読書感想:ゼンダ城の虜
年末に読み始めたゼンダ城の虜ですが、本日読了いたしました。
この小説のイントロは、
先王が死去したルリタニア国で新王ルドルフとその異母兄弟の大公ミヒャエルの間で後継者争いが起こっている
主人公の英国紳士ラッセンディル氏は就職前の旅行先であるルリタニア国で新王ルドルフと出会う
ルドルフ王は大公の策略で薬を盛られて昏睡したため即位式に出席できなくなる
大公の謀反を封じるためルドルフ王の忠臣たちは瓜二つであったラッセンディル氏を影武者にしたてる
即位式にいたのが影武者であることを察知した大公派は昏睡していたルドルフ王を誘拐し拠点であるゼンダ城に監禁する
ルドルフ王を誘拐された新王派は引き続きラッセンディル氏を影武者に仕立ててスキャンダル発覚を抑えつつ国王奪還の算段を立てる
と、ざっとこんなところです。
話の構図はルドルフ王の身柄そのものをマクガフィンにしたシンプルな争奪戦ですが、そこに影武者ラッセンディル氏がルドルフ王の許嫁フラビア姫と本気の恋に落ちてしまったり、大公派がラッセンディル氏の買収を図ったり、その大公の恋人は大公とフラビア姫との政略結婚を断つために新王派へ内通したりと、もちろん大公派の刺客団とのチャンバラもあり、山あり谷ありの展開が待ち受けていて実に面白かったです。
また、このシナリオは、黒澤明の七人の侍や用心棒と同じく、他の時代や地域、あるいは異世界を舞台にして翻案しても成立する普遍性を宿している点にも注目したいです。
例えば、これを江戸時代の日本に置き換えれば、ルドルフ王はどこかの藩主の世継ぎでラッセンディル氏は直参旗本の次男坊、大公派に属する一番の切れ者にして刺客団「六人組」のひとり、ルリタニア屈指の剣客であるヘンツォー伯ルパートはさしずめ椿三十郎の室戸半兵衛枠というところでしょうか。荒んだ色気を宿した色男然とした描写を読んでると、あの頃の仲代達矢のイメージが重なるんですよね。どっちかというと、用心棒の新田の卯之助っぽい感じもします。
三谷幸喜脚本で、時代劇版ゼンダ城ってできないものかな。あの人ならやれると思うし。
また、明清代を舞台にした武侠ものに翻案するってコースもあります。
この場合、御家騒動の舞台はある地域を束ねる郷紳か幇主といった顔役で、こちらは六人組と男主の武功の応酬に比重を置きたいところかな。
また、これが書かれたのも19世紀末ですから仕方ないかなってところもありますが、フラビア姫がどうにも主人公の助けを待つばかり、美しい人として祭り上げられてるだけのキャラクターになってしまってるのは不満でした。映画マリオでのピーチ姫のバキバキ武闘派プリンセスっぷりを拝んだばかりっていうのもありますし。
あのピーチ姫のハルバード、ゲームでクッパの橋を落とすための斧相当だと思うんですよ。ってことは、あのシーンのピーチ姫は「クッパに溶岩風呂を満喫させてやる!」って気満々だったってことになります。やっぱ今日日のプリンセスはこれくらいの覇気が欲しいところです。
閑話休題。
そのフラビア姫枠の女主を単なるヒロインではなく、大公枠の簒奪者と共に戦う同志にするってアレンジにしても良いでしょう。自ら宝剣を振るって男ども相手に大立ち回りを見せる女主は武侠には必要不可欠ですしね。
また、新王派のサプト大佐にしても、人の話なんか全然聞きゃしねえってくらい頑固な老武人枠に置き換えられますしね。
もちろん、ゼンダ城の虜からはTRPGのアイデアだって得られます。
例えばD&D。
兄嫁に「あなたいつになったら働くの?」と詰められ「そもそも僕たちは働く必要なんてない身分なんですよ」と返す主人公ルドルフ・ラッセンディル氏(29歳)という冒頭は、「おまえ人生ナメてんのか?」と言いたくなると同時に、背景:貴族のPCのモデルになりそうです。
そんなラッセンディル氏のクラスってバードが一番しっくりくるかな。
レイピアでチャンバラはやるけどファイターって感じはしない。
またレイピア使いというとローグ:スワッシュバックラーも浮かびますが、こちらは多分ルパート伯の方でしょうし。
またバードの多芸多才(言い換えると器用貧乏)っぷりは、状況に応じて単独任務もこなすし腕っぷしより口八丁で状況を乗り切るのがラッセンディル氏のスタイルですから。
また、上記の通り時代劇への翻案ができるということを考えると、元旦にも紹介した天下繚乱のシナリオにもできるでしょう。
D&Dにせよ天下繚乱にせよ、誰かゼンダ城シナリオってやってくれないかなあ。
そんなゼンダ城の虜ですが、過去何回か映画化されてもいます。
Amazon Primeでは現在見放題になっておりますので、興味を持たれた方は是非一度ご覧ください。てんぐも見ましたが、これも結構面白いですよ。