は広い。
きっと自分と同じような趣味嗜好の人だって一人ぐらいいるやろ! いるよね? いてよ? 頼むよ?
そんなことを思いながら、落柿は③のゲーム紹介文、そして④紹介画像を用意した。
そんなノベルゲームコレクションでの「アカイロマンション〜ホラー編〜」の作品紹介ページはこちら。
そして落柿はついに「アカイロマンション〜ホラー編〜」の公開に踏み切った。登録をする指が震える。
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時は2021年8月26日。ティラノゲームフェスの締め切りは8月末。まさにギリギリ。ギリギリギリジンジンジン。
実はティラノゲームフェスには「期限内にフェスの登録申請をすれば、その後不備があってもフェスの参加権は確約される」という寛大な措置が存在する。その頃の作者はそんなことは知らなかったので、不備に対応できるように早めに申請したのであった。しかもその後一ヶ月間ものブラッシュアップ期間というものも存在する。ノベコレ、やはり神。
ノベルゲームコレクションに登録すると同時にプレミアム会員も申請した。このプレミアム会員に登録することで様々な特典が受けられるのだが、中でも「リアルタイムでのDL数確認」と「スムーズな審査」と「広告非表示」というのが魅力だった。もちろん制作においてティラノビルダーには多大なお世話になったのでサイトを応援したいという気持ちもあった。
「まあ、いくらスムーズな審査って言っても数日はかかるよな?」
特にフェス直前は駈け込み登録が増えると聞いている。まさに今頃は申請ラッシュの最中だろう。無事申請が通ったらまたブラウザ上でテストプレイをするとして、少しゆっくりするか……。
制作を再開してから、ティラノゲームフェスに間に合わせるために逆算逆算、ノルマノルマの日々だった。ようやく精神的にゆとりができた落柿はゴロリと寝転んだ。
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まだ来月頭に引っ越しは控えているし、今回完成したのはあくまでも「ホラー編」であって「アカイロマンション」全編ではない。だけど、ここまで頑張ってきたんだ。少しダラダラしたってバチは当たらないだろう……。
そしてその夜。
何気なくTwitterのタイムラインを眺めていた落柿は思わず声をあげた。
「……ヒェ?」
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「も、もうアップロードされてる!? す、スムーズな審査、って謳ってたのは伊達じゃなかった……! そのスムーズさ、摩擦係数はゼロに近いのでは……?」
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あわててノベルゲームコレクションを確認しに行く落柿。
そこには、人生初の自分が作ったノベルゲームがちゃんと公開されていた。
「やった……やったよ……やってやったよ……。やり切った……」
Nscripterで制作を開始してから実に10年が経過していた。その作品をまだ一部とはいえ、ようやく世に出せたのだ。感無量である。
しかししばらくダラダラしようと目論んでいた落柿。休まりかけていた精神が昂ぶり出す。自作ゲームが公開されてしまうと、次なる心配に襲われた。
「……公開したはいいが、誰も遊んでくれないんじゃないか? なにしろ何の知名度もない作者のやけにプレイ時間の長いノベルゲームだぞ? 途中から制作過程をTwitterに上げるようにしていたものの、フォロワーもほとんどいないし」
「よし……」
そう思った落柿は腰をあげた。自作を知ってもらうための宣伝活動に乗り出した? いや違う。
「精神的なショックをやわらげるための情報を集めようっと!」
そして落柿は「フリーゲーム」「自作ゲーム」「プレイされない」「DLされない」などで検索して、来るべきダメージに備えるのであった。
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さすが山に行こうと言われれば山岳遭難の本を、Facebookをやろうと誘われれば「Facebookの危険性とは」という書籍を読んでから始めるビビり慎重な性格の落柿である。
いやそれマイナスな方向への努力ーーーーーッ!
そんなことする暇あったら宣伝をしろ、宣伝をーーーーーッ!
もう一人の自分のツッコミはもちろん無視してスマホに貼り付く落柿。
しかししばらくするとソワソワし始めた。
「でもさ……もしかしたら。もしかしたらすでに少しでも遊んでくれる人がいたりして? サウンドノベルが好きな人とかさ……。ちょっと見てみるくらいはさ……。
せっかくリアルタイムでDL数が確認できるプレミアム会員に登録したんだ。ちょっと見てみるくらいはいいだろう。
「せめて……せめて1ッ! ゼロは嫌、ゼロだけは……ッ!」
おそるおそるノベルゲームコレクションのマイページを開く落柿。
「あれ? ダウンロード数、伸びてる……?」
しかも1とかじゃない。もう数十回ダウンロードされてる。マジで? 今日アップしたところなのに? 落柿はつぶやいた。
「ノベルゲームコレクション、神……」
それから数日後。「アカイロマンション〜ホラー編〜」はまさかの100ダウンロードを達成していたのである。
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これは創作から逃げ続け、この10年以上何も世に出してこなかった落柿にとって、脳天直撃(セガサターン)の衝撃であった。
「アカイロマンション完全版」の完成まで──あと4年。
落柿の個人サークル「studio.praparat」が初コミケに当選しました!
webカタログに今後の詳細等アップしていきますので是非お気に入り登録をお願いします!
https://webcatalog-free.circle.ms/Circle/20000155
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そんな落柿が15年かかって作ったゲームがこちら。
新作ホラーノベルゲーム「砂鳴村〜エピソード限定版〜」配信中!
名作サウンドノベル「弟切草」オマージュ作です。
ティラノゲームフェス2024年に参加しています。
プリシー版はこちら
https://plicy.net/GamePlay/187119
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