見出し画像

No.16 “カラス”とは何を表すか? ―夏休み昆虫大特集―

 皆さまこんにちは。子どものころの夢はウルトラマンと虫博士だった、面河地区・地域おこし協力隊のくわなです。
 前回は、松山大空襲と共に渋草空襲の様子をみていきました。

(前回記事はこちら↓)

 今回はガラッと明るい雰囲気に変えてお送りしていきたいと思います。

 さて、本記事のタイトルは「カラスとは何を表すか?」としております。カラスと聞いて皆さまは何を思い浮かべますか?

 多くの方は、よくゴミ箱を荒らしていくあの黒い鳥を思い浮かべていることでしょう。他にも様々なアニメやゲームでカラスというキャラクターがいますし、沖縄の一部地域では塩辛を表すこともあるのだとか。

 そんなカラスですが、面河地区では「コクワガタ」のことをカラスと呼ぶ方が大勢います。実は、面河ではコクワガタに限らず、その他のクワガタムシにも特徴的な呼び方がある上、面河内の地域や年代ごとでも異なった呼び方がされることがあるのです。

 今回は、そんなクワガタムシ(&カブトムシ)の、面河地区内での呼び方について、可能な限り調査してきました。
 その結果をまとめてみましたので、ぜひゆっくりご覧ください。


調査したクワガタ一覧

 調査方法はいたって簡単。次の写真のようなパネルを面河にお住まいの方に見ていただき、「普段呼んでいる呼び方や、子どものころの呼び方を教えてほしい」とお願いし、回答をまとめていくというものです。

地域の方に見ていただきながら、名前を答えていただいたパネル
各写真下にあるイラストはサイズをイメージしてもらうために後から描き加えた
(令和6年5月撮影)


 普段からクワガタムシなどに慣れ親しんでいる人なら説明不要かとは思いますが、せっかくですので各番号のクワガタムシ、カブトムシの正式な和名を紹介させていただきます。

①カブトムシ
②カブトムシ(メス)
③ノコギリクワガタ(長歯型)
④ノコギリクワガタ(短歯型)
⑤ノコギリクワガタ(メス)
⑥ミヤマクワガタ
⑦ミヤマクワガタ(メス)
⑧コクワガタ
⑨コクワガタ(メス)
⑩スジクワガタ
⑪アカアシクワガタ
⑫ヒラタクワガタ


 以上の7種類12匹について、面河地区で調査を行ってきました。いずれも面河地区に生息していますが、ヒラタクワガタのみ発見例が極めて少ないです。

 ここからは上記の番号ごとに呼び方を見ていきますが、メスのクワガタムシの呼び方、およびコクワガタとスジクワガタについては、今回の調査では種類ごとの差異が確認できませんでした。よって⑤・⑦・⑨および⑧・⑩については、まとめてご紹介させていただきたいと思います。


①カブトムシ


面河山岳博物館で飼育されている個体
直前まで別の個体と組み合っていたため、前脚が曲がっているのはご愛敬
(令和6年7月撮影)

 まずは子どもたちにも大人気のカブトムシ(学名:Trypoxylus dichotomus)。国内で4種しかいないカブトムシの一種で、それらと区別するためにヤマトカブトと呼ばれることもあります。全国で見てもツノムシゲンジなど特徴的な呼び方をされることが多い本種。面河ではどのように呼ばれているのでしょうか?

 カブトムシについては、面河地区の大半で和名の「カブトムシ」と呼ばれるケースが最も多かったです。ですが、本組地区ではすべての人が「おじい」と呼んでいた他、前組地区では「ツノ」と呼んでいる方を確認することができました。
 中組地区では、60代以下の比較的若い方がおじいと呼んでいました。実は、カブトムシが一般的に子どもたちの人気者になったのは昭和30年代に入ってからとされています。その世代の子どもたちの中から、より親しみやすい呼称が誕生したと考えられます。
 本組地区・中組地区は、ともに最初期から旧面河第一小学校の校区でしたので、そこで生まれた呼び名という可能性も捨てきれませんね。



②カブトムシ(メス)


画像はフォトポットさんより

 続いてはカブトムシのメスの呼び方について。全国的にはマンジュウムシなどとも呼ばれるメスのカブトムシですが、面河地区ではどうでしょうか?

 オスのカブトムシと比較すると、和名で呼ぶケースが比較的少なくなり、「おばあ」や「ばばあ」と呼ばれるケースが多くありました。
 オスを和名で呼ぶ方でも、メスの場合のみおばあと呼ぶケースもいくつか確認できましたが、カブトムシ=オスと認識している方が多いのかもしれません。

 ちなみにカブトムシのメスにも、地面を掘るための小さなツノが付いているので、ぜひじっくり観察してみてくださいね。



 そして現在、面河山岳博物館にてカブトムシを中心とした特別展「真・カブトムシ」の展示が行われています。
 くわなも少しフィギュアなどを貸し出ししていたりするので、ぜひ開催期間中に立ち寄ってみてくださいね!(勝手に宣伝)



③ノコギリクワガタ(長歯型)

 

画像はactivity photo styleさんより

 ここからはクワガタムシに移りましょう。まずはノコギリクワガタ(学名:Prosopocoilus inclinatus inclinatus)。ノコギリクワガタは身体の大きさなどによって、大あごの形が大きく変わります。そのため後述する短歯型を違う種類と認識している方もいるほど。ここでは大きく大あごの曲がった長歯型について見ていきましょう。

 まずは広範囲で「スイギュウ」という呼び名が使われていることがわかります。特に大味川方面では、ほとんどの方がスイギュウと呼んでいました。また大味川では、本組地区のみでゲンジという呼び方が確認できました。(この呼称は渋草地区でも確認できます。)
 杣野方面では、ほぼ大字ごとに呼び方が異なっています。前組地区では「ウシ」や「ウシオイ」、笠方、相の峰地区では「コットイ」、渋草地区の一部(土泥)では「カゴメ」となっています。
 カゴメ・ゲンジ以外のすべてで「牛」にまつわる言葉が使われていたのは、大きな特徴と言えるでしょう。

 今回調査したクワガタムシの中で、最も多様な呼び方をされていたノコギリクワガタの長歯型。ほとんどの方が、たまにしか見つからないから、捕まえたとき一番うれしかったクワガタムシとおっしゃっていました。

 また赤い体色の個体を「アカスイギュウ」と区別していた方もおられましたが、このタイプはさらに重宝されていたようです。



④ノコギリクワガタ(短歯型)


画像はphotoACさんより


 続いては、先述の通り体格によって変わるノコギリクワガタ短歯型=小型種です。こちらはまっすぐに伸びた大あごに、名前の通りノコギリのような小さな突起が細かくついているのが特徴となっています。

 大味川地域のほとんどと渋草地区では、和名と同じ「ノコギリ」という呼称が使われていました。
 中組や渋草ではコスイギュウと呼んでいた方も。(アカスイギュウの呼称も確認できましたが、こちらは写真で長歯型と判断されたためと考えられます。)

 その他、前組地区では長歯型と同じように「ウシ」と呼んでいる方がほとんどでしたが、一部の前組地区の方と相の峰地区の方が「ノコバ」という呼び方をされていました。

 そして、短歯型のノコギリクワガタで最も特徴的だったのは笠方地区。若干大あごの先が曲がった中型の個体は「チンジ」と呼ばれており、さらに小型で大あごが直線的な個体を「ハサミ」と呼んでいました。
 長歯型を含めると、同じノコギリクワガタをなんと3段階の呼び方で分けていたのです。

 このことからも、いかにノコギリクワガタが人気だったのかがうかがえますね。


⑥ミヤマクワガタ

こちらは久万地区で採取したミヤマクワガタ
比較的大きな個体だったため、面河山岳博物館に寄贈した
(令和6年7月撮影)

 お次はミヤマクワガタ(学名:Lucanus maculifemoratus maculifemoratus)。“ミヤマ”は漢字で”深山”と書きますが、その名の通り比較的標高の高い地域で見られるクワガタムシです。面河地区ではノコギリクワガタよりもなじみ深い昆虫として認識されているようですが、呼び方はどのようなものがあるでしょうか?

 まずは笠方地区以外の全ての地区で「ハコイ」という呼び方が確認できた他、前組地区では「ハコ」、中組地区では「ハコクワ」という呼び方もされていました。
 特徴的な頭部の形を「ハコ」ととらえての呼称で、全国にも例がある呼び名ですが、末尾に「イ」が付くハコイという呼び方は、面河地区ならではかもしれません。

 また、笠方地区と渋草地区では「おじい」という呼び方も確認できました。本組地区でおじいはカブトムシのオスを指しましたが、地域が変わると同じ呼び名でも種類が変わってくるというのは、大変面白い発見でした。


⑧コクワガタ・⑩スジクワガタ


役場面河支所の廊下を歩いていたコクワガタ
ホコリが付いているが、元気に動く個体だった
(令和6年7月撮影)
地域の方がくわなにくださったスジクワガタ
第14回記事冒頭で臨終をお知らせした個体である
(令和6年6月撮影)

 次はコクワガタ(学名:Dorcus rectus rectus)とスジクワガタ(学名:Dorcus striatipennis striatipennis)。
 この2種はとても姿が似ていますが、決定的に違うのは内歯(大あごの内側にある突起)の形。コクワガタはまっすぐとがっているのに対し、スジクワガタは二股に近い形になっています。(図鑑によっては平行四辺形と表現されることも。)
 残念ながらこの2種、面河地区では同じ種類として扱われていましたが、その呼び方について見ていきましょう。

 ノコギリクワガタやミヤマクワガタは呼び方が混在してましたが、コクワガタ・スジクワガタについては、地区ごとではっきりと分かれていました。

 大味川の3地域では、今回のタイトルにも採用した「カラス」という呼称が使われています。推測ですが、黒い体色からこう呼ばれているのかもしれません。
 笠方地区では、大あごの突起の少なさから「ハヌケ」と呼ばれていました。理由は納得ですが、少しかわいそうな呼び方ですね笑。
 渋草地区では「ワカイシ」と呼ばれています。「若い衆(わかいし)」は若者の古い言い回しですが、比較的小さな種類であることに由来しているのかもしれません。 

 なお、前組地区と相の峰地区では皆さんそろって「見たことがない」とおっしゃっていました。ですので、石墨地区では生息数自体が極めて少ないと考えられます。



⑪アカアシクワガタ


画像はまるぼランドさんより

 続いてはアカアシクワガタ(学名:Dorcus rubrofemoratus rubrofemoratus)。その名の通り、脚の根本の部分(腿節から脛節にかけて)が赤くなっているクワガタムシです。また、大あごの先に2本の内歯があるのも特徴的です。こちらについてもコクワガタやスジクワガタと混同している方が多かったですが、一部の地域で別種として認識されていましたので、ご紹介させていただきます。

 アカアシクワガタも、コクワガタやスジクワガタと同じく、前組・相の峰地区では見たことがないということでした。
 先述のとおり、笠方地区・渋草地区・本組地区の大半では、コクワガタなどと同種と考えられていたようで、まったく同じ呼び方がされていました。

 ですが、中組地区若山地区では、わからないと答えた方以外は、「アカアシ」と呼んでいました。

 アカアシクワガタそのものが、もしかするとほとんど大味川地区にしか分布していないのかもしれません。

 コクワガタ、スジクワガタ、アカアシクワガタについては、今後も分布を含めて情報を集めていきたいなと思います。



⑫ヒラタクワガタ


画像はまるぼランドさんより

 続いてはヒラタクワガタ(学名:Dorcus titanus pilifer)。平らな身体に大あごの外歯から内歯にかけて並んだ短い突起が特徴的なクワガタです。

 ですが冒頭でもお話したように、この種は面河地区での発見例はごくわずかとなっています。一応集落付近での発見例があったということで、新たな発見例につながれば…とパネルに入れていたのですが、今回の調査では全く認知されていませんでした。残念。


⑤ノコギリクワガタ・⑦ミヤマクワガタ・⑨コクワガタのメス


こちらは久万地区で見つけたミヤマクワガタのメス
上翅が少し剥げてしまっているが、脚やあごの形はとてもきれいな個体だった
特徴的な脚の色も鮮やかである
(令和6年6月撮影)

 最後にメスのクワガタムシたちをまとめてみていきます。クワガタムシのメスについては、種類によって別の呼び方をされることはほとんどありませんでした。しかし、クワガタムシのメスを総称しての特徴的な呼び方が確認できますので、ご紹介させていただきます。

 まず、笠方地区以外の調査ができた地域全てで「チン」という呼び方がされていました。語源はわかりませんが、”ちんちくりん”や”ちんまい”(小さい)という言葉が連想できますね。

 また、笠方地区・渋草地区・相の峰地区では、「おばあ」「ばばあ」の呼称も確認できました。カブトムシをおばあと呼んでいる大味川では確認できませんでしたので、これは杣野に限った呼び方と言えるでしょう。
 
 なお、ごくわずかですが、オスのミヤマクワガタの呼び名に対応してか、ミヤマクワガタのメスのみをおばあと呼び、その他のクワガタのメスをチンと呼んでいるケースも存在しました。


まとめ

 今回の企画自体は今年に入った頃から考えており、当初は出身である本組地区での呼び方が面河地区の呼び方だろうから、それを紹介する記事を書こう…と企んでいました。
 しかし、身近にいる面河地区の皆さんの話しを聞いていると、どうやら面河地区の中でも違う呼び方がされているらしいぞ…ということがわかってしまったのです。
 そこからパネルを作成し、合計20名の方に、調査にご協力いただくことができました。

 相の木、大成、河の子は期間中に調査することができませんでしたが、それ以外の地区での呼び方分布図を作ることができ、大変おもしろい調査になったのではないかと思います。

 私以外にも調査をするまで面河での呼び方は同じ…と考えていた方は多かったのですが、面河地区の方ほど驚いているのではないでしょうか?私自身にとっても、大変驚きの結果になりました。

 今回は、私の趣味も絡んでクワガタムシやカブトムシを題材としましたが、まだまだ記録に残されていない方言が面河に眠っているかもしれません。

 これからも可能な限り、様々な言葉を残していけたらなと思いますので、皆さまからもこんな面白い方言があるよ!という情報がありましたら、ぜひお待ちしております!

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

今回の調査結果をまとめた元データ(筆者作成)
調査にご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました


【参考文献】

・世界の昆虫データブック(2005年~2007年・ディアゴスティーニ)
日本産クワガタムシ全種の学名一覧・解説 (gmobb.jp)
カブトムシ | ヤマトカブト | 昆虫図鑑 (konchu-zukan.info)


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?