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[読書日記]忘れ物が届きます
真っ向勝負をしかけてくる。
私は、周りに注意しながら進んでいるのに、物語は手探りな手をグイっと引っ張り否応なしに振り回してくる。
今回読んだ本は、『忘れ物が届きます』という本。
昔、起きた事件。もう過去のことだけど、完全に思い出にはなっていなくて、“忘れ物”として心のなかで処理されている事柄。そんなお話が5つ聞ける本だ。物語では、これらの忘れ物を思い出として完結させていく。
真相を推理していくミステリー要素もあるが、隣の隣の隣の席の人がしゃべっているのを聞いているような感覚のため、私のなかでは人情のお話であった。
5つの物語を読んで、単に“忘れ物”といっても様々な忘れ物があるのだと感じた。
ずっと、忘れられない忘れ物。
置いてあるだけなのに、「忘れていますよ」と声をかけられる忘れ物。
そのモノへの罪悪感が止められない忘れ物。
………など。
物語と列挙した忘れ物例がリンクする訳ではないが、お話を読んでいて思うところがあった。
正直、“忘れ物”という言葉に良い思い出も感情もない。
私は、よく忘れ物をする子どもだった。忘れ物に気づくと心拍数が一気にあがった。授業が始まる前に忘れ物を申告しなきゃいけなかった。隣の人に見せてってお願いしなきゃいけなかった。それが本当に嫌だった。
私は、自分のモノへの愛着や執着が激しいと自覚している。物でも者でも。トイレに忘れたはずのお弁当袋が見つからず、そのまま個室で大号泣した経験もある。手元に無いと気づいた時の不安と思い当たる場所にそれがなかった時の絶望、なぜきちんと確認しなかったのかという後悔。何度も申し訳ない気持ちになるから嫌だ。
人生の中で物語のような大きな事件を起こしたり、巻き込まれたりしたことはないけれど、
これから、忘れ物に気づくかもしれない。
そんなとき、ちゃんと思い出に変えていきたい。
自分の辞書にある「忘れ物」が新しい意味を持てるといいな。
『忘れ物が届きます』 大崎梢/著
不動産会社の営業で訪れた家の主人が、小学生の頃の自分を知っているという。驚いた自分にその元教師が語ったのは、なぜか二十年前に起きた拉致事件の真相を巡る推理だった。当時の記憶が鮮やかに蘇る……(「沙羅の実」)。長い日々を経て分かる、あの出来事の意味。記憶を遡れば、過去の罪と後悔と、感動が訪れる。謎が仕組まれた極上の「記憶」を五つ届けます。
光文社|文庫|詳細 より(https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334773441)
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