- 運営しているクリエイター
#小説
[習作]サイカイカフェ #01 (#書き手のための変奏曲)
町の賑わいから離れたところにそのお店はあった。あることは知っていたけれど、訪れるのは初めてだ。重い木の扉に体重をかけて押すと、扉は返事をするようにきしんでから開いた。風鈴のようなドアベルが雑味のない音を響かせると、ふわりと柔らかな香りが私を迎えた。
「いらっしゃいませ」
髪をサイドテールに結った若い店員が私に気づいて近づいてくる。
「カウンターになさいますか? それともテーブル席がよろし
[習作]サイカイカフェ #02 (#書き手のための変奏曲)
さすがに汗ばむ。こんな北の果てでも夏はけっこうな気温になる。冬はけっこうどころじゃなく寒いんだから夏はもう少し遠慮したらどうなんだ。避暑のつもりで戻ってきたのにこれじゃまったく涼めない。ここはひどく狭い町なのにこじゃれたカフェがいくつもある。スターバックスもマクドナルドもない町に自家焙煎のコーヒー屋ばかり何件もある。その全部がつぶれることもなく続いている。ここの住民はそんなにコーヒーを飲むのか。
もっとみる[習作]サイカイカフェ #03 (#書き手のための変奏曲)
なんとなくまっすぐ家に帰るのを避けたかったのかもしれない。あまり意識せずに人のいない方へ、人のいない方へと歩いていたらこの扉を見つけた。珈琲と看板が出ているから珈琲の店だろう。空港に降りたときには涼しいと感じたけれど、さすがにこれだけ歩くと汗だくだ。暑さをしのげるところで一休みしたいと思ったら丁度ここに店があった。歩いて来るのにちょうどいい距離感なのかもしれない。でも冬場はどうするのだろう。雪が
もっとみる[習作]サイカイカフェ #04 (#書き手のための変奏曲)
「あっついなぁ」
大雪旭岳源水とかいう雪融け水を売ってるような町の夏がこんなに暑いなんて、きっとよその土地の人たちは想像もしないんじゃないかな。冬の景色が有名でさ。冬にあんなに雪だらけになるところの夏の太陽がこんなにキョーレツだなんてさ。思わないよねきっと。あたしだって思わない。なんで自転車で来ちゃったんだろ。なんかもうどっぷりと後悔したよね。
お店についたら店の前のところは日当たり抜群な
[習作]サイカイカフェ #05 (#書き手のための変奏曲)
部屋の中にいても体中の水分が全身から出ていこうとするような日差し。私の家は古いもんだから屋根なんか薄くって、お日様に熱せられた屋根がヒーターみたいに私の部屋をあっためる。窓全開にしても吹き抜けるのは温風。ちっとも涼しくない。こんな日に部屋にいるのは無理。だから私は喫茶店へ行く。カフェって感じじゃなくて喫茶店って呼びたいお店。傘さしてく。雨傘。この太陽の恨みみたいな日差しの中を黒い傘さして歩くって
もっとみる[習作]サイカイカフェ #06 (#書き手のための変奏曲)
朝から模型屋まで行ってよ。この町には模型屋はねえからさ。隣の。でかい町まで行くんだよ。朝からよ。距離はそこそこあるけどよ。ずっとまっすぐだし信号もぜんぜんねえから。あっちゅうまよ。そんでちょちょっとよ。買い物。すんだよ。なに買うっておまえそりゃ。パーツだよパーツ。なんのってラジコンに決まってるべさ。え? しらねえ? なんでしらねえんだよ。おらあ半年前に始めてよ。おまえ半年で100万ぐらい金飛んで
もっとみる[習作]サイカイカフェ #07 (#書き手のための変奏曲)
三か月がすぎた。標準語だと〝さんかげつ〟と読むこれを、この辺の人は〝さんかつき〟と読む。高校を卒業するとわたしはこの店でアルバイトを始めた。それから三か月。もともと中学生の頃から通っていたお店だから、なんだかもうずっと長いことここで仕事をしているような気がする。でもまだ三か月。仕事にもだいぶ慣れたけれど、まだまだ駆け出し。
この店はコーヒー屋さん。喫茶店風のお店だけれど、食事のメニューがない
[習作]サイカイカフェ#08 エンドロール(#書き手のための変奏曲)
第一話の語り手
テーブル席の女性: 戸川 綾香(とがわ あやか)
第二話の語り手
奥のテーブル席の男性:霧谷 遼(きりたに りょう)
第三話の語り手
カウンター奥の男性:宮間 澄人(みやま すみと)
第四話の語り手
奥のテーブル席の女性:奥田 優美(おくだ ゆうみ)
第五話の語り手
カウンター中央の女性:西島 絵蘭(にしじま えらん)
第六話の語り手
カウンター手前の男性:須田 義男(す