ハウスミュージックがわからない人のためにすごく簡単な7曲とその楽しみ方
※以下の文章はハウスなんて聴いたことがないよ、という方に向けた、初心者向けの入り口になるような文章を心がけてます。よって、ここに登場する楽曲は、馴染みやすいポップスとハウスミュージックの間と思われるような音楽を紹介します。ガチのハウスファンの方におかれましてはあまり得るものはないかと思われますのでどうぞお引き取りくださいm(_ _)m
1.One More Time/Daft Punk
私は音楽ではポップス、Hip Hop、R&B、ロック、フォーク、ラテン(ボサノヴァからダブまで)、民族音楽、民謡、ワールドミュージック、テクノにハウスミュージック、ジャズを主に嗜みます(要するにクラシックと演歌以外はだいたい聴きます)。中でも皆さんに馴染みの薄いのがハウスミュージックで、「ハウスを聴く」というと「あんなうるさい音楽の何がいいの?」と返されます。そんな時私がいつも入門編でおすすめしてるのがダフト・パンクで、この曲はとにかくCMとかいろんなところで使われまくってますので、あなたもどこかで聴いたことがあるはずです。この曲を知らずに生きることはほぼ不可能と思われるぐらい世界的なアンセムです(アンセムとは、みんなが大好きな有名曲ってことですよみなさん。音楽ライターってわからない単語を多用してやですよね)。これを聴かせると、「え? これもハウスなの?」と言う反応を返されるのですが、ロックがかなり広い音楽を指すように、ハウスもかなり広いのです。中にはこの曲のように、ポップスとして成立するような楽曲も含まれています。
日本で言えば最もわかりやすいのは電気グルーヴになるんでしょうけど、彼らはテクノと自称してますし(テクノとハウスの境界は僕としては結構曖昧。もちろん玄人に言わせれば色々あるんでしょうけど、まあこれを読んでいるのはビギナーでしょうし同じようなもの、あるいはかなり重なり合ったジャンルと考えていただいて構いません)、世界標準の「楽園の地図」なのでワールドワイドに行きましょう。ダフト・パンクです。彼らはフランスのグループです。
この曲は聴いてわかる通り、とてもキャッチーです。煌びやかなディスコサウンドを大胆にサンプリングしたサウンドはイントロからとてもハッピーな気分になります。思わず腰を振りたくなるようなハウスミュージックのいいところはこの曲に詰まってます。ヴォーカルがあるからこそ入門編としてふさわしいのですが、この曲を聴いてると、この曲の主役はヴォーカルではなく、電子サウンドであることにすぐ気づくはずです。この電子サウンドはとにかくあらゆる言葉の意味を流してしまう力強さがあることです。テクノやハウスは、「都市の民族音楽」と形容されることがよくあるんですが、ロボットのようなヘルメットで踊りまくる彼らを見てると、それがあながち言い過ぎでないことに気づくはずです。都市で生きる私たちが腰を振って踊り出してしまう力強さ、ロックやヒップホップが失ってしまった底抜けな明るさを持っていることにすぐ気づくはずです。これでもハウスの魅力がわからなければもう一つ奥の手があります。はい、DJ、Born Slippyを流して。Radio Editじゃない方だよ。7分あるやつ。
2.Born Slippy(Nuxx)/Underworld
どうでしょう? 7分あるのに聴けちゃうし、なんならループしたくなるでしょ。この1分50秒あたりから流れる、強烈な心臓音のようなビートの感じわかります? この音こそがクラブに鳴り響くハウスなんですよ。途中、全ての音楽が止み、このビートだけが流れてる瞬間があります。つまり、ビートこそハウスの肝であり、この人工パルスが私たちを別の世界に連れて行ってくれます。私の理屈では、ハウスミュージックはお笑いに似ています。来るぞ来るぞと思ってると本当にきたーという魅力であり、同じボケに飽きた頃に別のリズムが絡み合って別のボケに移行していく雰囲気が。私はわかりやすくハウスミュージックを解説したいだけなんですが、むしろわかりづらくなってるかもしれません。
90年代の曲ばっかり流しておじさんなの? いや、おじさんはおじさんだけどちゃんと最近のハウスの曲もいいのたくさんあります。じゃあもうアヴィーチー(Avicii)しかないな。
3.wake Me Up/Avicii
この曲は最初は弾き語りかよぐらいの地味な歌い出しから少しづつテクノポップみたいなものを経由して途中からハウスな間奏が流れます。この曲をループしてだんだんボーカルの部分より間奏のアップビートを待ち焦がれるようになってきたらあなたはすっかりハウスラバー(ハウスが好きな人の意味。勝手に名付けただけ。音楽ライターってこうやって造語をたくさん作るからやですね)です。
え? なんかオシャレぶってやだって。ハウスはそんなおしゃれな音楽でもないですよ。頭きた! そしたら、あの曲も紹介しちゃいましょう。
4.Because We Can/Fat Boy Slim
これは流石にオシャレとか気取ってるとか言わせませんよ。ファットボーイスリムといえば、ハウスミュージックをお茶の間に広げた世界的な才人なのですが、それよりも日本人にとってはかのM-1グランプリの出囃子の楽曲として有名です。
これこそハウスミュージックであり、これをあの高視聴番組で流しているってことは、たくさんの日本人が、すでにハウスミュージックを楽しむ耳ができているということだと思います。全曲通して聴くと、とても楽しい楽曲ですし、繰り返される単純なメッセージ「私たちはできる!」と言うのも素晴らしいと思います。え? なんかハウスの楽しさわかってきたけど、日本人の作った楽曲はないのかって? ありますあります。
5.Groove is in the Heart/Deee-Lite
テイ・トウワが90年代にニューヨークに住んでいた時に作ったスーパーグループ、Deee-Liteのヒットチューン。この曲を聴くと、行ったこともないのに90年代のニューヨークのクラブのひっちゃかめっちゃかさが目に浮かぶようです。この曲は、数少ない、日本人が関わった楽曲としてアメリカのビルボードチャートTOP10に入り込んだ楽曲(私が知る限り、日本人でTOP10にチャートインしたのはこの曲と、坂本九のSUKIYAKIと、jojiのGlimps of usの3曲しか知りません)です。韓国系日本人のテイ・トウワ、ウクライナ生まれのドミトリーを含む、メンバーの出自そのものがかなり国際的なグループなのですが、マイノリティを受け入れる下地のあるハウスミュージックというジャンルだからこそ、彼らのようなアメリカ社会から見たらマイノリティである彼らも受け入れられたのではないかと思っています。え? テイ・トウワだけどアメリカで流行った音楽だから洋楽じゃないかって? ああ、もう一人日本人用意します。
6.Our Song/大沢伸一
日本人のハウスミュージックといえば、大沢伸一(MONDO GROSSO)ではないでしょうか。大沢さんは最初はクラブジャズ、その後UAのプロデュースを通じて音楽プロデューサーとして名を挙げ、満島ひかりと組んだ名曲「ラビリンス」も記憶に新しいですが、彼が最もハウスに接近したのは、この頃だと思います。このMVでは、日常生活に疲れた?飽きた?女性が流れてる楽曲に合わせて思わず踊ってしまう光景が描かれていますが、こういう、日常のしがらみからの解放を、ハウスと言う音楽は訴えかけているように思います。え? これからの季節、夏にぴったりのハウスはないのかって? あるある。ちょっと待ってね。
7.(It Goes Like)/Peggy Gou
これから夏だし、夏に合うハウスはないんですか? 私、最近、K-POPばかり聴いてるんですが、韓国人ハウスDJとかいないんですか? はい、そんな方におすすめなのがPeggy Gou(ペギー・グー)です。この曲は去年の夏、2023年に発表された楽曲なのですが、まさにコロナ以降のハウスミュージックといいますか、場所を選びません。ドライブのお供ににも、部屋で軽く踊りながら聴くのにも、もちろん大音量でクラブで聴くにも向いている全方位型の楽曲です。そして、ここに感じる夏の予感。どうぞ、これまでハウスなんて聴いたことないよって方もこの曲で楽しんじゃってくださいよ。
言いたいこと
ここに登場した楽曲は、ハウスミュージックが大好きな人が選んだ玄人むけの楽曲ではありません。これらはポップスとハウスをうまく掛け合わせた音楽たちでして、そういう意味でハウスと言う音楽の入り口にピッタリだと思います。こんなことを書くのは、私が高校生の頃、仲の良かった友人男性(彼はその後ゲイであることをカミングアウトしました)が、ハウスを聴いてほしいと送ってきたテープが、とても私には難解な音楽に聴こえたからで、そのことで逆にハウスミュージックというこんな愛しやすい音楽に対して、なんか難しい音楽なんじゃないかという先入観を植え付けられてしまいました。と言うわけで、なるべく簡単な楽曲を選んだつもりです。
さて、ハウスミュージックの魅力はなんでしょうか。それは、ハウスが喜びを表現するための音楽であると言うことが最大の魅力だと私は考えています。
R&BのBはブルースのBです。つまり、R&Bには黒人の悲しみが奥の方に詰まっています。Hip Hopには治安が悪かった頃のニューヨークの路上の怒りが奥の方に詰まっています。だから汚い言葉をあえて使いますし、それがかっこいいのです。パンクロックも社会への怒りですね。このように、多くの音楽は悲しみや怒りを源泉としてきました。しかしハウスミュージックはどうでしょう。リズムに合わせて身体を動かすことは、動くものの肯定であり、それはすごく大きく捉えれば生の全肯定とも言えないでしょうか。
音楽を色に例えてみましょう。フォークに色はあるだろうか。あるとすれば茶色とか、アーシー(Earthy。これはファッション用語。まあ自然界にある色って理解でOK)なカラーですよね。ロックは黒っぽいイメージ。ではハウスは何色か。ハウスは光り輝いてるし、カラフルですよね。レインボーな感じでしょうか。ハウスやクラブカルチャーがLGBTと親和性が高いのもうなづけますよね。ハウスミュージックこそが身体を動かすことの肯定であり、生の肯定、存在の肯定だと私は思っています。否定ばかりの世の中に、肯定を押し付ける音楽、それがハウスです。肯定されたがってるあなたがハウスを聴かない理由がよくわかりません。